鉄道の線路と道路とが平面で交差する場所を踏切という。2016(平成28)年3月31日現在で、全国の鉄道路線の延長は2万8079.3キロメートルあり、3万3856カ所の踏切が設けられている。

平均すると830メートルおきに踏切が現れる計算だ。

 踏切がどれほど多いかは、鉄道に関する施設や構造物の数と比べるとすぐにわかる。駅や停留場の数は1万28カ所であるし、トンネルに至っては4920カ所にすぎない。全国に13万7510カ所に設けられた橋梁(きょうりょう)が踏切を上回っているのが目立つ程度だ。

 一口に踏切とはいうが、列車から道路を通る自動車や歩行者などを守るための保安設備の差によって、第一種から第四種までに分けられる。

 第一種とは遮断機と警報機とを備えた踏切を指す。
全国に3万207カ所設けられていて、踏切のなかで最も多い。

 第二種とは係員によって遮断機を閉じる踏切を指す。これだけならば第一種の踏切となるが、第二種の踏切の場合、遮断機は道路を通る自動車や歩行者が多い時間帯にだけ閉じられる。実は第二種の踏切は今では1カ所も存在しない。

 第三種とは警報機だけを備えた踏切を指す。全国に774カ所が設けられている。
本来、今日では踏切はすべて第一種としなくてはならない。しかし、列車の本数が少ないとか、道路を通る自動車の通行量が少ない場合に限って第三種の踏切の設置が認められている。

 第四種とは遮断機も警報機も備えられていない踏切だ。全国に2875カ所設けられている。第三種と同様、第四種の踏切も本来は設置してはならない。だが、将来第一種か第三種かに改造を行うまでは第四種のままでよいと、事実上黙認されている。


●どのように作動するのか?

 最もよく見かける第一種の踏切はどのように作動するのであろうか。第一種の踏切のうち、遮断機が自動的に作動する踏切を例に見てみよう。

 まず、列車が近づくと警報機から警報音が鳴る。どのくらいの距離まで接近したときかは、その踏切を通る列車のなかで最も速い列車に合わせてあるので一概にはいえない。しかし、時間で示すことは可能で、一般的に列車が踏切に到達する35秒前だ。仮に列車の最高速度が時速100キロメートルであれば、踏切の972メートル手前に列車が近づいたときに警報音が鳴り出す。


 カンカンなどと表現される警報音の音程に特に基準はない。ただし、音量は決められていて、スピーカーの前面から1メートル離れた場所で80ホンとすることが定められている。住宅地などで騒音が気になる場所では、遮断機が降りた後は警報音の音量を下げてもよい。

 踏切に線路が2本以上敷かれているとき、列車がどちらの方向に走っているかを示すための列車進行方向指示器を設けなくてはならない。警報機の近くにある矢印を表示する機器で、見たことのある人は多いであろう。

 列車進行方向指示器は意外にも、線路が1本の踏切、つまり単線の場合は不要とされている。
でも、単線の踏切こそ列車がどちらからやって来るかが気になるので、設置の対象にしてほしいのだが、いかがであろうか。

 遮断機は警報機の警報音が鳴り出してしばらくしてから動き出す。竿状の遮断桿(しゃだんかん)を同時に降ろしてしまうと踏切内に自動車や歩行者が閉じ込められてしまうからだ。「しばらく」とはどのくらいかというと、警報の開始から遮断機の動作終了まで少なくとも10秒以上で、15秒が標準と決められている。先ほど、警報機が作動して列車が踏切に到達するまで35秒と記した。ということで、遮断棹が降りきってから、列車がやって来るまでの時間は20秒となる。


 黄色と黒色との帯状に塗り分けるように定められている遮断桿は、降りきったときに道路の路面から80センチメートルの高さで水平となるように定められた。遮断桿は原則として、線路の両側とも道路の幅全体をカバーしなければならない。よく見かける遮断機といえば、普段は垂直に向いていて、降りきったときに水平となる腕木式というものだ。この場合、道路の両側に遮断機を1基ずつ設置する決まりとなっている。

 なお、自動車や歩行者の通行量が少ない踏切では、道路の片側だけに遮断機を置いてもよい。この場合は道路から踏切に向かって左側に設ける。言うまでもなく日本は左側通行の国であるからだ。

 一種の踏切はもっとも保安度が高いと言われるものの、さまざまな問題が残されている。たとえば、線路が何本も敷かれていて渡る距離が長い踏切では、警報機が鳴り出してから列車が踏切に到達するまでの35秒に、果たして渡りきることができるかという問題だ。もちろん、通常は35秒よりも長めの時間に調節してあるケースが多い。しかし、それでもお年寄りや体の不自由な方々が踏切内に取り残され、不幸にも列車にはねられてしまうという痛ましい事故がしばしば起きている。国土交通省によると、2016(平成28)年度に起きた踏切事故の件数は220件で、死者は96人、負傷者は93人であるという。96人の死者のうち、65歳以上の高齢者は51人と過半数を占めているのだ。

●1カ所を取り除くために56億円

 さて、多くの踏切では道路が長時間遮断され、人々を悩ませている。いわゆる開かずの踏切だ。開かずの踏切には定義があり、ピーク時の遮断時間が1時間当たり40分以上の踏切を指す。2017(平成29)年3月31日現在で全国に589カ所もある。

 開かずの踏切を解消するための根本的な方法は一つしかない。線路と道路とを立体交差として踏切をなくすことだ。その際、線路を高架橋や地下トンネルに通し、通常は1カ所だけでなく、何カ所かの踏切をまとめて取り除く連続立体交差化が一般に行われる。
 筆者が調べたところ、2010年代に大手民鉄8社で9区間の計19.7キロメートルで連続立体交差化が実施され、合わせて82カ所の踏切が除去された。開かずの踏切が姿を消してめでたいものの、事業費もまた膨大だ。事業費の総額は4574億円で、1カ所の踏切を取り除くために56億円を要したこととなる。

 連続立体交差化に要する事業費は、JR各社や大手民鉄といった資金力の比較的豊富な鉄道会社でさえ大きな負担だ。鉄道会社が自前で整備するというケースはまれというか、皆無に近い。それではどうしているかというと、地方自治体が都市計画事業として連続立体交差化を行っており、鉄道会社の負担は大幅に軽減される仕組みが整えられた。

 連続立体交差化に際しての鉄道会社の負担割合は地域によって異なる。東京23区で15パーセント、首都圏や近畿圏、中部圏の主要部は10パーセント、近畿圏の近郊整備区域や中部圏の都市整備区域、さらには首都圏や近畿圏、中部圏を除いた地域で人口30万人以上の都市では7パーセント、いま挙げた地域以外では4パーセントだ。

 鉄道会社の負担割合が人口の密集度が高い場所、つまり地価の高い場所ほど大きいのは理由がある。人口密集地ほど、鉄道会社は連続立体交差化によって誕生した高架下で商業施設などを展開しやすくなり、鉄道会社が収入を得られる度合いが高まると考えられたからだ。

 さらにいうと、連続立体交差化に要する事業費の負担割合は、高架下に設けられた商業施設などの割合が過半数を超えると、さらに高められると決められた。高架下の商業施設などが50パーセント以上、60パーセント未満であれば事業費の負担割合は16パーセントに、60パーセント以上ならば17パーセントへとはね上がる。

 先ほど紹介した2010年代の大手民鉄の連続立体交差化のなかでもっとも事業費を要したのは、京浜急行電鉄本線の梅屋敷-六郷土手間と、同じく空港線の京急蒲田-大鳥居間で行われた延べ6.0キロメートルであった。この区間では28カ所の踏切を除去するために1892億円の事業費を要した。連続立体交差化が行われた範囲は東京都23区であるから、京浜急行電鉄の負担割合は15パーセントとなり、284億円を支払った計算だ。同社が2015(平成27)年度に鉄道事業で挙げた収益は820億円であった。一口に踏切を取り除くと言っても鉄道会社にとって大変な負担であることがよくわかる。
(文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)