串カツ田中は4月11日、「串カツ田中 小伝馬町研修センター店」を東京都中央区(東京メトロ日比谷線・小伝馬町駅から徒歩2分の場所)にオープンした。
同店は従来の店舗とは大きく異なり、新人が中心となって運営する。
筆者はオープン初日に同店を訪れてみたが、なぜ串カツ田中が急成長しているのかをすぐに理解することができた。それは、同店の串カツがほかの串カツ田中の店と同じおいしさだったからだ。訪れる前は、新人がつくった串カツに多少の不安があったが、それは杞憂に終わった。
おいしい串カツを低価格で食べられることが串カツ田中のコアとなる価値だが、新人が中心の店舗であっても、ベテランが中心の店舗と同様のおいしい串カツを提供できることは、串カツ田中の価値であることがわかった。これは非常に重要なポイントだ。
串カツ田中では、腕の立つ職人を必要としない。串カツは串打ちした食材に衣をつけて揚げるだけのシンプルな料理のため、素人でも簡単に調理できる。さらに、つくり方はマニュアル化されていて、調理経験がなくても1カ月程度あればプロの味を再現することが可能だという。
これだけの短期間でプロレベルの料理を提供できるということは、他店ではなかなか考えられないことだろう。素人でも調理技術を習得しやすいため、新人が中心の店でもおいしい串カツが食べられるというわけだ。
調理以外でもマニュアル化が徹底されていることもあり、串カツ田中の売上高販管費率(経費率)は、飲食業界のなかではかなり低い水準にある。2017年度の販管費率は54.3%だった。たとえば、今勢いがある鳥貴族(63.0%)や、日高屋を運営するハイデイ日高(61.3%)と比べてみると、串カツ田中の販管費率の低さのほどがわかる。
また、串カツ田中は販管費率が低いため、利益率が極めて高い。17年度の売上高営業利益率は7.0%にもなる。これは、飲食業界では極めて高い数値だ。ハイデイ日高(11.5%)はさらにずば抜けて高いので及ばないが、鳥貴族(5.0%)より高い。
ハイデイ日高より販管費率が低いのに営業利益率で劣っているのは、串カツ田中は売上原価率が高いためだ。ハイデイ日高の27.2%に対して、串カツ田中は38.7%で、11ポイント以上も高くなっている。ちなみに、鳥貴族は32.1%だ。
売上原価率の業界平均は30%程度といわれている。38.7%の串カツ田中は業界平均よりもだいぶ高いことになるが、これを1つ当たりの商品で考えた場合、売上原価に対しての販売価格がより低く抑えられていることが大きく影響しているためと考えることができる。
串カツ田中は、新人中心でも運営できるビジネスモデルのため、かかる経費が少なくて済み、その分、価格を抑えることができる。また、利幅を確保することもできるというわけだ。
新人中心で運営できるメリットは、ほかにもある。多店舗展開が容易になることがそのひとつだろう。多店舗展開するには当然、運営するための人員が必要になる。また昨今は、飲食業を中心に人手不足が深刻化しているため、人員を確保することは従来とは比べ物にならないぐらい重要な経営課題となっている。そうしたなか、新人中心でも運営できるというビジネスモデルは大きな強みになる。難しい調理を敬遠する人などを取り込むことが容易になるためだ。
●値上げをするかどうかが焦点
ここで、串カツ田中のことをあまり知らない方のために、簡単に同店のこれまでの歩みを紹介したい。
串カツ田中の1号店は、08年12月に東京都世田谷区でオープンした。23区内ではあるものの、繁華街ではなく、必ずしも好立地とはいえない場所にあった。
串カツは、昔から大阪の下町で愛され、よく知られた食べ物だったが、それ以外の地域ではあまり馴染みがなかった。串カツ田中は、そんな串カツをそのまま東京に持ってきて売り始めたわけだが、同業種の競合が少なかったことや、大半の串カツが100~120円程度と低価格であること、他店にはないオリジナルのソースや衣、油があることなどが理由で、大いに受けることとなった。
その後、関東圏を中心に店舗網を広げていき、17年11月期末時点で店舗数は166店にもなった。特に12年11月期以降の伸びが大きく、1年当たり20~30店の出店を行っている。今期は例年を大きく上回る55店を出す計画だ。今期以降も年間55店程度の出店を行っていく方針で、目標とする「全国1000店体制」を早期に実現したい考えだ。
串カツ田中の業績は好調だ。17年11月期の単独決算は、売上高が前年比39.2%増の55億2900万円、本業の儲けを示す営業利益は同22.4%増の3億8700万円だった。新規出店で38店が純増したほか、既存店売上高が2.7%増えたことが寄与した。客単価は下がったものの、客数が大きく伸びている状況にある。
さらに、近頃の株価も堅調だ。
4月4日発表の3月度月次報告によると、3月度の既存店売上高は前年同期比2.1%増だった。17年12月から18年2月までだと同3.7%で推移している。こうした状況を投資家は好感しているようだ。
串カツ田中の好調はしばらく続くだろう。そうしたなか、値上げを行うかどうかが当面の焦点となる。飲食業界で値上げが相次いでいるためだ。また中長期的には、1000店体制を達成するのはいつになるのか、年間55店の出店を維持できるのかが焦点となるだろう。串カツ田中の今後の動きに関心が集まる。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)
●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。