『文藝春秋オピニオン 2019年の論点100』(文藝春秋)が興味深い。本書に掲載されている100のテーマのうち、筆者が注目したのは「ポリアモリー」である。
同時に複数のパートナーを持ち、かつ、その交際に関わるすべての人が、その事実を受け入れているという状況が成り立って初めてポリアモリーといえる。単に浮気している状況ではなく、全員が納得している点が特徴といえる愛の形である。今年5月、文筆家・きのコさんの著書『わたし、恋人が2人います。~ポリアモリーという生き方~』(WAVE出版)が発刊されて話題を集めたこともあり、ポリアモリーであることをカミングアウトする人も増えているようだ。きのコさんに話を聞いた。
まずは、現在のきのコさんの恋愛事情を聞いた。
「本の題名の通り、恋人は2人です。ひとりはもう7年の付き合いで、お互いにホッとできる相手。もう家族に近い感覚だと思います。彼との時間は私にとって、なくてはならないもの。お互いにそう思える相手です。
なんとも潔い答えであるが、そんなきのコさんも以前は、複数の人を好きになってしまう自分を責めたこともあったという。
「いつも複数の人を好きになる自分はおかしいのかな? 人としてダメなのかな? と長い間、悩んでいました。ある時、ポリアモリーを知って、私はポリアモリーなんだということがわかりました。それからはようやく自己肯定ができるようになりました」(同)
この「自己肯定」という言葉が、ポリアモリーの人たちのキーワードのようだ。きのコさんが言うには、ポリアモリーの人は自己肯定感が強い人が多いという。そのためか、社会的にもアッパークラスの人が少なくないという。
「ポリアモリーの関係を成り立たせるためにはパートナー同士の理解が必要だから、それにはコミュニケーションが重要となります。ポリアモリーにはコミュニケーション能力が高い人が多い傾向にあります。コミュニケーション能力が高い人は、人間関係や仕事もうまくいく可能性が高く、アッパークラスの人が多いのも事実です」(同)
たとえば、タレントの叶恭子さんもポリアモリーを公言している。しかし、ポリアモリー的生き方の代表が叶恭子さんと考えると、ちょっとハードルが高い気もしてしまう。
●ポリアモリーに学ぶポジティブ思考
複数のパートナーを持つポリアモリーに対し、ひとりのパートナーを持つ人をモノガミーと呼ぶ。きのコさんは結婚歴があるが、当時のパートナーはモノガミーで、きのコさんがポリアモリーであることを受け入れることができず、離婚に至った。ポリアモリーの恋愛はポリアモリー同士とは限らず、ポリアモリーがモノガミーを恋愛対象とすることもあるという。ポリアモリーへの理解を得てうまくいくケースもあれば、きのコさんのように別れるケースもある。
筆者がきのコさんへのインタビューで感じたことは、ポジティブさだ。きのコさんは、自分がポリアモリーと自覚してから現在まで、自分の気持ちに正直になり、ブレることがない。
「本を出す前は、コラムで自分の恋愛やポリアモリーについて綴っていたのですが、共感の声もある一方で誹謗中傷の声もすごい。『美人じゃないのに』『お金持ちでもないのにポリアモリーなの?』とか、わけのわからない悪口もあります。恋愛は美人やお金持ちだけに許されるものではないし、誰でも自由に恋愛できるし、容姿もお金も関係ありませんよね」(同)
恋愛にはいろいろな形があって当然であり、ポリアモリーを理解できないからと誹謗中傷する理由にはならないと筆者も思う。きのコさんは、実にはっきりと自分の意見を言える女性だが、人に嫌な感じを与えない不思議な魅力がある。
「ポリアモリーの恋愛は、お互いが対等であり、パートナーに無理に合わせることもないので、女性もはっきりと意見を言える人が多いんです」(同)
渋谷区では2015年に同性パートナーシップ条例が認められ、日本社会も愛の形はひとつではないことが認識され始めた。あと4カ月で平成が終わり、新しい時代へと移りゆこうとしている今、愛の形は多様化し、ポリアモリーも社会に広く認められていくようになるのかもしれない。
(文=道明寺美清/ライター)