先日、70代のお客さまから「今年のお正月に、友人から『終活年賀状』を受け取って……。同年代として気持ちはわかりますが、さびしいもんですね」というお話を伺った。
終活年賀状というのは、「終活の一環として、年賀状は今年で最後にさせていただきます」という文面の年賀状のことらしい。高齢になって、これまでの付き合いを見直したり、年賀状作成の負担を軽減したりした際に、送るもののようだ。ある調査によると、65歳以上の2人に1人が「終活年賀状」を受け取った経験があるという。
とはいえ、せっかくの終活年賀状も、孫の誕生などで、つい再開してしまうケースもあるらしい。長年の習慣というのは、なかなか変えられないものなのかもしれない。
ある意味、人生の終わりに向けて準備をする「終活」が、ここまで広まってきたともいえるが、終活年賀状と同じく、“断捨離”を実行するシニアも増えてきている。
●断捨離でお金は貯まる?
断捨離は、不要なモノを片付けたり、処分したりする行為だけでない。それを行うことで、何が自分に必要かを気づかせてくれる。悩み事がなくなり、気持ちが穏やかになる、健康にもつながるといった効果も期待できるという。モノにあふれた散らかった部屋で生活するよりは、スッキリ片付いた、お気に入りの品々だけに囲まれた生活のほうが気持ち良いだろう。
なかには、断捨離のメリットに「お金が貯まる」と挙げる方もいるが、確かに、きちんと家計管理ができている方のお宅は、総じてキレイだ。お金を貯める目標が明確なので、ムリ・ムダな消費をしないし、どこに何があるか把握しているため、家計簿や保険証券など「〇〇を拝見させてください」というとファイリングされたものが、さっと出てくる。
●断捨離は人生の満足度をアップさせるための手段?
シニアにとって今や断捨離は人生の満足をさせるための手段にもなるらしい。PGF生命が20~79歳の男女を対象に行った「人生の満足度に関する調査2017」によると、人生満足度を上げるために行っていることや心がけについて、「自分へのご褒美」を挙げた人が20代女性(36.5%)を中心に若い世代に多かった。
一方、「断捨離、シンプルに生活をする」は、40代女性(26%)や60代・70代女性(29.5%)で、高い割合を占めている。余計なモノを持たない、ムダのない生活がシニア女性を中心に人生の満足度をアップさせる要因ともなっていることがうかがえる。シニアにとって、断捨離がそこまで重きを置かれているのかと思うと驚きの一言だ。
●終活・片付けが心身ともに苦痛という人も
しかし一方で、「終活しなければ」「元気なうちにモノを整理しておかねば」と強迫観念に駆られ、それが精神的かつ肉体的に、ストレスになっている人も少なくないようだ。子どもや家族に迷惑を掛けたくないがために、生前きちんと身辺整理をしておくべし、といった「立つ鳥跡を濁さず」的な思想が、日本人の気質に合っているのかもしれないが、すべての人が思い切りよく断捨離できるわけではない。
とりわけ、今の70~80代のように、戦時中・戦後とモノがなかった時代を生きてきた方々は、モノを処分する・捨てるということに罪悪感すら感じてしまうのかもしれない。今年78歳になる筆者の母もそんなひとりだから、心情は良く理解できる。
さらに、シニアの断捨離の大きな障害となるのが、写真やアルバム、日記、書籍といった、簡単に処分できない「思い出の品」が多い点である。懐かしい、思い入れのあるモノに触れたり、振り返ったり。
●シニアの断捨離は、「安全・安心」をポイントに!
そこでオススメしたいのは、シニアが断捨離を実行する場合、基準として「安心・安全に過ごすため」をポイントにすることである。
たとえば、家の中にモノが多いと転倒・骨折の危険性が高くなる。国民生活センターの事故情報によると、65歳以上の高齢者は、20歳以上65歳未満の人より、住宅内での事故発生の割合が高い。しかも、事故の発生場所は、「居室」(45.0%)、「階段」(18.7%)、「台所・食堂」(17.0%)など、まさに普段の生活の場である(出所:内閣府「平成29年版高齢社会白書」)。ご高齢のお客さまのなかには、「スリッパをはいていると、転びやすいし、階段なども怖いので、全部捨てました」という方がいた。
つまり、断捨離の目的を、きちんと整理することよりも、安心・安全に留意し、健康に暮らせるスペースをつくり出すことのほうに重点を置くようにするわけだ。
●「コスト削減」も重要なポイント
また、「コスト削減」もシニアの家計にとって重要課題。これもシニアの断捨離の必要性のポイントだ。最たるものは家族が減って広くなり過ぎた「マイホーム」。これを処分あるいはリフォーム、賃貸などに出せば、かなりの節約になる。
そして「クルマ」も、保有しているだけでコストがかかる代表格。
ガソリン代や駐車場代、各種税金など、軽自動車でも年間20~30万円は必要だ。高齢者ドライバーの事故などが問題視されているなか、「安全・安心」という観点でも、クルマを手放して運転免許証を返納すべきか家族みんなで考えたい。
このほか、「固定電話」や銀行口座から引き落としされているスポーツジムや健康食品、クレジットカード、定期購入等の「年会費・会費」、「保険料」なども見直しすべき項目のひとつ。総務省「家計調査」によると、フィットネスクラブなどのスポーツ施設使用料の支出金額は、60代世帯の支出が最も多く、月額2万円以上。最も少ない30歳未満の世帯の約9倍にものぼる。
また、サプリメントなどの「健康保持用摂取品」の支出金額も、年代が高くなるにつれて増え、70代以上世帯が最も多い(月額2万円超)。最も少ない30歳未満の世帯の約10倍もの開きがある。これらの費用は口座引き落としになっているので、トータルでどれくらい払っているか把握していないケースも多い。不要な銀行口座を整理するという意味でも、一度総点検してみよう。
いずれにせよ、長い間をかけてため込んだ膨大なモノを片付けるのには時間もかかるし、体力・気力も必要だ。高齢になると、それが必要なものかどうか判断も難しくなってくる。予定通りであれば、2019年10月に消費税10%となり、さまざまなモノの価格がアップする。
(文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー)