フリーマーケットアプリ「メルカリ」を運営するメルカリは6月19日、東京証券取引所の新興企業市場マザーズに華々しいデビューを飾った。

 取引開始直後から買い注文が殺到。

午前11時過ぎ、3000円の公開価格に対して5000円の初値が付いた。後場にはストップ高の6000円まで上昇する場面もあったが、5300円で初日の取引を終えた。取引金額は、トヨタ自動車などリーディングカンパニーを上回り、全市場でトップに立った。終値での時価総額は7172億円。他社を大きく引き離してマザーズ上場企業で首位となった。

 企業価値が10億ドル(約1100億円)以上の未上場企業を、伝説の生き物に例えて「ユニコーン(一角獣)」と呼ぶ。メルカリは創業から3年でユニコーンとなった。

 その後は、さすがに利益確定売りが出て、6月22日には4550円(260円安)まで下げた。その後、4日続落し、25日には一時、4195円まで下げ、終値は4270円(280円安)。連日の安値更新だ。26日も4166円(105円安)と一時、安値を更新したが、その後、反発し、4545円(275円高)で取引を終えた。

●山田進太郎会長

 創業者の山田進太郎会長兼最高経営責任者(CEO)が保有する株式(4084万株)の評価額は2164億円となり、大富豪の仲間入りを果たした。


 山田氏は愛知県瀬戸市の出身。弁護士の父と税理士の母に育てられ、会社員として働くことは考えていなかったという。中高一貫の進学校、東海中学校・高等学校を経て、早稲田大学教育学部に進む。在学中に、楽天でインターンシップとして、楽天オークションの立ち上げなどを経験。イベントを企画するサークル、早稲田リンクスの代表として手腕を発揮した。

 卒業後は起業家の道を歩む。2001年、ウノウというインターネットサービス会社を立ち上げ、制作したゲームがヒット。同社を米国のネットゲーム大手、ジンガに譲渡し、ジンガの幹部に就任するが、窮屈な組織に馴染めず1年半で会社を去った。

 その後、半年間かけてバックパッカーとして世界を放浪。この放浪時に世界各地の人がスマートフォン(スマホ)を手にしている姿を見て、個人が手軽に不要品を売買できるフリマアプリのビジネスモデルを思いついたとしている。

 13年2月、メルカリを資本金2000万円で設立。13年8月、ベンチャー投資などを手掛けるユナイテッドから3億円の出資を受けた。
スマホを使ったフリマ市場の拡大が期待できると判断してユナイテッドは投資した。

 ユナイテッドはメルカリの東証マザーズの上場に伴い、保有していたメルカリ株450万株を売却。売却額は128億円。126億円の営業利益が発生、2019年3月期決算で利益を計上する。

 ユナイテッドはメルカリ株式を1500万株(発行済株式の12.8%)保有していたが、売却後は1050万株(7.7%)。依然として第2位の株主である。ユナイテッドはエンジェル投資家として巨額のリターンを得た。

●米国市場へ挑戦

 山田氏は、「野茂英雄さんの大ファンです。野茂さんのメジャー挑戦が発表された時、日本中でバッシングが巻き起こったことをよく覚えています」と書き出す手紙を、上場当日の記者会見で配ったプレスキットに挟み込んだ。上場を記念する会見は、東証で行われるのが一般的だが、メルカリは東京・丸の内の東京ステーションホテル「鳳凰の間」で開いた。それだけ上場に力を入れていたのだ。周囲の反対を押し切って米リーグに挑戦した野茂英雄氏と、これから本格的に米国市場へ挑む自分の姿を重ね合せているとみられる。


 メルカリは洋服や雑貨などさまざまな品物を、スマホを使って個人同士で売買できるアプリを提供している。利用者による年間売買総額が3000億円を超える水準に急成長した。売り上げの大半は販売手数料収入。ユーザーの半数以上が20~30代の女性たちだ。

 17年6月期の連結売上高は前期比1.8倍の220億円、純損益は42億円の赤字。米国事業への投資がかさんでいるためだ。18年6月期の売上高は前期比1.6倍の358億円と伸びるが、純損益は引き続き赤字の見込み。海外事業の赤字が続く。19年同期の売上高は同1.7倍の600億円、最終利益段階で5億円に黒字に転換するとしている。

 メルカリが目指すのは米国市場だ。だが、そこには強敵が待ち受けている。売上高が1兆円に達するオークションサイトのイーベイを筆頭に、新興のボッシュマークなどのライバルがひしめく。


 メルカリは国内では知名度が高いが、米国では無名だ。上場で得た630億円を広告宣伝などに投入し、認知度を高める作戦に出る。

 山田氏は記者会見でこう語った。

「2018年6月期はUS(米国)が赤字なので、全体も赤字の見通しだ。US事業は5年以上展開しているが、日本に比べて成長のスピードは遅い。現時点では時期は明言しないが、十分に黒字化は可能だ」

 米国市場での成否が、メルカリの今後を左右する。

 一方、メルカリには課題も多い。盗品や現金など不正出品が社会問題になり、上場が遅れた。身元確認の強化などの対策をとり上場にこぎつけたが、個人同士の取引にはトラブルがつきものだ。今後、どう対応するのか、頭の痛い問題といえる。

●MTGが7月に上場

 調査会社CBインサイツの調べによると、世界のユニコーン(創業10年以内で時価総額10億ドル超が見込める未上場企業)は240社。米国企業が116社、中国企業が71社に上るが、日本は人工知能(AI)開発のプリファード・ネットワークスと、EMS(電気筋肉刺激)による筋肉トレーニング機器「SIXPAD(シックスパッド)」を手掛けるMTGの2社にとどまる。


 そのMTGが7月10日、東証マザーズに上場する。

 創業者の松下剛社長は長崎県五島列島の出身。1988年、高校を卒業すると島を出て、愛知県の自動車部品メーカー、デンソーに就職。92年に退職すると、リフォーム会社の営業を経て起業。

 94年に名古屋市で中古車販売のオートサービスブレイズを創業し、99年にMTGへと社名を変更した。2004年、ミネラルウォーターを宅配する「Kirala(キララ)」を立ち上げ、主力事業のひとつに育てた。

 現在はシックスパッドをはじめ、美容ローラーなどの「ReFa」など美容・健康機器、化粧品の企画・製造販売を行う。

 サッカー選手のクリスティアーノ・ロナウド、歌手のマドンナなど、スーパースターを共同開発パートナーに招いた。「MTGのIPO(新規上場)で、広告宣伝に起用した彼ら2人が恩恵を受ける」と話題になっている。

 ウォーターサーバーのキララでは、ブランディングパートナーとして元フィギュアスケート選手の浅田真央を起用している。

 MTGの業績は好調だ。18年9月期の連結決算の売上高は前期比30%増の600億円、純利益は同28%増の55億円を見込む。
販売は海外のグローバル事業が36.7%で主力。中国市場を中心に外国人の新たな購買を期待し、Eコマース(電子商取引)のダイレクトマーケティング部門を伸ばそうとしている。

 目論見書に記載している想定発行価格は5290円で、市場からの吸収金額は420億円程度。時価総額は2000億円以上となる。メルカリに続く新興市場の大型IPOとなるのは確実だ。
(文=編集部)

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