鳥貴族が赤字の一歩手前だ。12月7日発表の2018年8~10月期の単独決算は、最終的な儲けを示す純利益が、前年同期比75.9%減の5800万円だった。
売上高は、前年同期比10.0%増の89億円だった。新規出店を進めたことで、店舗数が同期間に9店増えたことが影響した。しかし、本業の儲けを示す営業利益は同65.0%減の1億3600万円と大幅に減ってしまった。売上高営業利益率はわずか1.5%で、前年同期の4.8%から大きく後退している。
利益が減ったのは、客離れにより既存店売上高が減少したことが大きく影響したためと考えられる。昨年10月に全品一律税抜き280円から298円に値上げ(約6%の値上げ)した影響で客足が遠のき、既存店売上高が前年同期から8.3%も減った。これにより固定費の負担が重くなり、利益を押し下げたと考えられる。
高騰する原材料費や人件費を吸収することを目的に鳥貴族は値上げを断行したのだが、現状、目論見通りに進んでいない。原材料費や人件費がすべて変動費(売上高に応じて増減する費用)であれば、たとえ売上高が減ったとしても、それと同じ割合で変動費は減るので大きな問題とはならなかった。
もう少し具体的に見てみる。
今回、売上高に占める売上原価の割合を示す売上原価率は、前年同期から1.8ポイントも改善(低下)し29.6%になった。一般的に売上原価は変動費の割合が多いとされるため、全品同率で値上げすると、売上高に占める変動費の割合が低下することで売上原価率は高い確率で改善する。このような原理が働くため、売上原価率が今回改善したのは、値上げが大きく影響したと考えていいだろう。原材料費の高騰が売上原価を押し上げた側面もありそうだが、値上げ効果がそれを上回ったと考えられそうだ。
一方、売上高に占める販管費及び一般管理費(販管費)の割合を示す売上高販管費比率は前年同期から5.1ポイントも悪化(上昇)し68.9%になった。販管費は売上原価と異なり、人件費や家賃などの固定費の割合が多いとされるため、売上高の伸びが鈍い、あるいは売上高が低下してしまうと、販管費比率は高い確率で悪化してしまう。今回、客離れで既存店売上高が低下し、さらに人件費が上昇した可能性も考えられ、こららが影響して売上高の伸びよりも販管費の伸びが大きくなって販管費比率が悪化してしまったと考えられる。値上げにより販管費比率の改善効果が生まれた側面もありそうだが、既存店を中心とした収益悪化がそれを相殺してありあまるほどの販管費比率の悪化要因になってしまったと考えられそうだ。
なお、鳥貴族は全店舗の4割弱がフランチャイズ(FC)店で、FC店からのロイヤリティ収入などを計上している側面もあるため、上記について一概にはいえない部分があることをご了承いただきたい。
さて、上記を整理すると、売上原価率が1.8ポイント改善し、販管費比率が5.1ポイント悪化したわけだが、この2つを差し引きした後の値(3.3ポイント悪化)がコスト全体の改善(悪化)効果となる。そしてこれがそのまま売上高営業利益率に反映される。つまり、営業利益率は前年同期から3.3ポイント悪化することになり、1.5%という低い営業利益率、1億3600万円という記録的な低営業利益となってしまったわけだ。値上げにより利益率の改善(増加コストの吸収)を見込んだが、利益率を改善するどころか悪化させてしまい、かつ、利益の額も大幅に減らす結果に終わってしまった格好だ。
客離れは、とどまるところを知らない。既存店客数は11月まで12カ月連続で前年同月を下回っている。売上高は11カ月連続でマイナスだ。しかも、18年10月と11月は値上げから2年目となるが、それぞれ1年目よりも客離れが進行してしまっている。1年目の10月は前年同月比5.3%増だったが、2年目は7.5%減とマイナスに転じた。1年目の11月の客数は3.8%減だったが、2年目は6.5%減とマイナス幅が拡大し、客離れは拡大している。
●そもそも値上げは不要だった?
はたして、鳥貴族は値上げする必要があったのか。後出しジャンケンのようなかたちになってしまうが、筆者は値上げに疑問を持っていた。
値上げ直前の17年7月期の鳥貴族の営業利益率は5.0%。これはかなり高い数値だ。財務省発表の法人企業統計によると、17年度の飲食サービス業の営業利益率の平均は2.1%にすぎず、鳥貴族の半分にも満たない。資本金10億円以上と大きな企業でも4.6%にとどまる。鳥貴族の5.0%の大きさのほどがわかるだろう。多少のコスト増であれば十分吸収できる体力があり、値上げする必要はなかったのではないか。
鳥貴族より営業利益率が低い企業で主力業態・主力メニューで値上げを近年控えているところは数多くある。たとえば、居酒屋「和民」を展開するワタミは18年3月期の営業利益率が1%に満たず厳しい経営状況にあるが、値上げは控えている。牛丼大手の吉野家ホールディングスは2.0%(18年2月期)と厳しく、また、競合の「すき家」「松屋」が一部商品を値上げしたが、「吉野家」で値上げに動くことはなかった。これらは一例にすぎないが、厳しい利益率の状況にあっても値上げに動かない企業は少なくない。
もちろん、値上げした飲食店がまったくなかったわけではない。近年では、すき家や松屋のほか、ラーメン店「日高屋」、長崎ちゃんぽん専門店「リンガーハット」、「天丼てんや」などが値上げを実施している。ただ、値上げを実施したものの、対象を一部の商品にとどめたり、値上げ幅を小さく抑えたりしており、値上がり感が強くならない規模にとどめたところがほとんどだ。
しかし、鳥貴族は全品で約6%値上げを断行した。値上げ率6%は、決して小さくはない。そして何より“全品”を値上げしたことが大きいだろう。対象が一部の商品であれば、消費者は「自分が欲しい商品は値上げされていないかもしれない」という淡い期待を持つことができるが、全品となれば、購入する商品が確実に値上げされているので、そういった期待を持つことができない。そのため、全品の値上げは値上がり感を高まりやすい。こういった消費者心理が働き、鳥貴族を敬遠する人が少なくなかったのではないか。
確かに原材料費や人件費は高騰しているので、値上げしたい気持ちはわかる。しかし、このことは消費者にしてみれば、まったく関係ない話だ。
消費者の懐事情は、依然として厳しい状況が続いている。特に鳥貴族のコアターゲットとなる男性会社員はかなり厳しい。新生銀行の「サラリーマンのお小遣い調査」によると、18年調査の男性会社員の毎月のお小遣い額は3万9836円だった。1日当たり約1300円でやりくりしなければならない金額だ。月のお小遣い額は、近年やや上昇傾向が見られるが、それでも以前と比べると大きく減っている。たとえば、01年調査の5万8825円と比べると32%も少ない。
こういった男性会社員が、仕事帰りの1杯を少しでも安く済ませたいと考えるのは当然だろう。1品税抜き18円の値上げだが、“ちょい飲み”として5品注文すれば税込みだと約100円の負担増となり、“しっかり飲み”で10品注文すれば約200円の負担増となる。1日当たりのお小遣いが1300円の男性会社員にとっては、相当な負担といえるだろう。
こういった状況下、鳥貴族はどのような手を打ってくるのだろうか。新規出店を抑え、既存店にてこ入れする方針を打ち出してはいるが、抜本的な改善につながりそうな打ち手は見えてこない。
価格を元に戻すなど、大胆な施策が必要だろう。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)