2018年はゴルフ場の倒産が多発する年になりそうだ。根強い人気を誇るゴルフだが、近年はプレイヤーの高齢化や若者のゴルフ離れのほか、ゴルフ場の経営が深刻な課題となっている。
帝国データバンクの調査によると、17年のゴルフ場の収入高合計は前年比0.3%減少した。18年の倒産件数は4月の時点で13件となっており、すでに前年(12件)を上回り、08年のリーマン・ショック以降で最多のペースだ。このままいけば、18 年は40 件前後の倒産が発生する可能性がある。
最大の問題は、多くのゴルフ場が預託金の償還を抱えていることだ。帝国データバンク情報部の綴木猛氏は「ゴルフ場にとっては預託金の償還が“時限爆弾”のようになっている」と指摘する。なぜ今、ゴルフ場の経営危機が相次いでいるのか。綴木氏に話を聞いた。
●若者のゴルフ離れより深刻な預託金償還問題
――ゴルフ場の経営不振は、若者のゴルフ離れが影響しているのでしょうか。
綴木猛氏(以下、綴木) プレイヤーの減少に伴い売上高や業績が落ちて倒産するという流れもありますが、それだけではありません。実は、ゴルフ業界には特殊な事情があります。
そもそも、プレイヤー数は近年で大幅に減少しているわけではありません。経済産業省の統計では、ゴルフ場利用者数は15年が約964万人、16年が約939万人、17年が約936万人となっています。
むしろ、16年にゴルフがオリンピック競技に復活し、20年の東京五輪への期待も高まるなど、業界としては追い風の面もあります。ゴルフ業界の中には、「経営環境の悪化は一時より落ち着いた」と楽観視する声もあるほどです。しかし、一方では若者のゴルフ離れやプレイヤーの高齢化などで、新規のプレイヤーを獲得できないという課題も抱えていることは確かです。ただ、それがゴルフ場の倒産増加と直結しているわけではないのです。
――では、なぜ今倒産が増えているのでしょうか。
綴木 一般的なパターンをお話しします。まず、ゴルフ場には会員権と預託金という特有の要因があります。オープン時、会員権を発行し、同時に預託金300万円を2000人から集めたとしましょう。当初は、ゴルフ経営業者の手元に60億円の潤沢な預託金があり、安定した資金繰りで日々の決済が可能です。
しかし、預託金は期限が来たら償還しなければなりません。経営計画において、この60億円を償還できる余力を残しておかなければならないのです。
――そういう構造的な問題があるのですね。ところで、02年にもゴルフ場の倒産ラッシュがありましたね。
綴木 02年には100件超の倒産が発生しています。当時は、預託金の償還問題に加えて金融機関が整理回収機構による不良債権処理を進める動きもありました。そのため、バブル期などに多数つくられたゴルフ場が預託金を償還できずに倒産に至ったのです。18年にゴルフ場が相次いで倒産している状況は、この再現ともいえます。
●預託金の償還期限を延長するゴルフ場が続出
――18年の倒産事例のなかで、特筆すべきものはありますか。
綴木 「マルマンオープン」や「ダイワインターナショナル」の開催コースとなっている埼玉県鳩山町の鳩山カントリークラブが、3月に民事再生法の適用を申請しました。また、4月には滋賀県高島市の朽木ゴルフ倶楽部が約77億3200万円の負債を抱え、同じく民事再生法の適用を申請しました。このペースが続けば、18年は40件前後の倒産が発生する可能性があり、前年比約230%増となります。
――民事再生法の適用を申請した場合、預託金はどうなりますか。
綴木 02年のときもそうですが、法的整理を進めたゴルフ場の多くは「預託金の償還期限を15年延長する」といった措置が再建計画に盛り込まれており、いわば問題が先送りされています。なかには、法的整理にまでは至らなくても償還期限の延長措置を取ったゴルフ場も少なくないようです。
――会員はよく怒らないですね。
綴木 ゴルフ場が倒産してしまうと会員権もなんの意味もなくなってしまいます。そのため、「本当に返ってくるのであれば、10年でも20年でも待ちましょう」というのが当時の会員たちの総意だったのでしょう。そして、その延長期限が切れるのが18年あたりではないかというのが、ゴルフ場が倒産ラッシュを迎える根拠となっています。
これまでは、ゴルフ場の経営業者が倒産しても、他社に運営が引き継がれるケースが少なくありませんでした。しかし、近年は倒産後にゴルフ場を閉鎖したりソーラー事業に転用したりするケースが増えています。ゴルフ場は山の中にあるため、どう転用するかは模索しているところです。
――プレイヤーの高齢化についてはいかがでしょうか。
綴木 若者のプレイヤーを獲得できていないのは大きな問題だと思います。
ただし、その人たちもいつかはプレーすることができなくなるため、やはり若者の獲得は必須です。学生や若手社会人向けの格安プランを打ち出したりネット広告を展開したりしていますが、まだ目に見える効果はありません。
●多すぎるゴルフ場の淘汰が連鎖か
――個人的には、役員になれるなど出世の芽があればゴルフをやるのもいいと思いますが、そうでなければお金の無駄だと思っています。
綴木 そう考えると、若者にそれほど野心がないという事情も聞かれますし、ゴルフ離れにつながっているのかもしれませんね。ゴルフ場は行くだけでお金がかかりますし、そもそもクルマを持っていないと難しいですからね。
――そうなると、やはり今後はプレイヤーが大幅に増える可能性は少ないですね。
綴木 団塊の世代などの高齢者が退いていくと一気に少なくなることが最大の課題です。客足が遠のき、業績が頭打ちとなり、毎期の決算で利益確保に翻弄されているゴルフ場は少なくありません。プレイヤー数と比較してゴルフ場の数が多すぎる事態となれば、今後はさらに淘汰が進んでいくでしょう。
――18年の倒産ラッシュが19~20年も続く可能性はあるのでしょうか。
綴木 あります。そのため、警鐘を鳴らす意味でも今回の調査を発表しました。預託金の償還期限については個々のデータがないのでピーク時期などを完全に把握するのは難しいのですが、今後もゴルフ場の倒産は増える可能性が高いとみています。
(構成=長井雄一朗/ライター)
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