全国に約1400店舗を展開し、日本のファストファッションを代表する存在であるしまむら。

 1号店の開店は1953年までさかのぼるが、近年では全身をしまむらでコーディネートする“しまラー”が出現したり、優れた商品をSNSで報告する“しまむらパトロール”活動が盛んになったりと、根強いファンは多い。

必ずしも、“安かろう悪かろう”などとは侮れないということだ。

 ただ、4月2日に発表された2018年2月期決算では、売上高が約5651億円(前期比0.1%減)、営業利益が約428億円(同12.1%減)と、減収減益に終わっている。減収はリーマンショックの影響を受けた2009年2月期以来、実に9期ぶり。ついにブームが下火になったのかという指摘は免れないだろう。

 ユニクロのような競合ブランドが好調を維持しているなか、なぜしまむらは苦境に陥ってしまったのか。ファッションビジネス・ジャーナリストであり、著書に『ユニクロ進化論』(ビジネス社)を持つ松下久美氏に話を聞いた。

●しまむらPBを拡充することで“宝探し感”というウリを自ら捨てた?

「やはりユニクロとの比較になると思いますが、世の中でこれだけEC(電子商取引)が進んでいるなか、しまむらは完全に対応が遅れました。それが不振の理由の一つですが、商品戦略面での失敗も大きいでしょう。

 かつて、しまむらでの買い物は“宝探し”に喩えられており、多品種を少量ずつだけ売るという、ユニクロとは真逆のビジネスモデルだったといえます。一つの店舗内に、同じような服はサイズ違いくらいしか置いておらず、他の人が着ているものと被ることもないですし、そのときに行かないと出会えない商品ばかり。それが『まるで宝探しみたいだ』と好評だったわけです。かつてしまむらは複数のメーカーから仕入れた不良在庫をかなりの低価格で売っていましたが、数が揃っていなかったことを逆手に取った戦略でもありました。


 しかし2010年あたりからは、PB(プライベートブランド)商品の比率を高めるようになり、とくにこの2年ほどは、大量に売れるものを増やすべく、商品数を絞り込んできました。女性物の商品についていえば、毎年2割ほど減らす計画でしたが、極端に減らしすぎて、店舗内のアイテム数がかつてに比べて4~5割くらい減ってしまいました。ラインナップも単調に見えてしまいますので、しまむらの特徴だった、商品選びの楽しさが薄れてしまったのです」(松下氏)

 多品種の少量販売という従来のスタイルから脱却し、PB商品に注力するという戦略の切り替えが、裏目に出てしまったということか。

 しまむらのPB商品は「CLOSSHI(クロッシー)」と名づけられており、代表商品には「裏地あったかパンツ」や「素肌涼やかデニム&パンツ」が挙げられるが、松下氏いわく、CLOSSHIの果たす役割についても議論の余地があるらしい。

「ユニクロは、絞り込まれた一つひとつの商品を毎年アップデートしているため、品質はどんどん向上しています。デザイン面でも、なるべく多くの人に合うようなシルエットやパターンを採用しており、そのなかに少しだけトレンドを取り入れるというやり方で、ブラッシュアップに成功しているといえるでしょう。

 ですが、しまむらのCLOSSHIの場合はCLOSSHI PREMIAM、CLOSSHI、CLOSSHI VALUEと主に3つのラインがあり、機能性やトレンド、価格など各々訴求ポイントが異なります。けれども、それらがごちゃ混ぜになっていますし、ブランド名を冠しているのにブランディングができていないという根本的な問題は否定できません。過去に売れたものの後追いが多く、ベーシックながらも目新しさが足りないという面も否めません。

 また、しまむらはユニクロのように著名デザイナーとコラボレーションすることはないものの、コンバースや渋谷109系などのNB(ナショナルブランド)商品をしまむら専用につくってもらう、あるいはライセンスでつくるというNPB(ナショナル・プライベートブランド)という取り組みを、ここ最近はわりと強化しています。しかしブランドの名前がついた分、値段も上がっていますので、それが付加価値としてお客に受け入れられているかどうかは、少し疑問です」(同)

●物流力を生かしたECに勝機はあるが、グローバル化には別の障壁も

 松下氏は引き続き、しまむらの置かれた厳しい立場を分析する。

「昔、それこそギャル系のブランドが流行っていた頃のしまむらは、渋谷の109にも匹敵するスピード感で、トレンド商品を数多く取り揃えていました。
それをいかに安く手に入れ、自分らしく可愛く着こなせるかを“しまラー”の方々は追求しており、主婦の間でも、しまむらをフル活用できる人こそが賢い消費者だということで、もてはやされていたような気がします。

 ところが、今はビジネスのニュースが幅広いメディアで取り上げられ、好調なところには注目が集まりますが、逆に売上が下がってくるとブランドイメージが悪化し、ファンも離れてしまいかねません。前述したように、今のしまむらでは『こんな掘り出し物を見つけられた』という宝探し要素が減ってきていますし、低価格で商品を買えるところは店舗でもネットでもほかにもたくさん増えてきているため、わざわざしまむらに行こうとはなりにくくなっています。

 そして、これは私の推測ですが、現代の若い方々は、単に安いだけの服には飛びつかなくなっている感があります。いいものを買っておいて、自分で大切に長く着たいというマインドの方が増えており、いざとなれば、メルカリなどのフリマアプリで転売することも可能です。そういう意味では、しまむらの置かれた環境は厳しいと言わざるを得ません。とはいえ、世界のアパレル専門店でベスト10に入り、営業利益率も7.6%あり、2~4%台の百貨店に比べて高収益力を誇っており、少し戦力が落ちてはいるものの、勝ち組であることは変わりません。だからこそ、今後の施策がなおさら重要になってくるわけです」(同)

 では、この先しまむらが挽回するためには、どのような手段が考えられるのか。ポイントになるのは、ECへの取り組みやグローバル化だという。

「7月9日、しまむら初のオンラインショップがZOZOTOWN内にオープンしました。かつてはアイテム数が多すぎて、しかも売り切り型だったために、ECで商品登録をして奥行き(数量)を多く売ることは非効率すぎました。けれども、前述した品揃えの絞り込みが、店頭の魅力低下を招く一方で、ECでの効率的な販売体制の確立につながりそうな兆しがあります。
しかも、あれだけ単価が安いものを単独で個別宅配するにはコストがかかりすぎますが、手数料は高いもののZOZOTOWNを通じてまとめ販売・配送ができればメリットも享受できます。何よりも今まで顧客接点がなかった層を新しく開拓するうえで、オンラインショップが有効であることは間違いありません。欲しい色や柄、アイテムなどを気軽に選べ、24時間いつでも購入可能という利便性を提供できるわけですから、売上のシェアを伸ばすこともできるのではないでしょうか。

 それにしまむらには、以前から築き上げてきた、高度な物流システムがあります。もうしばらく時間は要するでしょうが、この物流力をECとうまく掛け合わせることができれば、店舗に在庫を置き、そこからお客への宅配サービスを行ったり、店舗での商品取り置きや引き取りなどによって店舗への送客を促し、客数の拡大に寄与することも可能です。今、しまむらはビジネスモデルを大きく転換しているところなのです。

 もう一つの課題でありチャンスなのが、グローバル化です。もはや海外の売上高が国内を逆転しているユニクロに比べ、しまむらはグローバル化がまったくといっていいほど進んでいないのが弱みでしょう。2001年に英国に進出したユニクロに対して、1998年に台湾に進出したしまむらのほうが海外への出店は先でしたが、2018年2月期の決算によると、台湾での年間売上が約59億円で、中国は約6億円。これに対しユニクロは世界18カ国・地域に出店し、海外の売上高は半年だけで5000億円以上を叩き出しており、しまむらの年間の売上高に追いつきそうな勢いです。

 海外で勝つためには、さらなる商品力とブランド力の強化が必要になります。特に他にない独自性となるPB商品のCLOSSHIを拡充することが解決策になってくるでしょう。
ただ、それが日本のしまむらで期待されていることかというと、恐らくそうではありません。むしろ日本では、CLOSSHIを増やす一方で、減らしてしまった商品のバリエーションを、元に戻すことや、それ以上に、ECで獲得した顧客ニーズを商品開発に生かす、顧客起点の新しいビジネスモデルに転換すべきだと思われます。日本と海外で求められるビジネスモデルのギャップもこれから越えなければいけないハードルなのです」(同)

 物流力やローコストオペレーション力のように、しまむらならではの競争優位性もあるにせよ、若い世代や海外へのアプローチなど、まだまだ課題は山積みのようだ。
(文=A4studio)

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