覚醒剤で逮捕4回、通算服役12年――そんな経歴を持つ中野瑠美さんが、知られざる女子刑務所の日常をコミカルな筆致でつづったのが『女子刑務所ライフ!』(イースト・プレス)だ。

 本書の中では、イジメや高齢化、性の問題まで、“獄中のリアル”がぶっちゃけられている。

塀の外からは決して垣間見ることのできないムショの世界について、中野さんに聞いた。

●暗くて悲惨だけど“おもろい”ムショ生活

――5月にイースト・プレスから『女子刑務所ライフ!』というエッセイを出版されました。女子刑務所の赤裸々な生活がつづられていて、とても興味深いです。

中野瑠美さん(以下、中野) ありがとうございます。「ちょっとおもろい女子刑務所」の本はあまりない気がしていたので、そういうものを目指したいと思っていました。

――確かに女子刑務所に関する本は暗く、悲惨なイメージがあります。

中野 まぁ、実際に暗くて悲惨なところでしたけどね(苦笑)。陰険なイジメもありますし。でも、それだけじゃなくて、ムショの生活のおもろいところや困ったところについて書いておきたいと、前から思っていたんです。

 それで、時々「元女囚」としてテレビに出させていただいていたところ、「サイゾーウーマン」の編集者さんからお声をかけていただき、コラムを書かせていただくことになりました。『女子刑務所ライフ!』は、そのコラムをまとめたものです。

――コラムも人気だそうですね。
刑務所の生活だけではなく、芸能人の覚醒剤問題などについても書かれています。

中野 はい。特に、大好きな清原和博さんについては、つい書いてしまいますね(笑)。清原さんに限らず、「人生は何度でもやり直せる」という思いもあります。

●失恋のショックで覚醒剤を使用…幻覚や妄想も

――通算12年の服役は覚醒剤事件によるものだそうですが、覚醒剤を使用していた過去も隠されていませんね。

中野 事実ですから。最初に逮捕されたのは23歳のときで、懲役2年6月の判決を受けたのですが、このときは執行猶予がつきました。でも、その後にまた覚醒剤で逮捕(パク)られて、合計で12年間の服役生活を送りました。

 過去は過去として向き合いたいし、私の経験を生かして、今も覚醒剤やアルコールの地獄から抜け出ることができない人たちの力になりたいと思っています。それに、今の懲役(収容者)は半分近くが覚醒剤がらみらしいですしね。塀の中で知り合ったコたちも、たいていはシャブでした。

――覚醒剤に手を出したのは、なぜだったんでしょうか?

中野 直接の原因は失恋ですね。
当時のカレに裏切られて何もかも嫌になったんですが、好奇心もありました。その頃の私はすでにバツイチで子どもがいましたが、自暴自棄になって手を出してしまったんです。

 最初の頃は、「多幸感」というそうですが、「シャブって、こんなに楽になるんや……」とびっくりしました。失恋はもちろん、つらいことは全部忘れられましたね。でも、そんなのは最初だけ。慣れてしまうと、一瞬は気持ちいいけど、すぐに戻ってしまうようになります。効いているうちはいいけど、切れるとしんどくて何日も寝込むんです。

 幻覚も見えました。マッチなどのモノが話しかけてきたり、電柱が人に見えたり。あとは、毎日「警察官が突入してくる」とか思っちゃって……。「存在しない敵」と日々戦っていましたよ。それで、しんどいし不安だから、また使う。
その繰り返しです。お金はなくなるし、体もどんどん蝕まれていきます。

 すぐにバイ(密売)もするようになって、知らないうちに周囲が覚醒剤使用者のグループだらけになっちゃったんです。

――シャブを買うお金のために密売や売春をするケースは多いようです。

中野 そうなんです。私はバイだけですが、始めるまでに時間はかからなかったですね。出身地の大阪は不良の町でもあるし、私のセールス能力はハンパなかったですよ。「売り子」という子分も増えて、隠し通帳には毎日毎日、100万円単位でお金が入ってきていました。

――儲かってしまうと、なかなかやめられないですよね。周囲との関係は変化しましたか?

中野 そうですね……ポン中(覚醒剤中毒者)の知り合いは増えましたが、昔からの友だちは去っていきました。でも、その頃はシャブで頭がおかしくなっていたので罪悪感はなく、犯罪が当たり前になっていたんです。周囲はシャブの売人だけでなく、窃盗団や詐欺師などの犯罪者ばっかり。


「どうせいつかは逮捕(パク)られるんやから、今のうちに楽しんどこ」くらいの感じで、むしろ「忠告したり去っていく友だちなんか、ホンマのダチと違う」みたいに考えていましたね。昔の友だちのなかには、私がシャブの地獄と塀の中から戻ってきた今でも、信じてくれない人も多いです。自業自得ですが、寂しいですね。

●高級車のナンバー偽造で初の逮捕

――初めての逮捕は23歳と、まだお若いときですね。

中野 いちばん若くてきれいなときを、ほぼ塀の中で過ごしました。直接のきっかけは、シャブではなく高級車のナンバープレートの偽造でした。高級車を盗んで、偽造プレートを付け替えるんです。1枚5万円くらいで。

 最初は偽造とは知らなくて、「へぇー。ナンバープレートってこうやって付けてるんや……」なんて思っていました。今もですが、そういうことにうといんです。それで、つくったプレートを売るのに待ち合わせたラブホテルで取引相手に通報されました。
取引相手がお金を持ってこなくてモメてしまい、匿名で警察に通報したんですね。あとで刑事さんに聞いたら、匿名で「○○というラブホの□□号室で女に脅されている」と電話があったそうです。

 私はそんなことも知らず、部屋でひとり待っていました。夕方くらいにドアチャイムが鳴ったのでドアを開けたら、警察官が10人くらいダダダッと入って来て「動くな!」と。このとき、覚醒剤も30gくらい持っていたので、そのまま御用となりました。

――なるほど。別件で逮捕されてしまったんですね。

中野 そうなんです。この逮捕の勾留中に、シャブの禁断症状もデビューしました。体中がしびれて動かないんです。苦しくて苦しくて、殺される夢や追われる夢ばかり見てうなされていました。

――このときは執行猶予で、その後にまた逮捕されています。


中野 はい。執行猶予期間中でした。自分で言うのもアレですが、薬物犯罪は初犯の執行猶予はいらないと思いますね。このときは鳥取県まで覚醒剤を渡しに行くことになっていて、相手の都合で取引が翌日になったので、その晩は鳥取に泊まったんです。

 ホテルの部屋で寝ていて、夜中にドアがガチャガチャッて鳴ったと思ったら、やっぱり大勢の刑事さんが「動くな!!」ってなだれ込んできました。

「アカンもん出さんかい!」

 怒鳴りながら、私のツレの男を全裸にして四つんばいにさせました。ベッド脇のテーブルには、私の下着と翌日の取引に使う100gの覚醒剤が入った袋が置いてあります。これが見つかったらまずいので、私はとっさに全裸になりました。

「私も検身すんやろ?」

 マッパでズズズッと距離を縮めていくと、さすがに刑事さんたちもお手上げです。

「わ、わかった。もうええ。服を着てくれ」

 してやったりと私はテーブルに手を伸ばし、下着と覚醒剤の袋を取ってトイレに行き、覚醒剤はトイレに流して証拠隠滅。これが見つかっていたら、かなり罪が重かったと思います。

 このときは、別に持っていた私の使用分で2年、そして執行猶予期間中だった前回の刑を合計して4年半の刑を岩国刑務所で務めることになりました。普通は自宅に近い施設に行くのですが、このときは捕まったのが鳥取だったので、山口県の岩国刑務所に収容されました。岩国は開放的な感じで、面会場所もカフェテリアみたいなところでした。でも、家族はみんな大阪ですから、面会は大変だったと思います。子どもたちは母が預かってくれました。

 それでも懲りずに、この後2回もムショに行くことになってしまいました。私が懲役に行ったせいで、息子たちも学校でトラブルを起こすようになるなど、家族に迷惑をかけてしまい、私は「次に出所したら、もう二度とシャブに手を出さない」と誓ったんです。更生できたのは、家族のおかげです。感謝しています。

――ありがとうございました。

 後編では、刑務所内の「芸能人」や食事について、さらに中野さんのお話をお伝えする。
(構成=編集部)

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