アイドルグループ・NGT48の山口真帆の暴行事件がメディアで大々的に取り上げられた。グループ内で共犯者の存在がほのめかされたり、事件に対する運営元の対応が後手後手であったりなど、複合的に事情が絡み合ったとはいえ、騒動は依然尾を引いている。
●「アイドル界にもいじめがある」という負の親近感
「暴行事件そのものもセンセーショナルですが、それよりもさらに世間の関心を集めているのが、グループ内でのいじめを思わせる言動と運営の隠蔽体質のように感じます。というのも、被害者が一定期間声をあげたにもかかわらず、本来ケアするべき立場の人間に取り合ってもらえなかったことや、運営元が問題の責任を回避しようとする構図が、学校で発生するいじめ案件と類似した様相となっているからです」(有馬氏)
いじめにも、それを隠蔽しようとする管理者にも、悪い意味での“人間の本質”が表れているといえる。アイドルという本来偶像であるべき存在が、今回の事件を通して世間からより“身近”に感じられてしまったことが、終わりなき炎上を招いた一要因だと有馬氏は分析する。
「アイドルは、マーケティング的観点からは“サービス商品”と捉えられます。本来、完成した状態で観客にパフォーマンスを披露するのが芸能ビジネスの基本です。しかし、AKBグループの特徴は、拙いパフォーマンスの状態から観客と接して、彼女たちが成長していく姿をファンに積極的に見せることで共感を得るスタイルを取っています。このような楽屋裏的な要素を見せる手法は、互いが協力して成長していく過程を見せられるのであれば美談として受け入れられますが、メンバー間の確執やマネージメントサイドの不手際が露出してくると、ゴシップネタでしかなくなってしまいます」(同)
●メンバー間に植え付けられた競争意識がいじめの発端
そして、確執が発生しやすい環境を生み出しているのが、AKBグループのシステムそのものである。
「選抜総選挙によるメンバー同士の順位づけや握手会への応募数で、メンバーは個々人の人気を自他ともに認識させられます。他メンバーと比べて自分のメディアへの露出数を意識することもあるでしょう。
落ち着ける空間を提供しているホテルやレストランでも、そのバックヤードの喧騒を顧客側が知ってしまうと、純粋にサービスや食事を楽しめなくなる。それと同様に、裏でいじめが蔓延するアイドルグループを、応援したいと思うファンは少ないはず。楽屋裏を見せることは、ファンの感情を高ぶらせる効果もあれば、ダークサイドを浮き彫りにすることもある。素顔をショウアップする演出方法は、ある意味で諸刃の剣だったのだ。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季)