今、不動産投資をめぐるトラブルが多発している。社会問題に発展したシェアハウス「かぼちゃの馬車」の騒動では、運営会社のスマートデイズが破綻したほか、スルガ銀行の不正融資も明るみに出た。

また、不動産の相続をめぐる肉親同士の争いも後を絶たない一方で、地方では売れない不動産を押し付け合うことで家族が不仲になるケースもあるようだ。

 不動産問題のサポートを担うNPO法人不動産売却SOS相談センターは、不動産投資トラブルの相談急増に伴い、昨年9月から体制を強化した。同センター代表理事の川口敏行氏は「不動産業界40年の経験のなかで、一般の方からすれば信じられないような事態をたくさん見てきた」と語る。川口氏と同センター理事の田中章雄氏に、不動産トラブルの実態について聞いた。

●人間の醜い部分が露呈する、不動産トラブル

――不動産にまつわるトラブルは、具体的にどのような事例がありますか。

川口敏行氏(以下、川口) 本当に信じられないような事例が数多くあります。9割方は個人からの問い合わせで、最近多いのは相続関係です。地方では、両親が亡くなって子どもが相続したものの、誰も住まない空き家がたくさん生まれています。地元の不動産業者に売却を持ちかけても「無理です」と言われるため、当センターに「なんとかなりませんか」との相談が寄せられています。

 その場合、私は現地に行って、近隣の人や自治体に売却や寄付の相談を持ちかけます。なかには「安ければ買い取ってもいい」と言う人もいるので、値段の折衝をするわけです。山林や農地、あるいは固定資産税がかかる土地の場合は、いったん本センターで引き取ることもあります。


田中章雄氏(以下、田中) たとえば道路や下水道などのインフラがあまり整備されていない土地であっても、不動産は所有していれば固定資産税がかかります。そうした“負動産”も少なくありません。

――相続関係というと、きょうだい間でのもめ事などですか。

川口 たとえば、きょうだいのひとりは家を手放してすぐに現金がほしい。しかし、もうひとりは家を手放したくない。そうした意見の相違で決まらない場合、本センターが仲介することもあります。

 あるケースでは、都内に自宅を建てた両親に対して、長女が「家を売れ」「それができなければ、遺産に見合う生前贈与をしろ」と詰め寄った例があります。うんざりしていた両親は次女に現金で生前贈与を行い、別の場所に引っ越しました。

 両親が亡くなり、残った不動産の分配でもめるケースもありました。長男が物件の調査を依頼した不動産業者に次男が不信感を持ち、次男も別の業者に依頼したのです。お互いに「業者から裏金をもらっているのでは」と勘ぐっていたわけですが、こんなケースはザラにあります。

――不動産がからむと、人間の醜い部分が露呈しますね。


川口 不動産はいくらで売れるのかが明確でないからです。たとえば、長男が「1億円で買います」という業者を見つけてきても、次男が「本当は1億2000万円で売れるのに、2000万円を着服しようとしているのではないか」と疑心暗鬼になれば、トラブルの火種になります。このような事例は地方でも都心でもありますが、地方では相続人同士で押し付け合いになり、不動産が宙に浮く場合もあります。そうしたときは本センターが間に入ります。

田中 最近では、親の介護の問題もからみます。たとえば、長男夫婦が最後まで介護をして看取った場合、「遺産を余分にもらう権利がある」と主張するケースがあり、きょうだい全員がそれぞれ弁護士を立てて泥沼になってしまうこともあります。私は青森県三沢市の出身ですが、引き取り手のない物件はたくさんありますね。感覚的には30~40%は空き家ではないでしょうか。

●「かぼちゃの馬車」だけじゃない投資トラブル

――また、今は不動産投資に関するトラブルも急増しています。

田中 社会問題に発展した「かぼちゃの馬車」の問題ではスルガ銀行のずさんな融資が明らかになり、運営元のスマートデイズが破産しました。同社に触発されて多くのシェアハウス運営会社ができており、オーナーとの間でトラブルになっているのです。「『儲かる』『節税対策になる』という謳い文句で投資用不動産を購入したものの、利益がない状態」「空室で赤字が続き、持ち出しの費用のほうが家賃収入よりも多い状態が慢性化している」といった相談が寄せられています。


 そもそもシェアハウスは家賃設定が高いのですが、その高い家賃収入を保証していた運営元が破綻してしまうため、オーナーは非常に困ってしまいます。また、たとえば1億円の物件を購入する場合は2000万円の頭金が必要で、残りの8割は銀行から借り入れます。仮に収入が月100万円の場合、支払い額が月50~60万円になると危険水域なのですが、スルガ銀行の融資では月の収入の80%を支払いに回すケースもあったようです。「頭金なしでもアパートやシェアハウスの経営ができる」と信じて、オーナー自身も書類やデータの改ざんに協力したケースがあります。そのため、銀行を相手に訴訟をしても解決は難しいでしょう。

――シェアハウス問題での相談には、どのように答えていますか。

川口 銀行への返済を一度ストップすることを提案します。シェアハウス問題では銀行も批判を浴びているので、“荒業”には打って出ない可能性が高いです。さらに、返済に余裕があれば家賃を下げることが必要です。そして、最後の提案は、たとえば外国人の入居を認めることです。あるシェアハウス運営会社からは「外国人向けのシェアハウスにすればすぐに部屋が埋まる」「こちらから営業はできないので静観しているが、任せてくれればすぐに空室は解消できる」という話があります。そういった解決策もあるのかもしれません。


●マンション投資で狙われる職業とは

――投資用マンションに関するトラブルもありますね。

川口 宣伝文句に引き寄せられて投資用のワンルームマンションを2つ購入したものの、「赤字なので引き取ってほしい」という相談があり、実際にこちらで引き取りました。これは“勉強代”と思って損切りするしかなく、売却が最善の策でしょう。

――かぼちゃの馬車や投資用マンションの被害者は、公務員や一部上場企業の部長級社員が多かったようです。

川口 医師のなかでも歯科医、さらに警察官、公務員、大学教授は、業者からすればもっともおいしいターゲットでしょう。そういった業者の調査力は恐ろしく、ターゲットの年収、趣味、家族構成、保有しているクルマなどの個人情報をよく知っています。それらを調べ上げてから電話営業を行うのです。
(構成=長井雄一朗/ライター)

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