金曜22時からNHKで放送されているドラマ『昭和元禄落語心中』が12月14日に最終回を迎える。
本作は、のちに昭和最後の大名人・八代目有楽亭八雲となる落語家・菊比古(岡田将生)の半生を描いたドラマである。
第1話で八雲と与太郎、そして八雲の義理の娘・小夏(成海璃子)の関係を描いた後、2話からは菊比古の過去が描かれる。
菊比古は芸者の家に生まれて男でありながら芸者の修行をしていたのだが、足を怪我したことで挫折し、噺家・七代目八雲(平田満)のもとに引き取られる。そこで、菊比古は兄弟子の初太郎(山崎育三郎)と出会う。2人は落語家としての修行に励むが、時は戦時下で、初太郎と師匠の七代目八雲は慰問のために満州に渡り、菊比古は疎開することになる。
戦後、菊比古は帰国した初太郎と共に再び落語と向かい合うが、愛嬌のある初太郎が高い評価を獲得していくなか、自分の落語をつかみきれずにいた。しかし、芸者のみよ吉(大政絢)と出会ったことで女の魅力を知り、色気を打ち出す廓噺(くるわばなし)を自分のものとする。この菊比古と初太郎のライバル関係にみよ吉がからむ、三角関係をベースとした青春時代の物語が何よりおもしろい。物語自体も2~6話という長尺が割かれており、もっとも力が入っている。
菊比古の青春時代は、初太郎とみよ吉が命を落として、菊比古が八代目八雲を襲名することで終わりを迎える。その後、菊比古は初太郎とみよ吉の娘・小夏を引き取ることになるのだが、見どころは菊比古が年を重ねて老いていく姿だ。菊比古を演じる岡田将生が白髪になり、頰がこけて顔が骸骨のようになっていく姿は、老いと同時にさまざまな苦悩を抱え込んでしまった業が表情に表れていてビジュアルに説得力がある。
もともと、岡田将生は色気のある俳優だ。映画『告白』と『悪人』(共に東宝)に出演して以降は、整った顔を逆手に取って、薄っぺらいイケメンが醸し出す無邪気な悪意のようなものを演じさせたら右に出る者はいない俳優となった。
今作で岡田はひとりの人間が老いていく姿をじっくりと演じたのだが、色気が失われていくのではなく、老いて死期が近づくと、若いときとは違う色気が生まれるのは見ていておもしろかった。菊比古を演じたことは、俳優として大きな経験だったのではないかと思う。
そんな菊比古の物語の背骨を支えているのが、言うまでもなく寄席で行う落語の場面である。岡田たち俳優が演目を覚えて落語家のようにしゃべるという再現性の素晴らしさはもちろんだが、艶っぽい菊比古の落語と、天性の明るさで人を惹きつける初太郎の落語の見せ方の違いで、それがそのまま各キャラクターの個性とつながっているところがドラマとしての見応えにつながっている。
●落語とテレビドラマの相性がいい理由
もともと、落語を題材にしたドラマや映画には傑作が多い。
宮藤官九郎脚本のドラマ『タイガー&ドラゴン』(TBS系)と、藤本有紀脚本の連続テレビ小説『ちりとてちん』(NHK)がその2大筆頭で、特に『タイガー&ドラゴン』は作品単体の評価だけでなく、人気が凋落していた落語というジャンル自体の再評価に一役買っている。
『昭和元禄落語心中』はもともと、原作漫画が高く評価されており、アニメ版も高い評価を獲得していた。その意味でドラマ化については相当のプレッシャーがあったと思うが、見事な人間ドラマとなっている。
落語を題材にしたドラマがおもしろいのは、ひとつは落語家たちの、師匠と弟子の関係や兄弟子と弟弟子の関係がドラマの題材としてつくりやすいからだろう。
また、落語の演目を本編にからめることでドラマが重層的になる。
これは『タイガー&ドラゴン』や『ちりとてちん』にもあるドラマ構造だ。もちろん、落語を知らなくても濃密なドラマを楽しめ、逆にドラマを観て落語に興味を持つという効果もある。『タイガー&ドラゴン』が落語ブームを呼ぶきっかけとなったのは、ドラマ自体が落語を紹介する構造となっていたからだ。
そして、何より落語の精神自体がテレビドラマと相性がいいのだろう。TBSでドラマ化もされた立川談春の自叙伝『赤めだか』(扶桑社)には、師匠の立川談志の言葉が多数登場する。談志は、落語はほかの芸能とはまったく異質のもので、『忠臣蔵』で言えば討ち入りに参加した赤穂四十七士の英雄譚ではなく、討ち入りに参加せずに逃げちゃった人々の側を描いた物語なのだ、と語っている。
「落語とは人間の業の肯定である」という立川談志の有名な言葉があるが、これは戦後日本のサラリーマンや家族といった庶民の物語を描き続けてきたテレビドラマにも当てはまる。もしかしたら、テレビドラマは現代の落語なのかもしれない。
(文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家)
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