60歳の定年後、数年勤務を延長したら、あとは年金でリタイア生活――。高度成長時代から連綿と続いてきた、そんな就労モデルが完全に消えつつある。
上のグラフは、就業者総数とそれに占める高齢者(60歳以上のシニア層)の割合だ。就業者総数がデコボコと増減しているのに対して、高齢者の割合はひたすら右肩上がりで増え続けている。平成元年(1989年)に5%台だったが、平成28年(2016年)には男性12.6%と2倍以上だ。
シニアの中での就業率でみると、男性は60~64歳で76.8%、65歳以上は30.9%で、70歳以上でも19.9%と約2割の人が働いている。女性の場合はやや落ちるはいえ、60~64歳では50.8%と半数以上の人が働いている。高齢者の就業率が高まる傾向は、今後もさらに拍車がかかるだろう。(図7)
年金満額支給が原則65歳から(60台前半は部分年金のみ受給)になって以来、企業に65歳までの雇用継続制度導入を義務づけた措置も一段落。昨年1月からは、それまで65歳以上は新規加入できなかった雇用保険に、年齢関係なく加入できるようになり、本格的な“エイジレス社会”に突入した感がある。
一方、労働市場に目を向けると、シニアの就業志向が高まったとはいえ、転職しやすくなったわけではない。残念ながら、以前とあまり変わっていないのだ。
「有効求人倍率が常時1倍を超えているのは、介護、建設業、運輸など現場系の職種が求人倍率を押し上げているからです。事務系や管理職の求人倍率は、依然として低いままです。
私が就職した平成元年頃、高齢者の求人倍率は、0.1くらいでした。それが数倍に増えたとしても0.2~0.3ですから、厳しい実態に変わりありません」(都内ハローワーク関係者)
一方で、これまでの常識にとらわれず、求人の多い職種に目を向けたり、シニアならではの特性を生かせる職種を志望すれば、就職が容易になっているのも事実だ。
特に大きく変わったのが、行政側の対応だろう。かつて「高齢者対策」と呼ばれていた“オマケ”の就職支援が、国の政策を推進する主役に躍り出た。
2016年度から「生涯現役支援窓口」と銘打ち、主要なハローワークに55歳以上を対象にした専用窓口を設置した。さらに17年度からは全国110カ所に拡充。20年度までには全国で300カ所に増やす計画だという。
支援対象も50代から60代へとシフトしつつあり、リーフレットには「65歳以上を重点的に支援します!」と宣言しているほどだ。
しかし、65歳になってからセカンドキャリアを考え始めるのでは、あまりにも遅い。できれば50代、いや40代からセカンドキャリアを考えておく時代に入ったといえる。その手助けをしてくれるのがハローワークだ。
●ハローワークの活用法
では、具体的にハローワークでは、どんな助言をしてもらえるのだろうか。
求人検索ひとつとっても、いまや専用パソコンを使うため、わからないことだらけだ。拙著から、その具体例を紹介したい。
【ケース1】
経営不振に陥ったプラスチック加工製品製造会社を退職。営業畑一筋の元営業課長58歳。都内及び千葉で同業種の営業職を希望。少なくとも65歳までは現役続行を希望。
・ハローワーク職員のアドバイス
ご本人を目の前にすると非常に申し上げにくいのですが、年齢的なことを考えますと、ご希望通りの仕事はかなり難しいですと、最初にはっきり申し上げます。
たとえば、ご希望条件が「正社員、同業種の営業職で賃金が35万円以上」という場合、そのなかで、給料は譲れないか、正社員は譲れないか、営業職は譲れないか、優先順位の高いのはどれでしょうか、といったことからお聞きすることになると思います。
具体的な検索方法としては、職種で「営業の職業」を選択。営業でも、「不動産、保険・金融はできれば避けたい」といったご希望があれば、さらに詳細で「営業」だけに絞り込んでいかれてもいいです。
「管理的職業」はあえて指定しないほうが賢明です。就業形態や賃金、業種などの条件についても、最初はとりあえず入れないで検索してみて、ヒット件数が多すぎたら、適宜入れていけばいいでしょう。
就業場所についても、特に指定しないで「近隣の求人からさがす」でいいと思いますが、こだわりたい場合、うちの安定所では一度に2カ所の地域しか入れられませんので「東京都23区」「東京都23区以外」と「千葉」の2回に分けて検索する必要があります。
条件をあまり入れないで検索すると膨大な数の求人が出てきますが、「求人情報一覧」画面の「職種/免許資格」の列に注目してみていくのがコツです。
上から受理日の新しい順に並んでいますので、「職種欄」のところだけザーッと下へ見ていき、そこに「営業部長候補」とか「営業課長候補」「営業マネージャー」と表記されている管理職系の求人だけをピックアップ。たとえ数百件あっても、該当する求人はごく限られていますので、わりと短時間でチェックしていけます。窓口で申し出ていただければ、職員専用端末で「営業課長」「営業部長」の記載がある求人のみ出すこともできます。
この年代ですと、ご本人が「管理職にはこだわらない」とおっしゃられても、一営業部員としての採用のほうがむしろ難しいと思います。
そうやって見つけた求人のなかから、希望条件に近いものを印刷して窓口に持ってきていただければ、あとは私どもが個別に求人企業に連絡して感触を確かめますので、そのなかで反応がよいところに応募していただくといった流れになるでしょう。
●キャリアを生かした転職活動
【ケース2】
精密機械部品メーカーで人事、総務、経理・財務担当。52歳。出向していた関連会社が事業を縮小したため退職。これまでのキャリアを生かして再就職を希望。
・ハロワ職員のアドバイス
この方の場合は、まずはご希望通りに検索を進められてもよろしいかと思います。
ケース1の方と比べますと、年齢が少しお若いのと、職種の幅が広い点が有利です。
年齢について、企業側としてはどうしても「あと何年活躍してくれるのか」との観点からみてしまいますので、50代後半に近づくと数年で成果を挙げるのは難しいと判断されがちですが、50代前半であれば、そのような心配はいらないでしょう。
ただ、ケース1の方以上に、管理職系を狙うことになりますので、それなりに難しさがあることに変わりありません。
求人検索は、事務職の管理職と細かく絞り込んで検索したくなりますが、最初はできるだけストライクゾーンを広くしてみていくことが重要です。事務なら事務で探しながら、ケース1の方と同じように、管理職系を求めているところに応募するのが基本スタンスです。
具体的な検索条件の入れ方としては、職種は「事務的職業」を選択して、「詳細」から「総務・人事」「一般事務」「経理・会計・財務」を指定します。場合によっては「企画・調査」や「営業事務」も入れておくといいかもしれません。
「一般事務」は、若い女性を想定した求人が多いのですが、まれに管理職系の求人も含まれていますので外せません。事務を志望する人の共通項目といっていいでしょう。
複数キャリアのなかで、どれを優先するかはご本人次第です。直近のキャリアを優先するのが原則ですが、経験年数が長いものや、自分がいちばん得意な分野を優先されるといいと思います。
絞り込み条件は、52歳の方でしたら就業場所よりも賃金を優先。
一度希望通り賃金を入れてみて、ヒット件数を確認してみてください。
ケース1の方と違って、応募できる求人自体はたくさんあります。ところが、実際に応募しても、なかなか書類選考を通過しないのが難しいところですね。そんなときは、履歴書と職務経歴書を窓口まで持ってきていただければ、添削させていただきます。
多くの方に共通するのは、ひとつの企業に30年とか40年勤務して退職された方は、これまで応募書類を書いたご経験がまったくないことです。ご自分では「これでいい」と思われていても、客観的にみるとアピールが足りないケースがめだちます。その点を改善されると、書類選考を通過する率はアップしていくはずです。
自分の条件に合う求人がどれだけあるのかと疑問に思ったら、在職中から一度ハローワークで求人検索してみてはいかがだろうか。
(文=日向咲嗣/フリーライター)
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