9月25日、東京の日本橋にある百貨店「日本橋高島屋」の新館がオープン。これにより日本橋高島屋は、本館、ウオッチメゾン、東館、新館の4館体制となる都市型ショッピングセンター「日本橋高島屋S.C.(ショッピングセンター)」へと生まれ変わった。
日本橋高島屋S.C.全体のコンセプトは「『美しい暮らしスタイル』を発信する店」であり、新館のコンセプトは「『日本橋生活者』のための場の提供」。新館を職場でも家でもない居場所、いわゆる「サードプレイス」として提供することで、日本橋付近に住む人や、日本橋で働く人に「美しい暮らしスタイル」を発信していくことを目的としている。
そのため、テナントのおよそ4割を飲食店が占めていたり、ヨガスタジオや茶道教室といった体験型テナントを擁していたりと、日本橋高島屋新館は百貨店として異質な特徴をいくつも持っている。特に注目を集めているのが、一部店舗ではあるが早朝・深夜営業を行っている点だ。朝は7時30分から一部飲食店などが開いており、夜はレストランフロアと一部店舗が23時まで営業している。そのため、仕事の前後にビジネスパーソンが利用できる百貨店となっているのだ。
しかし、コンビニエンスストアやファストフード店などがあるのに、わざわざ百貨店を利用する客がいるのか、と懐疑的な意見が挙がっているのも事実。そこで今回、新館のオープン直後の賑わいがひと段落したであろう10月初旬、早朝と深夜に高島屋新館へと赴き、調査を行った。果たして日本橋高島屋新館は「日本橋生活者」に受け入れられているのかレポートしていこう。
●早朝にもかかわらず“朝活”をする人の姿が 有名パン屋には行列も
平日の朝7時30分頃、開店直後の高島屋新館に入店する。この時間帯から空いている店舗は、地下1階のパン屋「リチュエル」と、地上1階の飲食店を中心とした9店舗、4階のヨガスタジオ「リベリー」、5階の「スターバックス」である。
先に結論をお伝えすると、早朝客のほとんどは1階の飲食店利用者であり、地下1階の「リチュエル」や4階の「リベリー」は深夜のコンビニのようなガラガラ具合。
まず、新館の1階で早朝営業している店舗は以下の通り。
・「銀むすび」(おにぎり専門店)
・「神戸牛のミートパイ」(ミートパイ専門店)
・「ポタスタ」(サンドイッチ専門店)
・「カユ・デ・ロワ日本橋」(中華粥専門店)
・「365日と日本橋」(ベーカリー)
・「ディーン&デルーカ カフェ」(カフェ)
・「ニュートラルワークス.スタンド」(カフェスタンド)
・「紀ノ国屋アントレ」(スーパーマーケット)
・「ジーエムティー ファクトリー」(靴や服などの修理店)
一通り回ってみて感じたところとしては、やはり早朝なだけあって客数自体は多くない。しかし、そのほとんどがカフェやイートインスペースに滞在していたため、決して閑古鳥が鳴いている、という感じではなかった。座席の埋まり具合としては、大きな店舗であれば3~5割程度、小さな店舗や併設されたイートインスペースなら6~8割程度といったところか。また、見る限りの客層としては、ほとんどが出勤前のビジネスパーソンであり、その7~8割が女性であった。
果たして彼らがどのように過ごしているか確かめるため、筆者も「ディーン&デルーカ」で朝食をとることに。ケイジャンチキンサンド(650円・税込、以下略)とブレンドコーヒーのSサイズ(320円)を注文し、着席した。
周りを見渡してみると、ほとんどの客が本や新聞を読んだり、パソコンを広げたりと、何かしらの作業を行っていた。また、食事メニューの注文率も高く、コーヒー1杯で居座るタイプがほとんどいないのも印象的であった。静かで人も少ないため、始業前の時間を有意義に使う、いわゆる“朝活”にはピッタリかもしれない。
先述の通り全体的な客数自体は少なかったのだが、そんななか、入り口から客があふれ出し、列を形成するほどの盛況っぷりを見せていたのが、ベーカリーの「365日と日本橋」である。なんでもここは、渋谷区にある人気ベーカリー「365日」の初となる商業施設出店舗だそうで、オープン前から評判になっていたらしい。同店は高島屋の正面入り口近くに設置されているのだが、入店して一直線にここを目指し、目当てのパンを購入してすぐに退店する客も幾人か見られた。
飲食店以外にも目を向けていこう。スーパーマーケットの「紀ノ国屋アントレ」の客入りは筆者の入店時で5、6人程度といったところ。大半は朝食や昼食を購入するビジネスパーソンだったが、近所に住んでいると思しき装いのマダムも見受けられた。
また、靴や服などの修理店である「ジーエムティーファクトリー」を利用する客の姿は見られなかった。ただ、通勤途中に靴などが壊れた際に、早朝から開いていてくれれば、ありがたい存在であるのは間違いないだろう。
●深夜もレストランは大賑わい 成城石井に駆け込む客もちらほら
次は深夜営業だ。23時まで営業していたのは、地下1階のスーパーマーケット「成城石井」と、7階のレストランフロア。4階の「リベリー」も22時30分まで営業していた。
最もにぎわっていたのは7階のレストランフロアだ。営業店舗は以下の通り。
・「アジアンビストロダイ」(エスニック)
・「焼肉チャンピオン」(焼肉)
・「シュマッツ・ビア・ダイニング」(ドイツ料理)
・「ミゲルフアニ」(スペイン料理)
・「マヌエル マリシュケイラ」(ポルトガルシーフード)
・「ブラザーズ」(ハンバーガー)
・「セッティエム ブラッスリー&バー」(ブラッスリー&バー)
全体的な席の埋まり具合は4、5割程度。客層は仕事終わりのビジネスパーソンがほとんどで、男女比も同じくらいという印象だ。みな仕事の話や世間話に花を咲かせており、静かな早朝とは打って変わったにぎやかさであった。
次は地下1階の「成城石井」に移ろう。さすがに時間が時間なため、店内は閉店ムード漂う静けさであったが、駆け込んでくる客がちらほらと見受けられ、店内には常に2、3人ほど客が滞在していた。店舗的に採算が取れているのかどうかはわからないが、その存在に助けられる客がいるのは事実のようだ。
また、タイミングの問題もあるかもしれないが、この時間帯も「リベリー」の利用客は見当たらなかった。忙しいキャリアウーマンにとって、遅い時間まで空いているヨガスタジオがありがたい存在であることは間違いないだろうが、そう頻繁にお世話になるものでもないのだろうか。
●現時点では、日本橋高島屋新館は「日本橋生活者」に受け入れられている
早朝と深夜、それぞれの営業に足を運んだ感想としては、総合的に見れば、日本橋高島屋新館は「日本橋生活者」たちに受け入れられているといっていいだろう。
また、日本橋高島屋S.C.のすぐ近くにあるショッピングパーク「コレド日本橋」のレストランフロアは、以前から23時まで営業している。これはあくまで推測だが、新館の深夜営業は、同じ駅直結のショッピング施設であるコレド日本橋に対抗する意味もあるのではないだろうか。
今のところは早朝・深夜営業もうまくいっているように思えるが、そもそも日本橋高島屋新館は、まだオープンしたばかり。今後、継続して「日本橋生活者」に受け入れられる存在でい続けられるかどうか、ここからが高島屋にとっての正念場だろう。
(文・取材=A4studio)