2011年8月に秋元康氏のプロデュースによって結成された女性アイドルグループ・乃木坂46。2005年12月に発足したAKB48の公式ライバルという位置づけだが、最近の勢いでは乃木坂46のほうが上回っているといっていいだろう。



 一つの指標として、今年のオリコン上半期ランキングでは、アーティスト別セールス部門で自身初となる首位を獲得。シングル部門の1位こそAKB48の『Teacher Teacher』に譲ったが(2位は乃木坂46の『シンクロニシティ』)、昨年12月25日から今年の6月18日までという集計期間内に、なんと乃木坂46は56億円もの音楽ソフト(シングル、アルバム、ミュージックDVD、ミュージックBlu-ray Disc)を売り上げているのだ。

 昨年11月の東京ドーム公演では、平日にもかかわらず2日間で10万人を動員しており、チケットには55万件の応募があったという。ライブや握手会などのイベントレポートを見ると、乃木坂46のファン層は男性ばかりではなく、メンバーと同世代で容姿端麗な若い女性の姿も目立つようだ。

 一般的には「女性アイドルに熱中するのは男性」「男性アイドルに熱中するのは女性」というイメージが強いが、なぜ乃木坂46は女性からも支持されているのか。アイドル専門ライターであり、著書・共著に『グループアイドル進化論』(マイナビ出版)や『AKB48最強考察』(晋遊舎)などを持つ、岡島紳士氏に話を聞いた。

●一部メンバーがファッション誌の専属モデル、メディア露出が強み

「まず、乃木坂46ファンのなかで女性の割合が多いか、少ないかという判断は主観的なものになってしまいますし、ライブに参加する人だけがファンというわけではありませんから、実際の男女比を推定するのは困難です。

 ただ、乃木坂46ほどヒットしているグループになると、女性ファンの数も必然的に多くなりますし、『ファンは男性ばかり』という印象には見えにくいでしょう。ライブには行かないけれども、メンバーが出演するテレビ番組はチェックしているといったライトなファン層まで含めれば、一般のタレントのファンの男女比までとは言わずとも、それに近づいていく傾向はあると思います。

 そうしたなかで乃木坂46の特徴として考えられるのは、10~20代向けの女性ファッション誌の専属モデルを務めているメンバーが、多数在籍していることです。つまり、同世代の女性たちから、理想とするファッションモデルの一人として見られているメンバーも少なくないのではないでしょうか」(岡島氏)

 例を挙げると、乃木坂46の齋藤飛鳥は「sweet」(宝島社)、西野七瀬は「non-no」(集英社)の専属モデルを担当。白石麻衣も今年3月まで「Ray」(主婦の友社)、5月まで「LARME」(徳間書店)の専属モデルとして活躍していた。
ちなみに、そんな白石が昨年2月に発売した2nd写真集『パスポート』(講談社)は、購入者の3割以上が女性だったそうだ。

 こうした現象に前触れはあったのだろうか。岡島氏いわく、乃木坂46の誕生以前から活動していたAKB48の先例は無視できないようである。

「Perfume、そしてAKB48が登場したあたりから、地道にライブを積み重ねてブレイクするという、ボトムアップ方式の売れ方がアイドルの王道になっていった感があります。ライブや特典会を主体に活動していると、最初のうちはどうしても男性ファンの割合が多くなるんですね。

 しかし、そのような売れ方のスタイルも、次第にテンプレート化していきました。ここ何年かはメジャーでもインディーズでも、アイドルに女性ファンが割と早い段階で増え始めるのは当たり前になってきており、それはメディア露出のタイミングと密接に関わっているのです。

 というのも、やはりAKB48が特に顕著だったと思うのですが、2007年8月の水着グラビア解禁(「週刊プレイボーイ」<集英社>、「週刊ビッグコミックスピリッツ」<小学館>を皮切りに、徐々にグラビア誌やコミック誌の巻頭に進出。さらに一般誌にも進出するプロモーション戦略を取るようになりました。そしてブレイクのきっかけとなったシングル『大声ダイヤモンド』(2008年10月発売の10thシングル)のリリース以降、あらゆる雑誌を席巻していったのです。そうすると当然、多くの人々の目に触れやすくなりますし、若い女性ファンの増加にもつながっていきました」(同)

●“アイドル好き”をオープンにしやすい時代になったことも寄与?

 一方で岡島氏は、「1990年代にはアイドルに対する偏見があった」と語る。昨今のように、若い女性ファンまでもがアイドルのライブや握手会などに足を運ぶ状況は、いかにして生まれたのか。


「今ではアイドルファンへの差別的な意識はだいぶ緩和され、趣味の一つとして浸透し、人前で『アイドルが好きだ』と公言するのが憚られるようなこともなくなったのではないでしょうか。例えば毎年夏に開催される『TOKYO IDOL FESTIVAL』というイベントですと、3日間で207組のアイドルが出演した今年は合計8万人以上の客が来場していますし、アイドルというジャンル自体の市場がかなり膨らんできています。

 そしてAKB48のブレイク以前に、モーニング娘。を擁するハロー!プロジェクトがあれだけ世間的に認められたというのは大きかったですね。2000年代の親の世代にとって、自分の娘にハロー!プロジェクトの映像や音楽を見せたり聞かせたりするのは、いたって普通のことだったでしょう。

 その娘が成長して10~20代になったとき、乃木坂46やAKB48などのアイドルにハマるのも、ごく自然な流れです。これはジャニーズやK-POPにもいえることですが、もはやアイドルは親子2世代、3世代にわたって楽しめるカルチャーに育っているのではないでしょうか。

 とはいえアニメやマンガ、ゲームといったコンテンツに比べてしまうと、まだまだアイドルの市場は小さいのが現状。乃木坂46に限った話ではなく、アイドルという文化を売り出していくためには、男性ファンだけを相手にしていても厳しいですし、女性ファンを取り込まないと成立しません。女性ファンが増えている背景にはもちろん、そういったビジネス的な事情もあります」(同)

 なお、近年はプロのアイドルのダンスを素人の女性がコピーする文化も盛んで、「UNIDOL」や「アイドルコピーダンスフェス『アイコピ』」といったイベントが開催されている。

 このように、女性アイドルが同性のファンに与える影響力について、岡島氏はこう分析する。

「確かにアイドルファンの女性には、ダンスをコピーする人が大勢います。
乃木坂46にはファッション誌の専属モデルが多いという話にも通じるのですが、男性目線と女性目線はまた違っており、女性の場合は同性のアイドルを『自分もあんなふうに輝きたい』という憧れの対象にしていることが珍しくありません。そう考えると、アイドルの曲を自分でも踊ってみたくなり、そこを入り口としてファンになるというのも理解できます。

 AKB48の『恋するフォーチュンクッキー』(2013年8月発売の32ndシングル)がはやったときも、あの踊りやすい振りつけが媒介となり、グループや曲、メンバーの認知が全国的に広まっていきました。これは乃木坂46も行っていることですし、かつてのピンク・レディーにも当てはまると思いますが、ファンがメンバーと一緒に真似できるような振りつけがあると、より拡散されやすくなる、という傾向が強くなります。

 それは、ライブを盛り上げるための仕組みづくりであることはもとより、今はSNSの時代です。『踊ってみた動画』がYouTubeやTwitterなどで拡散されやすくなっているという環境も、アイドルファンの女性を増やしているのでしょう」(同)

 乃木坂46が同性のファンたちを惹きつける理由として、そのビジュアルが武器になっているのは間違いないだろうが、ハロー!プロジェクトやAKB48のヒットを経てきたアイドルシーンの移り変わりに、上手く乗っかった部分もあったようだ。
(文=森井隆二郎/A4studio)

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