牛丼店「すき家」を展開するゼンショーホールディングス(HD)は、米国の持ち帰り寿司チェーン、アドバンスド・フレッシュ・コンセプツ(AFC)を2億5700万ドル(約288億円)で買収し、完全子会社にする。

 AFCは、米国を中心にカナダやオーストラリアに4000店超を展開。

フランチャイズチェーン(FC)中心の持ち帰り寿司専門店で、2017年6月期の売上高は2億2599万ドル(約253億円)。ゼンショーHDにとって過去最大規模のM&A(合併・買収)となる。

 持ち帰り寿司チェーンを傘下に収める狙いは、自宅に持ち帰って食べる中食ビジネスに本格参入することにある。AFCの店舗網を生かして中食分野を開拓する。

 ゼンショーHDは、アジアや南米を中心に牛丼店「すき家」を425店(8月末時点)展開するが、北米には店舗を持っていなかった。米国にはハム・ソーセージの製造会社しかなかったが、AFCの買収をテコに米国で本格的な外食事業に乗り出す。

 主力の「すき家」は、人口減に加え原材料や人件費の高騰もあり、収益構造は年々厳しくなっている。そこで海外への出店を加速するわけだ。ゼンショーHDの19年3月期の連結売上高は前期比8%増の6237億円、営業利益は同16%増の203億円、純利益は同8%増の86億円を見込む。

 AFCの買収によって、牛丼店「すき家」や回転寿司「はま寿司」など既存のブランドの米国進出につなげたい考えだ。なぜならAFCは、かなりユニークな会社だからだ。

●スーパーでの寿司の実演販売からスタート

 特定非営利活動法人、日本食レストラン海外普及推進機構(JRO)は17年6月22日、通常総会を東京・港区の笹川記念会館で開いた。
JROは07年7月に設立され、10年目だった。JRO10周年記念講演会には、10年に日本食の普及貢献部門で農林水産大臣賞を受賞したAFC代表取締役の石井龍二氏をゲストスピーカーとして招いた。

 石井氏は全米最大の持ち帰り寿司チェーンで大成功したことで知られている。1952年生まれの静岡県出身。25歳で渡米してカリフォルニア州立大学ドミンゲスヒルズ校に通い、会計を専攻した。卒業後、公認会計士事務所を経て、日系の食品会社に会計担当として転職。これがフードビジネスに携わるきっかけとなった。ここで「寿司の実演販売をやったらどうか」と提案したが、受け入れられなかった。

 そこで一念発起して独立。86年、AFCをロサンゼルスに設立。AFCはADVANCED(斬新性)、FRESH(新鮮)、CONCEPT(構想力)の意味。スーパーマーケットの惣菜コーナーで寿司の実演販売を始めた。
スーパーでの実演と販売を兼ねたデモンストレーション・スタイルで寿司の普及に成功した。

 その後、米国で3700店を展開するテイクアウト寿司のNo.1企業となり、カナダ、オーストラリアを合わせると4000店舗を超える。

 米国のスミソニアン博物館で開催された「アメリカン・オン・ザ・ムーブ」という産業界の優れた企業リーダー16人を称える会合で、石井氏は「寿司はアート(芸術品)だ」というコンセプトで登壇し、見栄えのするさまざまな寿司を紹介したという。

●妙高市の名門リゾートホテル「赤倉観光ホテル」を買収

 石井氏は、新潟県妙高市にある「赤倉観光ホテル」のオーナーでもある。

 赤倉観光ホテルは1937年、大倉財閥が建てた本格的な高原リゾートホテル。当時、日本政府は外貨獲得策として国際リゾートホテルの建設を推進した。そのひとつが赤倉観光ホテルで、創業以来、皇室や国内外のVIPに利用された伝統と格式あるリゾートホテルである。

 戦後、旧大倉財閥の資産管理会社を引き継いだ大倉商事がバブル期にゴルフ場、スキー場にのめり込み、巨額の負債を抱えて倒産した。債務整理の一環として「川奈ホテル」や「赤倉観光ホテル」など名門ホテルの民事再生法を申請し、売り渡すことになった。

 石井氏は2004年、総支配人の要請で赤倉観光ホテルを買収し、経営を引き継いだ。経営再建の一案として、温泉を掘削して日帰り温浴施設をつくるアイデアが浮上。09年12月、露店風呂付温泉大浴場、スパサロン、露店風呂付客室を備える新館をオープンしたところ、これが大当たりした。


 この勢いを駆って、伊豆吉奈温泉で400年続く老舗旅館を買収。箱根や熱海で赤倉観光ホテルのベーカリーショップを出した。AFCをゼンショーHDに売却した資金で、故郷の静岡県でリゾートホテル事業に本腰を入れるとみられている。
(文=編集部)

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