コンビニエンスストアにはない新鮮な肉や野菜が豊富に揃うスーパーマーケットは、庶民の生活に欠かせない存在だ。全国各地には、イオンやイトーヨーカドーのような大型チェーンだけではなく、近隣住民にしか知られていないスーパーも多くある。
関東に11店舗しかないにもかかわらず、インターネットやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で話題を集めるなど、異色のスーパーとして注目されているのが「スーパーみらべる」だ。なぜ今、みらべるが人気なのだろうか。
●ドンキのような圧縮陳列&謎の品揃え
みらべるとは、どのようなスーパーか。外から見た店舗の特徴は、ご覧のように赤をベースにした派手な看板だ。
「スーパーみらべる」という大きな文字の頭に、緑色の奇妙かつ独特なテイストのイラストが描かれている。これは、伯爵夫人をイメージしたものだという。
店内に入ると、目に飛び込んでくるのは、その日の目玉商品がうず高く積まれたダンボール。「どこかで見たような光景だ」と思ったら、これは“驚安の殿堂”をうたう「ドン・キホーテ」が取り入れている圧縮陳列に近い商品の並べ方だ。
鮮魚コーナーも、なかなかのインパクトである。迫力あるビジュアルのこの鮮魚は、尾頭付きの黒鯛。ちなみに、みらべるには店内で鮮魚をさばいてくれるサービスもあるようだ。
さらに、精肉コーナーもほかのスーパーとは一味違う。
SNS上では、この独特の品揃えや商品説明を写真で伝えて盛り上がる人たちが多い。
●若い主婦を助ける豊富な精肉、写真のないチラシ
実際に店舗を訪れてわかったのは、陳列される商品が一般のスーパーとは一線を画していること。しかし、そのほかには、これといって大きな特徴があるようには見えない。では、なぜみらべるはSNSで話題になるのだろうか。
「確かに、みらべるは何か突出した特徴を持ったスーパーではありません。強いて言うなら、あの品揃えが若い世代の主婦に“刺さる”ということが挙げられると思います」と話すのは、全国のスーパーを年間1000店舗訪れている、ショッピングアドバイザーの今野保氏だ。
実は、若い主婦にとって精肉の品揃えは非常に重要なのだという。
「主婦がスーパーに足を運ぶときは、今晩のメニューに困っている場合も多い。そこで重要となるのが肉類です。肉は簡単に調理ができるので、『困ったときの肉料理』といわれるほど主婦の強い味方なのです。その点、みらべるは精肉に力を入れているので、主婦にとって魅力的なのではないでしょうか」(今野氏)
みらべるには、豚バラ肉などごく普通の食材も豊富にあるが、店舗によっては「豚ちちかぶ(おっぱい)」といった激レアな精肉が並ぶこともあるという。
そして、みらべるのもうひとつの強みは「安さ」だ。
「そのスーパーが何を強みにしているかは、チラシを見れば一目瞭然です。みらべるのチラシは1色刷りで写真がなく、ほぼ商品名と値段のみ。しかも、商品名より値段のほうが大きく印刷されているので、アピールポイントが『安さ』にあることがわかります。このチラシの手法は1980年代に流行したのですが、今も続けているスーパーは珍しいでしょう」(同)
●大手にできない“個店主義”で地域に密着
希少部位の肉類が並ぶ品揃え、節約家の主婦にアピールする安さ……これらを可能にするのは、みらべるが“個店主義”のスーパーだからだという。
「みらべるは、仕入れから価格設定までを各店舗に任せています。そのため、店舗によって品揃えや売り場構成、POP広告の内容までまったく異なります。おそらくは、店舗ごとに地域の人たちが求める商品をマーケティングし、それによって地元の固定客をつかんでいるのでしょう」(同)
確かに、地域住民のニーズを的確につかんだスーパーは地元になくてはならない存在となる。ただし、簡単そうに見える個店主義だが、実際はどのスーパーにもできることではないという。
「“個店主義”には、『30店舗以上になると経営が難しくなってしまう』という特徴があるのです。
みらべるは東京と埼玉に11店舗を展開するのみ(2018年1月現在)。小規模経営だからこそ、地域の人々に密着した細やかなマーケティングが可能となるわけだ。
●「レジに固定客」をつくる大阪のスーパー
地方には、みらべるのような個店主義で成功しているスーパーがほかにもあるという。やはり、いずれも5~6店舗ほどの小規模経営だ。
「POPに描く内容を工夫したり、おもしろさを重視した店内放送を流してみたりと、さまざまな施策を試みて集客につなげている店がたくさんあります。大阪のスーパーには、レジ担当にお客さんとコミュニュケーションを取らせて、レジに固定客をつくるように指導している店も多いですよ」(同)
ちなみに、ここでいう「コミュニケーション」とは世間話ではなく、料理のレシピなど地域の買い物客にとって有益な情報を与えること。そうしたコミュニケーションができなければ固定客がつかないため、地方の個店主義のスーパーでは、レジ担当がより多くのレシピを知っておく必要があるそうだ。
こうした手法は、レジ担当に回転率を上げることを求める大手スーパーでは難しい。
「地方のスーパーには、『近所のおばちゃんが何を食べているのかがわからなくなったら、商売ではない』という信念の下で、あえて店舗数を拡大しない経営者もいます。客の取り合いが熾烈を極める地方のスーパーには、生き残るための“答え”を持っている店が多いんです」(同)
昨年、イオンの総合スーパー部門は既存店売上高が業界平均を下回るなど、その不振ぶりが報じられた。これが意味するのは、もはや本社が主導する従来型の経営ではスーパーの集客は難しいということではないだろうか。
今野氏は、こうした地方のスーパーのレジ担当のコミュニケーションを「みらべるも取り入れるべき」と提言する。
「今、スーパーが生き残るために必要なのは『楽しく買い物をしてもらう仕掛け』です。毎日行くスーパーがつまらない場所では、どれだけ値段が安くても行かなくなってしまいます。みらべるも一部の店舗では導入しているようですが、POPにレシピや食材の豆知識などの有益な情報を描いたり、お客さんが何に困っているのかを直接聞いてサポートしたり……。こうした工夫を全店で徹底すれば、より洗練された店づくりができると思いますよ」(同)
SNSで話題になることの多い、みらべる。今後も存在感を高めていけば、イオンやイトーヨーカドーを脅かす日が来るのかもしれない。
(文=谷口京子/清談社)