30代以上のビジネスパーソンであれば、学生時代にコンパをしたり社会人になって同僚や上司と仕事談義に花を咲かせたりと、居酒屋を利用した際の思い出が数多くあるのではないだろうか。

 だが現在、外食市場においてチェーン居酒屋が“一人負け状態”になっているという。

日本フードサービス協会が5月25日に発表したデータでは、4月の外食市場の総売上高は前年同月比101.8%で、前年同月を上回るのは20カ月連続となっていた。業態別に見てもファストフード業態の売上は前年同月比102.1%、ファミリーレストラン業態の売上は前年同月比101.7%となっており、パブ・居酒屋業態を除いた各業態は軒並み好調なのだ。

 そんななか、パブ・居酒屋業態の売上は前年同月比96.7%となっており、この一人負け状態は4カ月連続。

 また、帝国データバンクが4月に発表した「飲食店の倒産動向調査(2017年度)」によると、2017年度は過去2番目の高水準となっているのだが、全体の倒産件数701件のうち、業態別では「酒場・ビヤホール」が132件(全体の約19%)で最多となっているのである。

 日本フードアナリスト協会所属のフードアナリスト・重盛高雄氏によると、「特にチェーン系の居酒屋が苦境」だという。チェーン居酒屋といえば『和民』『白木屋』『庄や』などが代表的だが、なぜ一人負け状態なのか、復活の可能性はあるのか、重盛氏に聞いた。

●昨年6月の酒税法改正で安さをウリにしたチェーンは大打撃

「日本フードサービス協会のデータではパブ・居酒屋業態が不調というデータになっていますが、実際は売上好調な居酒屋も多いのです。つまり飲み屋業界全体が苦境というわけではなく、駅前などに大きな看板を出しているようなチェーン系の総合居酒屋が足を引っ張っているという印象でしょうか。

 チェーン居酒屋が一人負けしている一番の要因は、昨年6月の酒税法の改正の影響でしょう。昨年の酒税法改正ではお酒の行き過ぎた廉価販売が規制され、大量仕入れにより安く仕入れていた大手チェーン店などが苦境に立たされているのです。それまでお酒メーカーなどは、たくさんお酒を買ってくれる大手チェーン店にはその分安く売っていたわけですが、それでは大量購入できない町の酒屋さんなどが安く買うことができず不利になるということで、安価での販売に規制がかかったという流れです。

 たとえば焼き鳥居酒屋チェーンの大手『鳥貴族』は、以前は280円(税別、以下同)均一をウリにしていましたが、昨年10月に298円均一へ値上げをしたのも、この酒税法改正の影響でしょう。
つまり、もともと人手不足で人件費が高騰していたところに、お酒を安く仕入れられなくなったため、それまで通りの格安での提供が難しくなり泣く泣く値上げしたというわけです。月次報告によると、『鳥貴族』は既存店の客単価は対前年同月比100%を超えていますが、客数は昨年11月を除き、大幅に苦戦を強いられています。

 しかも昨年の改正は、2026年までに段階的に行われる“酒税法大改正”の第一段階といえるもので、今年以降、さらにお酒の仕入れ原価が高くなっていくことは既定路線となっています」(重盛氏)

 原価上昇分をやむなく価格へ転嫁するという“単純値上げ”施策を行った「鳥貴族」に、非難の声は少なかったものの、値上がりという事実に消費者が素直な反応を示したということなのだろう。値上げをせずに価格を据え置いていたとしても、苦肉の策としてさりげなく1杯の酒量を減らしているといった店舗もあるようだ。

 だが、「一番の原因は昨年の酒税法改正だが、ほかにも根深い要因がいくつかある」と重盛氏は続ける。

「居酒屋側の内部要因を一言でいうと、チェーン居酒屋はお客様に選ばれる特色が少なくなっているということ。 外部要因を挙げるならば、宴会の絶対数が減少していること、若い世代の宴会離れがあるでしょう。また、『日高屋』や『吉野家』のような“ちょい飲み”店舗の拡大も挙げられますし、一般庶民の懐事情に伴う家呑みの拡大なども挙げられます。

 ですが、問題の根が深いのは内部要因のほうでしょう。一例ですが、座席料・お通し代の存在による敬遠や、代わり映えのしないメニュー構成、人手不足によるサービス低下など、“行く魅力や価値”の低下が顕著なのです。そういった状況にもかかわらず、宴会獲得のための早得キャンペーンなどの安売り戦略をいまだに展開しているチェーン店が多いのが現状。

 正直、リーズナブルさをウリにした総合居酒屋という業態がはやっていた時代はとうに過ぎ去っており、宴会需要も確実に先細りしていくなかで、今以上の業績を生み出すことは困難。
チェーン居酒屋がこのまま変わらなければ、残念ながら復活の兆しは見えてこないでしょう」(同)

●万人ウケ狙いの総合居酒屋、今は誰からも選ばれない理由

 では、チェーン居酒屋はどう変わるべきなのか?

「やはり、総合居酒屋という業態から脱却し、高く売れる素材を用いて“適正価格”で販売できる新業態を打ち出していくべきでしょう。居酒屋業態は“安い”にこだわりすぎていた感がありますので、総合居酒屋全盛期のような低価格競争に依存しない環境をどうつくり出すかが今後の課題となります。宴会を前提にした大きなスペースをなくす、飲み放題で利益を出すという発想をなくす、こういったことからスタートしなければいけないでしょう。

 日本酒を例に挙げるとすると、以前より出荷量が減少していますが、特定名称酒は減少することなく順調に推移しています。つまり、消費者の志向が量から質へと変化しており、質を伴う適正価格の日本酒は変わらず支持されているということがわかります。そういった消費者の志向、嗜好の変化に総合居酒屋は対応できていなかった、ということです。

 決して、お酒があまり飲まれなくなったから、居酒屋が廃れたわけではないのです。

 今や『安い・早い・美味い』はちょい飲みができる店や立ち飲み店が市場を確立しておりますので、『高い・早い・美味い』をキーワードに生き残りを模索すべきだと思います。とはいえ、意味なく価格が高いだけのお店など消費者は望んでいません」(同)

 もちろんワタミグループやモンテローザグループといったチェーン居酒屋を手がける大手も、ただ指をくわえて見ていたわけではなく、数年前から『和民』や『白木屋』などの総合居酒屋を業態転換し別のお店に変える施策を行っている。

「ワタミグループの『にくスタ』はカタマリ肉ステーキとサラダバーをウリにした業態で、新しいことにトライしていこうという姿勢が見えますね。現在はこの『にくスタ』のように、“高品質・価格相応の業態”で消費者心理をつかむことが問われているのだと思います。魚類限定のお店でもいいでしょうし、一例ですがもっとテーマを絞ってポテトサラダに特化させたお店などでもいいでしょう。
要するに総合居酒屋全盛期とは違い、料理のラインナップを絞って勝負する時代なのかもしれません。

 また、料理とは逆に、アルコール類は品揃えの豊富さがカギになるでしょう。家呑みではなかなか味わえないような貴重な銘柄のお酒などを取り揃え、お酒も量ではなく質で選んでもらえる店にする。飲み放題獲得や宴会需要を狙って“安く売る”ための工夫をしていた総合居酒屋が価値を失った今、“高く売る”ための工夫が問われているということでしょう」(同)

 万人ウケを狙っていた総合居酒屋が逆に選ばれる価値を失ってしまったことを教訓に、「テーマ性=わかりやすさ」を打ち出していけば、今の消費者に選ばれる価値のある居酒屋となれるということなのかもしれない。

 外食市場での“一人負け”から復活するには、いかに大手チェーンが総合居酒屋の業態から脱却し、イノベーションを起こせるかにかかっているようだ。
(取材・文=A4studio)

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