会社更生法の申請に伴い上場廃止(7月23日)が決まっている日本海洋掘削の株が、マネーゲームの様相を見せている。7月2日の株価は、前営業日比30円高(50.8%高)の89円に急騰。

7月4日には136円の高値を付け、売買高は1024万株に膨らんだ。一転して、12日の終値は59円に急落、19日には34円と年初来の安値を更新した。

 7月1日付日本経済新聞が「日本郵船がスポンサー企業として浮上している」と報じたことが手掛かりとなり、株価は一時、上昇した。会社更生法は100%減資するので、既存株主の権利はゼロになる。それを百も承知の上で、上場廃止までの短期値幅取りの狙いで買いが集中した。倒産した会社の株式も錬金術のカードにしてしまうのが株式市場だ。

 日本海洋掘削が6月22日、東京地裁に会社更生法の適用を申請したのは、唐突な出来事だった。1週間後に株主総会を控えたこの日に更生法を申し立てるとは、誰も予想していなかった。同社の連結ベースの負債総額は860億円に達していた。

 日本海洋掘削は国内唯一の海洋掘削を専門とする会社で、水深数百メートルの海底油田を採掘する技術を持つ。洋上採掘装置(リグ)は7基ある。

 2014年以降、米国のシェールオイルの増産を受けて世界的に原油がダブつき、新規の油田開発が停滞するようになって営業不振に陥り、財務状況が悪化した。


 18年3月期の売上高は前期比31.8%増の202億円、営業損益は114億円の赤字(前期は110億円の赤字)、純損益は454億円の赤字(前期は230億円の赤字)。3期連続で当期純損失を出し、155億円の債務超過に転落した。

 業績悪化の経営責任を取り、6月7日にトップの交代を発表した。東京大学工学部資源開発工学科卒で生え抜きの市川祐一郎社長が6月29日の株主総会で退任し、神戸大学経営学部卒で日本石油(現JXTGエネルギー)出身の安井泰朗常務執行役員が社長に昇格することになっていた。

●三菱グループが「見放した」ワケ

 債務超過転落や社長交代の発表があっても株式市場は格別の反応を示さず、株価は1800~1900円で推移していた。18年1月には3560円の高値をつけていた。というのも、市場関係者は大株主が支援すると判断していたからだ。筆頭株主は石油資源開発(持株比率30.97%)、第2位の株主は三菱マテリアル(20.05%)で、上位2社で51.02%を占める。両社は、日本海洋掘削を持分法適用会社と位置付けている。

 特に三菱マテリアルは日本海洋掘削の設立当初からかかわっている。1960年代に政府が、原油の国内消費量の30%を自主開発とするとの目標を設定。その方針に従って67年に石油開発公団が設立され、翌68年に同公団の事業本部(現石油資源開発)と三菱グループが出資して海洋資源掘削がスタートした。
初代社長は三菱鉱業(現三菱マテリアル)社長の大槻文平氏だった。

 以来、石油開発公団が技術面、三菱グループが資金面の支援を続けてきた。三菱UFJ銀行がメインバンクで73億円を融資している。日本海洋掘削は、いわば国策会社だ。そのうえで三菱グループが面倒をみてきたので、「増資によってこの程度の債務超過は解消できる」とマーケットは読んでいた。そのため、債務超過となり、社長交代が発表されても、株価が動揺を見せなかったのだ。

 ところが、突然の会社更生法適用申請。市川社長は6月22日に開いた記者会見で「大株主である石油資源開発や三菱マテリアルには、いつ頃から相談していたのか」と問われると、「1年半前から相談していた。大株主が(追加の)増資を受け入れなかった理由については、我々が知るところではない」と答えている。

 三菱マテリアルは、昨年から品質データの一連の不正で窮地に立たされていた。債務超過となった会社への追加融資は株主に説明がつかないため、支援を打ち切ったとみられている。

 三菱マテリアルの株主総会は6月22日に行われた。
この株主総会終了後に日本海洋掘削は会社更生法を申請した。そのため、「三菱マテリアルへの忖度があったのではないのか」と深読みするアナリストも少なくない。

●地球深部探査船「ちきゅう」の運用を受託

 地球深部探査船「ちきゅう」はどうなるのか。日本海洋掘削の会社更生法申請で、焦点は「ちきゅう」の存続問題に移った。

 国立研究開発法人「海洋研究開発機構」が保有する探査船「ちきゅう」は、ライザー掘削技術を初めて科学研究用に導入した科学掘削船だ。海底から下を掘削できるという強みがある。

 三菱重工業が掘削部分を、三井造船が船体部分を担当し、01年4月に三井造船玉野事業所で起工した。

 日本海洋掘削グループは08年から、子会社の日本マントル・クエスト(東京・中央区)を通じ「ちきゅう」の運用を受託してきた。

 日本マントル・クエストの設立は08年9月で、資本金は3億円。出資比率は日本海洋掘削が60%、日本郵船が35%、「ちきゅう」に船員を派遣しているグローバル・オーシャン デベロップメントが5%となっている。

 日本近海の次世代資源として注目されるメタンハイドレートなどの資源調査を「ちきゅう」が手掛けている。この事業が存続するかどうかで、日本の海洋政策に大きな影響を与える。
そのため、「国家とともに歩んできた」と自負する三菱グループは逃げるわけにはいかない。

 三菱グループは、三菱マテリアルに代わって日本郵船を前面に出してきた。日本郵船が更生中の日本海洋掘削に出資して傘下に収め、日本マントル・クエストを通じて「ちきゅう」の運営を継続することになるとの見方が強まっている。
(文=編集部)

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