私が週末の買い物によく利用しているイトーヨーカドー大井町店の食品売り場が、大きく様変わりした。従来は地下1階のワンフロアで生鮮食品からお惣菜までを扱うオーソドックスな食品売り場だった。

現在は、イートインを充実させた惣菜売り場の拡大版と外食テナントが1階に配置され、地下1階の食品売り場とは切り分けられた。もともと1階にあった靴や鞄、トイレタリーなどの売り場が2階以上のフロアに振り分けられた。

 この改装、昨年からよく耳にするグローサラントの展開だろうかと注目している。グローサラントとは、食料品店の店内で食事を提供する業態のことで、食料品店を意味する「グローサリー(Grocery)」と「レストラン(Restaurant)」を掛け合わせた米国発祥の造語である。店で販売している食材を使って、工場ではなく店のキッチンで料理をつくり、そのまま店内で飲食できるという仕組みだ。

 この動きは、米国の食品スーパーでは、いまや主流となりつつある。日本でこの言葉が流通し始めたのは2017年の初め頃からで、昨年、実店舗として出現したのは、成城石井のトリエ京王調布店、イタリア食材専門のイータリーグランスタ丸の内店、ヤオコー川越南古谷店などで、今年に入っても実験店舗が続々と登場している。

 イトーヨーカドー大井町店は、3月に大幅に食品売り場を改装し、5月中には外食テナントの導入を含め、全体が完成する見込みである。1階の入口には「Ooimachi-DINER」の看板が掲げられている。ダイナーとはアメリカのプレハブ式のレストランのことだ。

●きっかけは米国からの「流行」の導入だが、日本ならではの事情も

 グローサラントが日本で採用されたきっかけは、米国で流行するスタイルの輸入だが、重要なのは日本ならではの事情であるという点だ。日本では、人口減、高齢化により食事をつくる機会が激減している。
内食、中食、外食のなかで、家で素材から調理する内食は減少の一途をたどり、外食も伸びていない。日本で唯一、伸長しているのが調理済みの料理を扱う中食だ。内食の減少に苦しむ食品スーパーが、中食を拡張するためにグローサラントに着目したというわけだ。

 コンビニエンスストアのレジ横に並ぶ食品も、おでんや唐揚げ、焼き鳥など、ファーストフード領域から中食領域へとどんどん浸食してきている。そんななかで、食料品店は消費者の胃袋をどう掴むのか。その競争は熾烈だ。グローサラントは、食品スーパーの拡張策というよりも、生き残り策にほかならないのが日本の実情だ。

 事実、大井町駅周辺でいえば、阪急百貨店大井食品館がデパ地下的な中食を昔から展開している。駅ビルにはアトレ大井町があり、その1階には成城石井を含むフードとベーカリーのテナントが入っている。駅周辺のファーストフードやラーメンのチェーン店も入り混じって、食の激戦区の様相である。

 さて、実際にイトーヨーカドー大井町店はどう変わったのか。その中身を見てみよう。
ちなみに、米国発祥のグローサラントを構成する要件は次の通りである。

(1)食材・素材へのこだわり、品質を強くアピール
人の健康はもとより、地球環境やフェアトレードなどへの取り組みも重要。
おいしさ以上に、その店の考え方や姿勢が問われている。

(2)併設のキッチンでの出来立て、つくり立て感
従来のスーパーのお惣菜では物足りない。本格的な調理、作り立てのおいしさが重要だ。こだわりや工夫、選ぶ楽しさが求められている。
 
(3)人気の外食店の看板を活用して集客力をあげる
外食で人気のテナントをフードコートに取り込む。

●食の過剰供給に拍車

 生まれ変わったイトーヨーカドー大井町店をチェックしてみると、まず「Ooimachi-DINER」と命名された1階は、調理済み料理に焼き立てベーカリー、人気の外食チェーン店を組み合わせ、広々としたイートインスペースを備えている。惣菜売り場では、大型のテレビモニターで調理風景を映し出し、食材から揚げ油、調味料に至るまで品質にこだわる姿勢をアピール。ガラス越しに実際のキッチンも公開し、調理の様子を利用客に見せ、つくり立ての魅力で引き込もうとしている。

 品目と内容はというと、従来通りの「寿司」→「コロッケ、とんかつ」→「焼き鳥」→「天ぷら」とお惣菜ではお馴染みのラインナップが続くが、中身は改装前より質・量ともに充実を図っている。ただ、店で売っている食材をその場で調理するという、グローサラントのライブ感、出来立ての醍醐味が今ひとつ伝わってこない。


 一方で目を引くのは、スペースに余裕ができた地下1階の食品売り場である。もともと、イトーヨーカドー大井町店は、使い勝手が良く安心して買い物できる店だったが、正直、売り場は狭くて、少々古い印象もあった。それが今回の改装によって、売り場に余裕ができ、通路も広くなり、明るくなった。生鮮3品(野菜、肉、魚)はもちろん、加工食品も調味料も格段に棚が広くなり、品揃えが充実している。たとえば、冷凍食品からアイスクリームへと続く冷凍ケースの長さと大きさは、米国の食品スーパーを彷彿とさせる。スペースの余裕は、「低糖質」「グルテンフリー」「腸活」などの健康特化型の売り場や、お酒とおつまみの専用コーナーなどを生み出している。

 改装後、何度か足を運んでいるが、明らかに集客力は上がっているように見える。5月25日オープンと告知されている外食テナント「いきなりステーキ」「一風堂」に「マクドナルド」ができれば、さらに賑わいが増すだろう。

 しかし、ここで考えておきたいのは、食料品にまつわるすべての売り場面積が1.2倍から1.5倍程度に拡大している(ように見える)点だ。もともと、食品スーパーが直面する最大の課題はオーバーストア、つまり商圏に対して需要より供給が過剰になるほど出店していることだ。

 その解決策としては、むしろ品数を絞り込んで付加価値の高いサービスを展開し、利用頻度と客単価を上げることが求められる。グローサラントの導入はまさに、来店頻度と客単価の向上を狙ったものだろう。


 ただ、今回の改装によって結果的に、食品売り場のスペースは拡大し、取り扱う品数も増えている。利用客としては、品揃えが拡充してうれしい限りだが、果たしてこれだけの食品を誰が買い、食べるのか。大井町商圏の消費者の胃袋が1.2倍から1.5倍に拡張されるわけではないので、先述した近隣の競合店からどれだけ顧客を奪取できるかが勝負のポイントになるはずだ。大型グローサラントの登場で、食の過剰供給に拍車がかかるともいえる大井町駅周辺の今後に注目していきたい。
(文=山田まさる/インテグレートCOO、コムデックス代表取締役社長)

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