昨年発表された総務省統計局のデータによると、現在日本の総人口に占める65歳以上の高齢者の割合は27.7%と過去最高を記録。厚生労働省の推計では、2035年には約3人に1人が65歳以上の高齢者になるとのこと。



 超高齢化により日本は社会保障などさまざまな問題と直面しているが、商品を売る企業からすると、果たしてこれは単にマイナスな現象なのだろうか。立教大学教授の有馬賢治氏にマーケティングの観点から話を聞いた。

●身体的困難を補助する製品が売れ筋

「社会にとっては高齢化の問題は大きいですが、マーケティングの観点から考えると購買力としての魅力が増しており、商品の使い方の提案次第でヒット商品が生まれる可能性も高いともいえます」(有馬氏)

 というのも、シルバー層への提案で近年ヒットした商品が多いとのこと。

「ジャパネットたかたのボイスレコーダーがヒットしたのは、物忘れが激しくなり老眼でメモを取ることが難しくなった高齢者に、声を録音してメモ代わりにする使用方法を提案したことによります。また、ダイソンをはじめとするコードレス掃除機は、高齢者でも手軽に掃除できることからシルバー層から支持されていますし、アイリスオーヤマによるご飯が炊ける鍋とホットプレートのセットは独居の高齢者や高齢夫婦にとって使い勝手がいいことから売上を伸ばしました」(同)

 どのようなものが高齢者にとって利便性がいいのかを考えることが、シルバー層をターゲットにする上で重要だと有馬氏はいう。

「若い頃には気にしなかったものに気を付けなければならない年代なので、目や耳、記憶力、足腰などでの苦労を解決してくれる商品が市場をつくります。たとえば、センサー付き扇風機やファンヒーターはトイレや風呂場など狭い空間用の温度管理に、ナンバーディスプレイや常時録音機能搭載の電話は振り込め詐欺対策に、さらに自宅での転倒防止に簡易手すりや衝撃緩和マットなどがシルバー市場から広く受け入れられています」(同)

●シルバー市場は相対的に拡大傾向

 ときには最新テクノロジーに逆行することも重要だという。

「1~2人で使用する家電は“捨てる発想”が必要です。スマホを見てもわかるとおり、企業は差別化のために多機能化を訴求したくなりますが、操作の複雑化は使う前から敬遠されてしまったりと、シルバー市場では裏目に出ることもあります。身辺整理が大きな課題であるシルバー世代にとって、厳選された家電だけでの生活が理想。そう考えると、使い慣れたシンプルな家電こそ、高齢者には好まれる傾向にあります」(同)

 若者の間では、物を必要以上に持たないミニマリストというライフスタイルが流行っているが、高齢者の多くはそのミニマリスト。たくさんの機能はいらないのである。


 だが、高齢者ばかりに目を向けて商品を展開するほどのマーケット規模が、シルバー市場にはあるのだろうか。

「確かに、現状は企業がマスマーケットを狙うとしたら、もっと若い世代を狙うのが一般的。ですが、今後も高齢者の割合は増え続ける上に、若者世代はどんどんと物を買わなくなっています。若い人の間でも商品機能の複雑化にうんざりしている人も少なくないでしょう。そう考えると、今後はシルバー視点での商品探索や製品開発がビジネスチャンスに大いになり得るのです」(同)

 超高齢社会となる将来に対して不安は募るばかりだが、マーケティング的観点からみれば、必ずしも悪いことばかりではないようだ。マスマーケットの変化として現状を柔軟に受け入れる意識が、各企業に求められている。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季)

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