2月21日水曜日、俳優の大杉漣が亡くなった。

 数々の映画やドラマに出演し、名脇役として知られる大杉の突然の訃報に多くの人々が悲しんでいる。

ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)には交流のあった俳優や映像関係者からの追悼の言葉が多数寄せられており、その幅広い人間関係と、無名の俳優や映像関係者に対しても分け隔てなく誠実に接していた大杉の人柄が、あらためて伝わってくる。

 いわゆる国民的スターではなかったが、多数の映画やドラマに出演していた大杉は、日本人にとっては親戚のおじさんのような親しみを感じる俳優だった。日本のエンターテインメント業界において、その存在が大きかったことをあらためて実感させられた。

 そんな彼の遺作となってしまったのが、水曜夜9時54分からテレビ東京系で放送されている『バイプレイヤーズ~もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら~』だ。

 大杉が急逝した21日は第3話の放送日だったのだが、訃報がショックだったのは、本作が放送される数時間前に報道されたということもあるだろう。本作のホームページによると、「ご遺族、事務所、キャストの皆様のご意向もあり、あえて予定通り放送」したという。

●感情を揺さぶる『バイプレイヤーズ』の大杉漣

 本作は、昨年、深夜ドラマとして放送された『バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~』の続編だ。

 タイトルの通り、大杉漣、遠藤憲一、松重豊、田口トモロヲ、光石研、寺島進(スケジュールの都合で今回は不参加)という、普段は脇役(バイプレイヤー)として活躍する俳優をあえて主人公に据えたドラマだ。登場する俳優たちはすべて本人役で出演しているのが特徴で、大杉も本人役で出演していた。

 落ち着かない気持ちのまま、本放送を見た。

 先ほど亡くなったと報道された俳優が元気な姿で登場し、なおかつ本人役で出演している姿はとても不思議な光景だった。第3話は、吉田羊や板谷由夏といった女性バイプレイヤーたちの悩みを中心に描いたコミカルな回だったのだが、本編とは関係ないところで登場する大杉の姿に感情が揺さぶられてしまい、最後まで目が離せなかった。


 訃報が突然のことだったので、こちらが過剰に読み取っている部分は否めないだろうが、最後にテロップが出る以外は今まで通りの放送だったからこそ、逆に追悼ドラマのように見えてしまったのだ。

 これは、制作サイドとしては複雑なものがあるかもしれない。オープニングとエンディングでは、バイプレイヤーの面々が黒のスーツにサングラスという姿で登場するのだが、まるで喪服を着ているように見えた。

 もともと、本作は完全なドキュメンタリーではない。今回の続編では、「テレ東初の朝の連続ドラマ『しまっこさん』に出演するために離島に向かったバイプレイヤーたちが遭難してしまうところから始まる」という展開で、ストーリーはつくり込まれている。

 俳優が実名で出ているため、現実に俳優として交流のあるバイプレイヤーたちの仲の良さに説得力を与えているが、見ている印象としてはアニメのようだ。おじさん俳優たちをいじり倒すことで、アニメのキャラクターのような愛嬌のある存在として見せることに成功した。

 前作も含め『バイプレイヤーズ』は、昨年話題となった『カルテット』(TBS系)のような人間関係の心地良さが人気の秘訣だ。そのため、俳優が実名で出演していても生々しさが薄く、どちらかというと現実と切り離されたユートピアを見ているような感覚だった。

 だからこそ、今回の続編が夜10時台というプライムタイムに放送されているのだろう。おそらく、テレ東としては定期的に続編がつくられる人気コンテンツにしたかったのではないかと思う。

●映像作品の中では生きている、大杉漣や渥美清

 放送期間中に出演俳優が亡くなるということは、テレビドラマではまったくないわけではない。


 近年、印象に残っているのは『警視庁捜査一課9係』(テレビ朝日系)という刑事ドラマの人気シリーズで主演を務めていた渡瀬恒彦の死去だろう。

「season12」がスタートする直前の昨年3月に渡瀬が多臓器不全で亡くなったため、第1話では過去の映像を使用し、渡瀬が演じる加納倫太郎係長が「内閣テロ対策室アドバイザー兼務」となったことが示され、劇中に登場しないことを自然に見せていた。

 そして、今年の4月からは、部下の刑事を演じていた井ノ原快彦を主演に据えた新シリーズ『特捜9』としてスタートする。

 映画『男はつらいよ』シリーズで寅さんを演じた渥美清が亡くなったときもそうだったが、画面には映っていないかもしれないが、「物語の中では(渥美が演じる寅さんが)別の場所で生き続けている」と暗示する描き方は、見ている側に救いを与えてくれる。

 フィクションの中では、彼らは永遠の存在だ。だから、映像作品を見れば、私たちはいつでも渥美や大杉に会うことができるのだ。

 ホームページによると『バイプレイヤーズ』は残り2話で、当初の予定通り放送するという。撮影を終えていない部分の脚本上の修正は仕方ないものの、できれば改変は最小限にして、物語の中では大杉の死にはあまり触れずに、当初の構想のまま終わらせてほしい。
(文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家)

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