元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな酒は「チリワイン」です。

それは関税が低いからです。

 本連載前回記事で、「使途秘匿金課税」について解説しました。個人的には、使途秘匿金課税は、政治家に賄賂を贈るような大きな会社、すなわちゼネコンみたいに“談合”がある会社がやっているのではないかと考えていました。しかし、お歳暮やお中元で贈った4000円くらいのビール券が、使途秘匿金に該当するとして争われたことがあります。

 現在の税法では、法人が使途秘匿金の支出をした場合には、法人税の額に、使途秘匿金の40%を加算することとなっています。使途秘匿金とは、相当の理由がなく、相手方の氏名などを帳簿書類に記載していない支出です。

 今回紹介する税務調査を受けた法人は、ビール券を購入・贈答し、交際費として処理していました。ただ、誰に贈答したかは、帳簿を見る限り明らかでなく、調査担当者が再三にわたり贈答先及び在庫の状況を明らかにするよう求めても応じませんでした。理由は不明ですが、教えたくなかったようです。そこで、ビール券の購入が使途秘匿金であるとして処分されてしまいました。

 誰に贈答したか答えない場合、もしかしたら交際費ではないのに交際費にしている可能性も疑います。たとえば、従業員に贈っていれば「給与」ですし、社長の家族に贈っていれば社長の「役員給与」になるかもしれません。


 しかし、この法人はビール券の贈答先を答えなかったものの、食品詰め合わせや石鹸とともに、お中元・お歳暮用品として配送されていることが「申込票」により判断でき、配送先を知ることができると主張しました。

 調査担当者は配送業者に反面調査をして送り先を調べ、それについて法人に聞き取りを行うか、法人の取引先一覧と突合することもできましたが、それをせずに使途秘匿金課税で処分したのです。

 どちらの対応も良くない。

 ビール券の額は1件4000円ほどで、年間でも10万円を超える程度でした。たかだかそれくらいの支払いを使途秘匿金課税で処分するなんて、調査担当者はよほど使途秘匿金が好きなようです。

 使途秘匿金課税の趣旨は、企業が相手先を秘匿するような支出は、違法・不当な支出につながりやすく、それがひいては公正な取引を阻害することになるので、それを抑制することにあるとされています。

 調べによると、この法人のビール券はお中元・お歳暮時期に配送され、「申込票」に記載されたビール券の送付先は、いずれも取引先の関係者でした。また、お中元・お歳暮として相応しい金額で、これを帳簿書類に記載しないのは一般的です。

 法人の収入や経費を帳簿に記帳するに当たって、ある程度まとめて入力したり、摘要欄を空欄にしたりすることは、ままあることだと考えます。多額であるならまだしも、納税額にもそれほど影響のない経理処理を、いちいち細かく入力していたらキリがありません。

 年間十数万円の経費を否認して、滅多に処理しない使途秘匿金にすることで、関係法令を調べ、税法上適正であるか、ほかの職員に判断してもらい、上司やそのまた上司と検討し、公務員の労働時間をいたずらに消費するのは、芳しくないように思えます。

 税務調査では、「こんな小さい金額をとってもしょうがないじゃん」と、否認事項があっても「指導」にとどめる、といったことがよくあります。
費用対効果や納税者の気持ちに配慮した慣習です。今回そうしなかったのは、現場にいる人間だけがわかる“のっぴきならない状況”があったのかもしれません。

 最終的には、この法人がビール券を贈答した相手の氏名等を帳簿書類に記載していないことには「相当の理由」があり、使途秘匿金の支出には当たらず交際費に該当すると判断されました。

 単に「支出先が不明」であるというだけで、使途秘匿金として処分された方は、内容を精査してもいいかもしれません。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)

編集部おすすめ