ホワイトオーシャンという言葉を耳にしたことがあるでしょうか。ブルーオーシャンという言葉は、ビジネスに携わっている人であれば1回ぐらいは聞いたことがあるでしょう。
ビジネスパーソンなら気づくと思いますが、この学者の定義する「競争のない未開拓の市場」というのは、実際に狙うべき市場なのでしょうか。競争のまったくない市場はビジネス的に魅力があるのでしょうか。
「あなたはこれから靴を販売していきます。靴をまったく履いていない人たちの市場と、靴をすでに履いている人たちの市場のどちらを狙いますか」
就職面接などでときどき出てくる質問ですが、あなたならどちらを狙いますか。おそらく「靴をまったく履いていない人たちの市場を狙います。未開拓なので非常に多くの顧客をターゲットとすることができます」と答えるでしょう。これがまさに、ブルーオーシャン戦略の考え方そのものです。
しかしながら、深く考えてみると1つの疑問が湧いてきます。そもそも、靴をまったく履いていない人の市場というのは、靴がいらないから履いていない可能性もあるのです。もし靴としての機能が本当に必要なら、靴ではなく靴下を履くというような類似方法、あるいは足が痛くないようにカーペットの類いを敷く、道路の舗装を変えるなどの代替方法を採用しているでしょう。つまり、これらの類似方法、代替方法(以下、合わせて現状方法という)も含めた競争のまったくない市場というのは、見方を変えればニーズそのものがない市場という可能性もあるのです。
こう見ていくと、ブルーオーシャンとレッドオーシャンという見方だけでは不十分だと思います。そこで、新たな考え方として「ホワイトオーシャン」という市場観が出てきたのです。ホワイトオーシャンとは、現状方法とは競争する状態にはあるが、これがなんらかの要因で限界を迎え、市場トレンドの変化を伴って新たに発生する市場ととらえることにします。市場環境の変化から生まれる新しい市場であるため、それがどういった色に染まっていくかは、参入企業、市場の成長性などによって変わっていきます。このホワイトオーシャンの具体例を、3Dプリンターの市場拡大事例を見ながら考えていきましょう。
●真の成長市場を見つけ出す入口
3Dプリンターとは、3次元に造形できるプリンターのことで、材料に樹脂や金属を用いて、立体的な造形物をつくることができる装置です。2016年現在、市場規模は約120億円といわれています。これも一度ぐらいは見たり聞いたりしたことがあるでしょう。従って3Dプリンターの説明はこれぐらいにして、本題に入ります。
3Dプリンター市場は、まさにこのホワイトオーシャンの市場だったといえるのです。具体的には、市場トレンドの変化、現状方法の限界、参入余地の拡大という3つの要素を分析することで、それが見えてきます。
社会環境が変わると市場トレンド(世の中の当たり前)が変化してきます。
ところが、市場トレンドの変化に伴い、現状方法ではダメになってきたのです(現状方法の限界)。前者2つはデザイン面でダメになり、後者はスピードが遅いという弱点を持っていたのです。
その一方、デジタル家電市場はどんどん拡大し、開発スピードも上がっていく。にもかかわらず現状方法ではスピード、デザイン面においてニーズを満たさない。ここに大きなギャップ(参入余地)ができ、新たなホワイトオーシャンの市場が誕生したのです。
そこへ、もともとインクジェットプリンターの技術を持っていた企業などが、平面の紙などに文字や絵を描写するのではなく、3Dの模型を造形するという製品を開発、投入し、それが先ほどの参入余地にうまく適合し、ギャップの拡大とともに市場が拡大していったというとらえ方ができるのです。
このように、市場トレンドの変化により、現状方法に限界が発生し、参入余地が拡大(新たなカテゴリーの市場が発生する)というホワイトオーシャンのとらえ方は、冒頭の競争相手のまったくいないブルーオーシャンのとらえ方とは異なり、より現実的であり、具体的といえるのではないでしょうか。
新たに生まれる市場というのは、まったく新しい技術の登場による技術的なイノベーションによって生まれる市場、あるいは今回のホワイトオーシャンのように、社会の変化によって生まれてくる市場が中心となります。世の中では、農業、次世代自動車、医療、介護業界などが成長産業と叫ばれていますが、結局、参入余地がなければビジネスは成立しないでしょう。
成長産業という見方だけではなく、参入余地がどこにあるのか。世の中のブームに惑わされないことが真の成長市場を見つけ出す入り口となるのではないでしょうか。
(文=高杉康成/コンセプト・シナジー代表取締役、経営学修士(MBA)、中小企業診断士)