このところ、天下の三菱グループを支える御三家の苦戦が続いている。特に、三菱重工業の不振は際立っているが、三菱UFJ銀行もパっとしない。

銀行業界の盟主として君臨してきた同行は業界全体がゼロ金利政策で喘いでいるために、必然的に苦しい状況下にある。ゼロ金利政策によって、銀行業界全体が融資で利益を出すことが難しくなっている。

 唯一、御三家で元気がいいのは三菱商事だが、それを凌ぐ勢いを見せているのが三菱地所だ。三菱地所は三菱グループのなかでは御三家に大きく水をあけられており、グループ内での発言力は段違いだった。

 そもそも、三菱地所は経済界・不動産業界から“丸の内の大家さん”と形容されるように、東京・千代田区の丸の内一帯に広大な不動産を有している。その不動産経営だけで十分に利益をあげることができる。そのため、三菱地所の経営は常に守りの姿勢が強かった。

 東京駅の反対側に位置する三井不動産は、三菱のライバルでもある三井グループに列する企業。しかも、三井不動産は三井グループの番頭格でもある。

 三菱と三井という違いはあるものの、両社のポテンシャルは絶大。そのため、東京駅が境界線となり、三菱地所と三井不動産は互いの“領土”を侵攻しないことが暗黙の了解だった。三菱というブランドがあっても、三菱地所にとって三井不動産は強敵。
下手に日本橋側に進出して、三井不動産の逆鱗にでも触れたら一大事だ。三菱地所と三井不動産の関係は、たとえるなら冷戦と同じ。それでも、表向きでは共存共栄を図ってきた。

 しかし、三菱御三家不調に陥ると三菱地所への期待が強まる。三菱地所は各地で不動産開発を活発化させることになり、丸の内から“丸の外”へと勢力圏の拡大を図った。そして、ついに三菱地所は三井の牙城でもある日本橋エリアへと侵攻を開始。それが、千代田区大手町2丁目と中央区八重洲1丁目にまたがる「東京駅前常盤橋プロジェクト」だ。

 同プロジェクトは、三井の牙城でもある日本橋エリア圏内だ。三菱地所が殴り込みをかけたのだから、三井不動産の心境が穏やかなはずがない。業界関係者は言う。

「三菱地所は三菱グループの“四男坊”とはいわれているものの、御三家が絶対的な立場にあって、その差は歴然。その三菱地所が、なんとかグループ内の立場を向上させようと躍起になっているのはわかります。
だからといって、積年のライバル・三井の牙城に殴り込みをかけるのだから、これは、もう天下分け目の戦いのように考えているのでしょう。同プロジェクトの完成は2027年をメドにしているようですが、東京五輪あたりにその全貌が見えてくるはずです。となると、そのあたりで勝敗はある程度見えてくることになるでしょう。三菱地所が勝算なく攻め込んだとは思えませんが、三井不動産相手にどこまでやれるのかが注目されています」

 同プロジェクトでは、大阪のあべのハルカスを抜いて日本一の高さとなる390メートルの超高層ビル建設も謳われている。この超高層ビルが東京駅前常盤橋プロジェクトの目玉でもあるわけだが、「ランドマーク的な超高層ビルが竣工すれば、三井を刺激することは確実。かなり野心的な計画」(前出・業界関係者)。

●丸の内から“丸の外”へ

 三菱地所は、このところ得意とする丸の内から飛び出し、エリア外でも大型案件に次々と挑んでいる。そのため、三菱地所が丸の内から“丸の外”へターゲットを切り替え始めたとまで囁かれる。

 そうした三菱地所の丸の外への進出で特に目立っているのが、空港運営への参入だ。

 近年、各地の空港は運営を民間委託化する動きが活発化しているが、三菱地所は香川県の高松空港や静岡県の富士山静岡空港、宮城県の仙台空港などの運営に手を挙げた。また、北海道では道内の7空港の運営を一括で民間委託化するが、その1次審査を通過したのは3者あり、三菱地所を中心とした企業連合がリードしているといわれる。

 空港運営にくわえ、さらに三菱グループ内でも序列に変化を生じさせかねない事態が起きようとしている。


 フィンテックの隆盛で金融業界はリアル店舗の必要性は低下しつつある。銀行をはじめとする金融業界はIT化によって店舗に余剰が発生しており、縮小・統合を急ピッチで進める。かつて銀行などの店舗は営業拠点として重要視されたが、今では明らかに不良資産化した店舗も多い。三菱UFJフィナンシャル・グループは三菱地所と合弁で新会社を設立し、新会社が不良資産化した店舗の整理を担当する。

 三菱UFJ銀行の店舗などは、都市圏なら駅前一等地、地方都市でも国道沿いなどの交通量の多い場所に店舗を構えている。これらを活用することができれば、三菱地所はグループ内での立場を強くするだろう。

 三菱グループの“四男坊”に甘んじてきた三菱地所は、御三家の不振を尻目に新たな商機を見いだした。三菱グループ内での力関係に、大きな変化が生じることは必至だ。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)

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