6月19日、フリーマーケットアプリ最大手のメルカリが、東証マザーズに上場を果たした。

 2013年7月2日のサービス開始から5周年を迎えた同アプリは、月間ユニーク利用者数1054万人、月間流通総額324億円、累計ダウンロード数7100万と発表されている(いずれも今年3月31日時点での国内データ)。

その驚異的な人気を裏付けるかのように、上場初日の終値は5300円と、公開価格の3000円を軽々と上回った。約7172億円という時価総額は、日本の新規上場企業のなかで今年最高だったことはいうまでもない。

 また、メルカリは従業員持株制度を導入しているのも特徴。一部報道によると、今回の上場で1億円以上の利益を得られる“億り人”が、メルカリ社内には何人も続出するというのだ。

 今でこそメルカリはここまでの規模に拡大したが、数年前までは、まだ新興IT企業というイメージでしか捉えていなかった人も少なくないだろう。あらかじめメルカリの勢いを予測しておき、社員として潜り込んでいれば、今頃は自分も“億り人”になれていたのでは……と考える人もいるかもしれない。

 メルカリのように急成長が望めそうな企業を見極めて入社し、自社株によって億万長者に昇りつめるという作戦は、どれくらい現実的なのか。経済アナリストで、近著に『株の暴騰が始まった!』(幻冬舎)などがある朝倉慶氏に話を聞いた。

●“億り人”はメルカリ以外にも水面下で誕生している?

 まずはメルカリ上場に対する、朝倉氏の率直な感想を尋ねた。

「私は前々からメルカリは上場するだろうと見ていましたし、それがこのタイミングだったということでしょう。メルカリのような、評価額が10億ドル(約1250億円)以上のベンチャー、いわゆるユニコーン企業が上場するのは日本では珍しいことですから、こういう企業が出てきたのは喜ばしいことです。

 ただ、自社の上場によって“億り人”が生まれたという事例は、メルカリに限ったことではありません。
一昔前のバブルの時代では、証券会社などが上場し、社員の資産が何十倍になるというのはよくある話でした。ヤフーが1997年11月に上場した際も、同社の株価は200万円という初値から100倍以上になりました。ほかにもニトリや、ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイなど、成功物語をつくった企業はいくつもあります。

 結局、今回のメルカリは“億り人”になる社員が続出したといわれて話題になっているだけで、あまり有名ではない企業でも、このようなケースは目に見えないところで絶えず起こっています。スタートアップの時点では目立っていなくても、上場してからさらなる発展を遂げる可能性も充分に考えられます」(朝倉氏)

 では、メルカリに続きそうな企業を今のうちから探し当てるには、どういったポイントに着目するべきなのか。

「業種やベンチャーを問わず、企業は山ほどあるわけですし、その1社1社が成功するか失敗するかについては、なんともいえません。もちろん、メルカリのように新規上場する企業はこれからも定期的に現れるでしょうが、新しいサービスを開始して支持されるかどうかは、時代の流れにも左右されます。

 メルカリの場合は、メインの事業が中古品販売ということで、目のつけどころがよかったのでしょう。要は、まだほかに誰も取り組んでいないうちに“次はこんなサービスに可能性がある”というのをうまくマッチングさせられた企業こそが、巨大なビジネスをつくり出せるのです。

 また、社長の力量というものも大きいのではないでしょうか。メルカリのようなビジネスに将来性があると考えていた人は、ほかにもいたかもしれませんが、それを実際に構築できる人というのは、やはり多くはありません。ソフトバンクやLINEは、まさにそういったかたちで脚光を浴びたのだと思います。
その半面、消滅してしまった企業もありますし、それこそ時代の流れのなかでは、さまざまなことが起こり得ます」(同)

●他社をアテにする前に、自社の可能性を吟味するのが先?

 しかし、今後の成長が見込まれる企業に自分が身を置けたとしても、その自覚を持てるかどうかは別問題なのだという。

「たとえば私は、ロボアドバイザーで資産運用を行っているウェルスナビという企業と取引があります。この企業は成長するだろうと思っていましたし、現に伸びてきているのですが、意外にも退職していく人が多いのです。私のところまで挨拶に来てくれた元社員に『どうして辞めてしまうのか、ウェルスナビはいつか上場するかもしれない』と話しかけてみたら、『そんなこともあるんですか』というような反応でした。

 もっとも、その社員が将来的に自社株を持てたかどうかはわかりません。当事者と、外から様子を見ている私とでは、また感覚が違うのでしょう。そういう意味では、今回“億り人”になれたメルカリ社員たちのほとんどは、こうなることを予想して入社したわけではなく、単にラッキーだっただけなのかもしれないですね。

 一方で私は、その企業である程度の期間働いており、なおかつ株の経験があれば、自社が伸びていく過程は自然とわかってくるだろうと考えています。逆に、“いつの日か自社が上場して一攫千金”などと最初から期待して仕事を選んでも、順調には行きません。あくまでも、結果はあとからついてくるものなのです」(同)

 その結果を、少しでも手元に引き寄せるためには、どのような姿勢が求められるのだろうか。

「最近ですと仮想通貨のビットコインが流行しましたが、“みんな儲かっているから”という安易な理由で参加した人は、ほぼ確実に損をしてしまったはずです。本当に利益を出せたのは、ビットコイン交換所のマウントゴックスが2014年2月に倒産したあたりから、仮想通貨の流れを地道に追い続けていた人たちだろうと思います。


 株についても、同じことがいえるでしょう。人気が出そうな業種に以前から目星をつけておき、いざ話題になったときには株を売り逃げしてしまうくらいのスタンスでないと、チャンスをものにすることはできないのです。

 話を戻しますが、メルカリのようなベンチャー企業に潜り込み、自社株で“億り人”になるというのは、当然ながら簡単ではありません。ひとつアドバイスできるとしたら、まず自分の足元を見ることですね。前述したように、自社株で大きなお金をつくれるかどうかは、株に対する感性を磨いていればわかるようになってきます。それさえわからないのに他社、ましてや自分の専門外の業種に行こうとするのは無理があります」(同)

 朝倉氏は「100倍とまではいかなくても、自社株が10倍くらいまで上がる企業はよくある」と語る。隣の芝生は青いというが、遠くへ目を向ける代わりに、今の自分の環境を冷静に見つめ直すのも一手なのかもしれない。
(文=A4studio)

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