8月7日、オリンパスが今期の業績見通しを下方修正した。中国・深セン子会社が訴訟で敗れたことに加え、損失隠し事件をめぐって損害賠償請求訴訟で和解したことに伴う支出が響くためだ。

営業利益は計画を大幅に下回り、従来予想の810億円から590億円へ改めた。

 注目すべきは、深セン子会社「OSZ」が敗訴したことと、その相手であろう。OSZを相手取って損害賠償請求を起こしたのは安平泰という現地のコンサルタントだが、その実体は中国マフィアであることはこれまでに触れてきた通りだ。オリンパスは税関とのトラブルを解決してもらうために安平泰と契約を交わし、その報酬支払いをめぐって安平泰に訴えられて敗れたのだ。

 しかも安平泰を率いる陳族遠は6月28日、中国で別の贈賄事件で裁判にかけられていることが現地メディアで報じられ、裁判の模様は中国の動画サイトで公開されている。

 この事件では収賄側だけが数年前に有罪判決を受けていながら、なぜか贈賄側の安平泰だけは一切報じられることなく、裁判が始まっていることすら知られていなかった。実際には陳族遠が一審で贈賄を認め、量刑を不服として二審で争われていることが浮かび上がった。これは、オリンパスの「知らぬ、存ぜぬ」「問題はない」といった言い分が通用しないところまで追い詰められようとしていることを意味する。

 以上は、2011年に発覚した損失隠し事件後にオリンパスが社風や企業体質を改めなかったことが背景にある。法令を順守して誤りがあればそれを認めて正す社風が、損失隠しから7年が過ぎた今も確立されておらず、司法当局から信頼を失ったままであることを示すエピソードを紹介しなければならない。

●米司法省が厳しく批判

 前述したOSZのマネジャーが、冒頭で触れたコンサルとの契約を問題視し、海外の有力な法律事務所に意見書の作成を求めたことは、これまでに触れた通りだ。こうして作成された3通の意見書は他の内部資料と共に、そのコピーが米司法省と日本の証券取引等監視委員会に渡った。
前回記事では「オリンパスは国内外の行政当局から完全に睨まれることになるだろう」と指摘したが、すでにオリンパスは米国市場の別の問題によって信頼を回復できずにいる。

 過去には損失隠し事件に加えてブラジルでの過剰接待問題を引き起こし、さらには贈賄疑惑と並行するかたちで、2012年に欧米で生じた超耐性菌の大量感染問題も抱えている。オリンパス製の十二指腸内視鏡がもとで抗生物質が効かない超耐性菌に感染した患者が大量発生し、特に米国では死者も出たことから集団訴訟が起きた問題である。これへの対応が拙劣だったために、米司法省(DOJ)や米食品医薬品局(FDA)の不興を買っているのだ。

 この問題をめぐって2017年6月には、吉益健執行役員が米司法省で開かれた会議に出席。その詳細な模様をメールに書き、笹宏行社長と竹内康雄副社長、平田喜一常務らに送っている。そのメールによると司法省の監督官は、物わかりの悪い不良少年を諭したり叱りつけたりするような調子で、企業文化を変える必要性を諄々と指摘したようだ。執行役員からのメールには監督官の様子について「こちらからのプレゼンの最中も不満の表情が私には見て取れました」と記されている。執行役員は会議の間、針のむしろに座らされていたような気分だったのだろう。報告はさらに続く。

「法令順守のために社員がどう行動し、そのためには何を変えていくか。社員が問題に気づいたら、上司を恐れずに報告する文化が必要であり、今のままでは2年後に同じような問題を起こすのではないか」

 司法省の監督官はオリンパス側にこう指摘した。
司法省は大量感染の根本に横たわっているのは、単なる品質の問題ではなく、企業文化であると考えていることがわかる。監督官からこう指摘されたオリンパス側の出席者は「一同どのように返答すべきか苦慮し、重苦しい空気になった」という。

●問題を指摘した社員を左遷

 繰り返しになるが、この会議が開かれたのは2017年6月である。深センで「現地のコンサルタントと取り交わした契約は法律に違反する恐れがある」と指摘した幹部社員が新設部署に左遷され、自己研鑽の独習を命じられたのは、それからわずか半年後。結果から見れば、司法省が求めた企業文化の変革など「馬の耳に念仏」だったのだ。

 とはいえ、前述したように、監督官の指摘に返す言葉が見つからず、黙り込んでしまうほどだから、この執行役員も企業文化や社風を変えなければならないことくらいはわかっているはずだ。そして深セン問題がどう展開してきたのかをみれば、問題点を上司に報告する社員は確実に存在する。ただ、報告を握りつぶしてしまう役員や、それを支えてしまう社員が多く残っているのが問題なのだ。

 企業文化や社風を改めるのはそれほど難しく、深セン問題は不正を認めるには、巨額の罰金支払いや役員の退陣などといった影響が大き過ぎるのだろう。
(文=山口義正/ジャーナリスト)

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