今回は本連載前回記事から引き続いて、相続税対策について、女性公認会計士コンビ、先輩の亮子と税務に強い後輩の啓子が解説していきます。

亮子「相続時精算課税を利用するかどうか、を考える大前提として、そもそも相続税や贈与税の計算をする際に、財産がどのように評価されるのかを知っているといいよね」

啓子「そうですね。

株価のようにわかりやすいものばかりでもないですし」

亮子「その上で、相続時精算課税を活用できるケースを知る」

啓子「はい。相続時精算課税を選択するかどうか判断するために必要なことを整理してみますね」

●相続や贈与の際の財産は、どのように評価されるのか

 相続や贈与の際に、現金や預金、不動産や株式など、引き継ぐ財産はどのように評価されるのでしょうか。現金や預金であれば迷うことなくその金額が評価額としてイメージしやすいと思いますが、土地や建物など、どのように評価するのかイメージしにくい財産もたくさんあると思います。

 財産評価の基本的な考え方は「時価」です。その時いくらで換金できるのか、という観点で評価をすることになります。ただし、時価で評価するといっても時価の算出方法がまちまちでは、利用する算出方法によっては評価額が高かったり低かったりして、課税に際して不公平が生じてしまうこともあります。

 そこで、あらかじめ国税庁が財産評価基本通達を定めて財産の一定の評価方法を公表しています。財産評価の方法について次の通り表にまとめましたので、参考にしてみてください。

※土地は市街地にある場合は路線価方式で、それ以外の場合には倍率方式で評価します。路線価方式とは、道路ごとに決められた路線価格をもとに評価する方法です。倍率方式は土地の固定資産評価額に国税庁が決めた一定の倍率を乗じることで評価額を計算します。土地についてはほかの財産よりも評価が難しいので、評価についてよくわからないという方は専門家に任せることをお勧めします。


●相続時精算課税を活用できるケース

 相続税は相続時の財産の評価額に対して課せられます。そのため、相続税対策としてまずポイントになるのは「相続時の財産の評価額をできるだけ低くする」ということです。その観点から、相続時精算課税を活用できる主なケースについて考えると、以下の2つをあげることができます。

 ひとつめは、将来値上がりしそうな財産の贈与です。

 相続時精算課税を選択した場合、相続税計算時に加算する贈与財産の評価額は、贈与時の評価額で加算されます。そのため、将来値上がりしそうな不動産や株式などを持っている場合は、値上がりする前に贈与をすると、相続時に評価額が値上がりしていても、相続時よりも低い評価額で税額計算されるため、有利となります。

 不動産については、一般的に建物の評価額は年月の経過とともに下がっていきますが、土地は値上がりする可能性も秘めています。株式も、将来の株価がわかれば苦労はしませんが(笑)、会社をつくって事業をしていて、その事業で利益が出ているような場合には、株価は上昇していきますので、会社が大きくなる前に贈与をしておく、ということも考えられます。

 2つめは、収益を生む財産の贈与です。

 毎年配当があるような株式や、収益性の高い賃貸不動産などを持っている場合、仮に株価や不動産の評価額は一定であったとしても、配当や家賃収入分が現預金などの相続財産となって将来の相続税が増加する可能性もあります。

 この場合に相続時精算課税を選択し、株式や賃貸不動産を子供に贈与すれば、配当や家賃収入が子供の所得となります。子供の所得が親より少なければ、所得税率も低く、それだけで節税になる可能性があります。
さらに、配当や家賃収入による相続財産の増加を抑えることができるため、相続税対策になります。

 収益性の高い不動産や株式は一単位当たりの金額が大きく、年間110万円まで無税となる暦年課税で贈与することが難しい可能性も高いはず。そのため、収益を生む財産を相続時精算課税により贈与すれば、所得税と相続税の双方において節税となる可能性があるというわけです。

亮子「株や不動産は、相続時に名義変更をするのに手間がかかることもあるよね」

啓子「はい。一般的に手続きが面倒だといわれていますね。また、話は少し変わりますが、そもそも株の存在を知らなかったり、不動産の移転に必要な書類がどこにあるかわからなかったりすることもあります」

亮子「相続時精算課税が節税対策として役立つかは、最終的に相続するときまでわからない面もあるけれど、こうした対策を検討することで、家族で情報を共有できるのは良いことだね」

啓子「はい。きっかけは税金対策でもなんでも構いませんが、どんな財産を持っていて、それを最終的にどうしたいと思っているのか、を考えることが大切だと思います」

(文=平林亮子/公認会計士、アールパートナーズ代表、徳光啓子/公認会計士)

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