●「住宅すごろく」という人生ゲーム

「住宅すごろく」という言葉がある。

 上京し、四畳半の古いアパートの一人暮らしから、それは始まる。

収入が増えるに従い、賃貸マンションに住み替え、グレードアップしていく。結婚して、夫婦2人用の「愛の住処」として引っ越す。子どもが生まれ、小学校に上がるくらいには3LDKの分譲マンションを購入する。子どもが大きくなるにつれて手狭になるので、郊外の庭付き一戸建てを手に入れ、住宅すごろくは上がりになる。

 バブル崩壊前までは、この住宅すごろくは多くの人に当てはまり、「郊外の庭付き一戸建て」は夢として存在した。しかし、広さを求めて郊外へ……という潮流はバブルが崩壊した30年前にすでに終わっている。しかも、「上がり」だと思っていた戸建を持て余す人が増え、鍵ひとつで外出ができるマンションに引っ越すケースが増えている。

 人生設計も昔とは明らかに違う。晩婚化は進み、20代で結婚する人は少数派になった。未婚化は、現在30歳の男性の3割、女性は2割が生涯未婚になると厚生労働省は予測している。離婚件数も格段に増えており、新婚早々の「成田離婚」から「熟年離婚」まで、いつ起きてもおかしくない状況にある。そして、平均寿命は90歳に届こうとしているが、定年は60歳のままだ。
老後の単身である確率は50%を見込んだほうがいい。

 これ以外にも、男女雇用機会均等法で女性の転勤辞令も少なくない。転職回数は増え続け、会社の終身雇用は今は昔だ。転勤、転職、職場の移転、給与の増減、出産による休職、リストラ、早期退職などの要因がある。そして、退職金が出ないのも当たり前になった。年金は若年層になるほどもらえず、支給年齢も後ろ倒しが続いている。

●親のアドバイスは聞き流したほうがいい理由

 30年でこれだけ状況が変わると、親の世代に常識だった人生設計はもはや参考にならないだけでなく、親のアドバイスは時代錯誤になる可能性が高い。親を見て、「マイホームは結婚して、子どもが生まれてから」などと思っていたら、未婚のまま40歳になっているかもしれず、定年まで20年しかない。やっと家を買ったとしても、離婚・転勤・介護に直面するかもしれない。

 だからこそ、いずれ住み替えるタイミングは来るかもしれないと予期しておいたほうがいい。そして、その際に家を売れる状況にしておかないといけない。そのためには、買ってから大きく値下がりするようなことは絶対に避けなければならない。
なぜなら、引っ越しできなくなるからだ。離婚したのに、同じ家に住む男女は意外と多い。マイホームが“牢獄”か“地獄”と化している人生は、誰もが避けたいことだろう。

●「家は一生もの」という幻想

「終の棲家(ついのすみか)」という言葉がある。そのためか、家を購入すると永住するように思っている人が多いが、都市部ではそうではない。首都圏のマンションでは、10年で約2割が住み替えており、都心部では約3割に及ぶ。30年以上のローンを組もうが、一生住む権利を得ただけで、住み続ける義務を負わされたわけではない。永住はひとつの選択肢にすぎない。

 住宅ローンも、実質的には15年ほどで完済されるケースが多い(「フラット35」を運営している住宅金融支援機構調べ)。35年ローンを組んでも、平均15年で売却して住み替えるか、全額繰り上げ返済しているのが実態なのである。離婚して売ったかもしれないし、もっと広い家にステップアップしたかもしれない。いずれにしても、住宅ローンを組んだ際の将来イメージより15年は短い人が多いはずだ。


 私は10年で住み替えることを提唱している。人生は進学、就職、結婚、出産、転勤、離婚、再婚、介護などのライフイベントで区切られる。そのタイミングは10年スパンをひとつの目安にしたい。なぜなら、日本の教育制度は6・3・3・4年制だ。小中で9年、中高大で10年になる。社会に出てから結婚するまでの期間も約10年だ。世帯構成やライフスタイルが変わるのに合わせるなら、10年がひとつの目安となる。

「一生もの」という売り文句があるが、実際にその商品を一生使うとは限らない。電池の切れている腕時計や着なくなった皮のコート、大きな箱にしまわれたブーツや年に一度も使わない万年筆など、一生ものというのは幻想に近い。使用頻度と使用価値がないものが「一生もの」とはお寒い限りだ。

 不動産は「一生に一度の高い買い物」といわれることもあるが、これも幻想だ。不動産から「一生」のレッテルを剥がそう。
ライフイベントごとにライフスタイルが変わるので、そのたびに住み替えるのが合理的だ。

●10年で住み替えるために必要な視点

 住み替えるのに必要なことは、物件が値下がりしにくいことだ。不動産は実物に投資しているので、値下がりされると困る。その上、住宅ローンという多額の負債を負って、銀行のお金で住んでいるようなものだ。だから、値下がりすると売れなくなり、ローンが終わるまで住み続けることを余儀なくされる。

 逆に値下がり幅が小さいか、むしろ値上がっていたら、積極的に住み替える意味を見いだせる。それは、含み益を現金に換えることができるからだ。このためには、売るしか方法がない。マンションで資産形成する方法は意外に簡単で、物件の選び方を学ぶだけでいい。すべてのマンションの資産性の良し悪しを「住まいサーフィン」という無料会員制サイトで公開しているので、それだけで成功確率をかなり上げられる。

 実際、住まいサーフィン会員の実績は、71%が購入価格より値上がりし、平均で資産を2200万円増やしている。私の値上がり益はすでに1億円を超えている。
この含み益は売却で現金化される。住み替えてつくった現金を次の頭金に入れて、資産を増やしながら、子どもが巣立った場合には家をダウンサイズしよう。こうすると、面積減少分の現金を手に入れることができる。

 こんな住み替えができると、持ち家はお金をもらいながら住んでいるに等しい。家賃を払っている賃貸とは大違いで、ここ10年では、持ち家と賃貸のトータルコストは3000万円の差になっているのが実態だ。

 こうなると、「結婚したら」とか、「子どもが生まれたら家を買おう」という、これまでの常識は意味がないのがわかるだろう。独身のうちから家を買って、結婚する際は買い替えるのがこれからの当たり前だ。持ち家が資産形成できるのに対して、家賃は掛け捨てでしかないのだから。

●10年で住み替えるべき11の根拠

 10年は、ライフイベント以外にも区切りとしてちょうどいい。その理由は11ある。

 詳細は本稿では割愛するが、(2)の住宅ローン控除だけでも400万円になる。全部合わせれば、知っているか知らないかの違いで1000万円は軽く超えるだろう。
あとは行動あるのみである。

(1)含み益を実現益にしても自宅の売却益は3000万円まで無税である
(2)住宅ローン控除の期間が10年で切れる(最大400万円、共有なら2倍)
(3)「フラット35S」の金利優遇は10~20年で設定されている(最大約200万円の差)
(4)固定資産税の新築マンションの減額には5年の期限がある(数十万円の差)
(5)次に買いたい人は10年以内を望んでいる
(6)約10年で故障し始める住宅設備は多い
(7)共用施設は最初の数年だけで使われなくなる
(8)大規模修繕(築12~15年)を回避する
(9)築年で競争力を失い、貸す場合の家賃は安くなっていく
(10)自分が生きている間に耐用年数(47年後)が来てしまう
(11)売主の瑕疵担保保険の期間は10年で切れる

 だからこそ、その解決策が10年での住み替えとなる。
(文=沖有人/スタイルアクト(株)代表取締役、不動産コンサルタント)

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