居酒屋チェーン「塚田農場」を運営するエー・ピーカンパニーの業績が悪化している。

 5月15日発表の2018年3月期決算は、売上高が前年比0.9%減の257億円、最終的な儲けを示す純損益が2.5億円の赤字(前期は1.2億円の黒字)だった。

前の期の17年3月期に前年比18.9%増の大幅増収を達成するなど、これまで右肩上がりで成長してきたが、ここにきて減収・最終赤字となってしまった。同社は経営の危機に直面しているといえるだろう。

 主力の塚田農場を含む外食事業の既存店売上高と客数の減少が止まらないことが業績悪化に大きく影響している。14年5月から18年4月まで48カ月連続で前年同月を下回っているのだ。直近4月の売上高は前年同月比7.6%減、客数は同6.6%減となり、客離れが止まらない状況にある。

 塚田農場は、宮崎や鹿児島、北海道などにある自社農場および契約農場で育てた地鶏を、農協や問屋などを通さずに流通させることで中間流通コストを削減し、それにより鶏料理などを安く提供する「生販直結モデル」を採用していることで知られている。「宮崎県日南市・日向市 塚田農場」「鹿児島県霧島市 塚田農場」「北海道シントク町 塚田農場」の3業態を展開している。

 来店回数に応じて肩書が変わる「名刺システム」も有名だ。初めて来店した客は「主任」と書かれた名刺を渡され、2回目の来店で「課長」、5回目で「部長」に昇進し、肩書に合わせたサービスが受けられる。また、「ジャブ」と呼ばれる、店員が一定の範囲の金額を使って独自のサービスを提供するシステムも売りだ。女性従業員が浴衣を着て接客するのも特徴的だろう。

 塚田農場は07年より「宮崎県日南市 塚田農場」のブランドで出店を開始した。
本格的な地鶏料理や独特のサービスが消費者に受け、全国に地鶏ブームを巻き起こし、勢いに乗じて店舗網は一気に拡大した。しかし、同じく地鶏料理を提供する居酒屋「山内農場」が12年に誕生するなど類似業態が増えたほか、「鳥貴族」など手頃な価格で鶏料理を提供する居酒屋が増えたことなどで競争が激化し、塚田農場は急速に競争力を失っていった。

 価格の高さも競争力を失った要因だろう。たとえば、「宮崎県日南市 塚田農場」の名物料理「みやざき地頭鷄(じとっこ) もも焼 / じとっこ焼き」の価格は現在、小サイズで880円、中で1220円、大で1890円となっている。決して安くはない。料理メニューは1品380円以上のものがほとんどで、500円を超えるものも少なくない。アルコール飲料は1杯390円以上のものがほとんどだ。

 塚田農場では当初、客単価を3800円に設定していた。先述したとおり、塚田農場は中間コストを削減できるため、一般的な地鶏居酒屋よりも低価格帯に属するのだが、大衆居酒屋のなかでは高価格帯となるだろう。当初は大きな競争相手がいなかったこともあり、価格の高さはそれほど問題にならなかったが、競争が激化するにつれて価格の高さが目立つようになり、塚田農場の競争力は急激に低下してしまった。

 客単価は下落の一途をたどっている。16年ごろには3500円にまで低下した。
それ以降も下落が続き、現在もとどまるところを知らない。客単価の下落も売り上げ減少の要因となっている。

●景品表示法違反で消費者庁から措置命令

 競争力を失ったことから、塚田農場の店舗数は16年ごろに頭打ちとなり、以降は横ばいで推移し、現在は約140店にとどまっている。エー・ピーカンパニーは、客単価が3800円と高額であっても塚田農場を350店まで拡大できるとみていたが、現状に鑑みると到達は難しいといえるだろう。

 同社は塚田農場が高価格ゆえに不振に陥っている面があるとみて、客単価が2000円程度という低価格の焼き鳥居酒屋を新たに開発した。立ち飲みの「やきとりスタンド」と、座り飲みの「やきとりスタンダード」がそうだ。しかし普及は進まず、両業態の店舗数は現在約10店にとどまっている。

 厳しい経営状況から脱却を図ろうとしたからなのだろうか。エー・ピーカンパニーは5月22日、塚田農場が「チキン南蛮」などのメニューでブロイラーを使用していたのに、地鶏を使ったかのような不当な表示をしたとして、消費者庁より景品表示法違反(優良誤認)に基づく措置命令を受けた。

 同庁によると、同社は17年4月から8月まで、塚田農場のメニュー表の表紙に「地鶏一筋」と記載した印影を掲載し、メニュー表内で「地鶏は野生の旨味」「在来鶏の血統『地鶏』はほんの一部」「限られた農家しか生産が許されないみやざき地頭鶏」などと記載していたという。

 また、「みやざき地頭鶏」と称する地鶏の写真のほか、「みやざき地頭鶏」と称する地鶏が雛センターなどで育成されてから店舗で料理として提供されるまでの流通過程を示した図などを掲載していた。

 一連の表記により、あたかもすべての料理に地鶏を使用しているかのような表示となっていたが、実際は「チキン南蛮」「月見つくね」「塩つくね」にブロイラーを使用していたという。


 消費者庁は、実際のものよりも著しく優良であると示したとして、景品表示法に違反すると判断し措置命令を出した。エー・ピーカンパニーは「誤解が生じないよう表記を徹底するよう、再発防止に取り組む」とコメントし、すでにメニューを改め、払い戻しなどの対応を進めているという。いずれにしても、同社はお粗末な騒動を引き起こしたといえるだろう。

 このように、エー・ピーカンパニーは厳しい経営状況が続いているわけだが、ただ手をこまねいているわけではない。

 同社は3月、東京・中目黒に「みやざき地頭鶏」の焼き鳥を提供する新業態「焼鳥つかだ」の1号店をオープンした。塚田農場の旗艦店と位置付け、ブランド立て直しの第一歩としたい考えだ。日本を代表するクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏が店舗の外装やインテリア、食器などをデザインした。

 焼鳥つかだの客単価は4500~5500円を想定しており、塚田農場よりもやや高めとなるが、焼鳥つかだで提供するノウハウを塚田農場にも導入し、ブランド力の底上げを図りたい考えだ。

 はたして塚田農場とエー・ピーカンパニーは立ち直ることができるのか。今後の展開に注目したい。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

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