どうも、“X”という小さな芸能プロダクションでタレントのマネージャーをしている芸能吉之助と申します。

 2018年に社会現象にもなった映画『カメラを止めるな!』、観た方も多いのではないのでしょうか。

たった300万円の製作費に対して30億円の興行収入を叩き出した大ヒット映画にもかかわらず、映像監督役を演じた主演の濱津隆之さんの出演料が0円だったというエピソードが話題になっていましたよね。本人がバラエティー番組で明かしていたのですが、もともと監督&俳優養成スクールのワークショップが発展したプロジェクトだったため、濱津さんをはじめとするメインキャストのほとんどはノーギャラだったそうです。

これは低予算のインディーズ映画が口コミで大ヒットに発展したレアなケースなのですが、実際のところ、映画のギャラっていったいどんなふうになっているのか気になりますよね? 今回は映画にまつわるおカネについてお話ししていきたいと思います。

 前回お話ししたように、テレビドラマのギャラは俳優それぞれ“なんとなく”の相場が決まっているのですが、映画の場合は作品の規模によってピンキリ。芸能事務所やマネージャーの方針でも交渉の仕方が全然違っていて、「○○監督にはいつもお世話になっているから○○円くらいでいいですよ」というやり方をするマネージャーもいるし、「うちの○○は○○円以下では出演させません!」と絶対に出演料を値切らせない事務所もある。事務所の方針で、ある程度の規模感とギャラがある作品にしか出ない人は、メジャー系の映画ばかりで、単館系の映画には絶対出てこないですね。

 ただ、事務所を移籍したりして担当のマネージャーが替わると、「ギャラは少ないけど、脚本がいいからこの作品は出たほうがよさそう」なんて考え方になることもある。マネージャーによる部分が大きいですね。

 だから具体的な金額を出すのはなかなか難しいんだけど、ざっくりいうと、超大作映画の主役で1本(1作品)1000万円もらえれば一流、というところですかね……。

 これは映画もドラマも同じなんだけど、制作予算が最初に決まってるから、そこから逆算していくとわかりやすいんです。

●制作費5億の映画、ギャラに使えるのは1億5000万

 たとえば、ゴールデンタイムに放送されるようなドラマはだいたい、1話分の制作予算はざっと1000~2000万円。わかりやすく1話1000万円だとすれば、全10話でトータルの制作費はだいたい1億円程度ですよね。
1クールの連続ドラマを撮影するのにだいたい4カ月かかるから、その期間、スタッフを拘束するのにかかる経費、撮影にかかる費用などもろもろを引いていくと、最終的に役者に割ける金額が出てきます。その中で、どの役者にいくら割り振るかがプロデューサーの悩みどころ。役者に使える金額が全体の3割くらいだとしたら、3000万円。主演に1000万円かかるとなると、あとは2000万円でなんとか2番手以降の役者を揃えないといけない、というふうな計算です。

 映画の場合でいうと、すごく大きめの大作映画で制作費が5億円だとすると、宣伝費と配給手数料も同じくらいかかるから、トータルの予算は10億円。まあ、これはちょっと前の話で、今だと宣伝費はもうちょっと削られてるかもしれませんが……。そして、興行収入の半分は映画館収入として持っていかれるので、トータルで10億円かかっている映画をリクープ、つまり費用回収するためには、興行収入が20億円ないとダメ。それでやっとトントンだから、ちゃんと儲けようと思ったら30億とか40億の興行収入が必要になるわけです。

 で、5億円の映画を制作するときは、たとえばキャスト費はその3割くらいで計算すると、1億5000万円ですよね。その中から主役級(1000万円)の役者を3人揃えると3000万円、2番手クラス(500万円)の役者を5人揃えて2500万円……というふうに、キャスト費を分配していく。これが大変な作業なんですよ。

 この間公開された『マスカレード・ホテル』(1月18日公開・東宝)なんか、主演が木村拓哉さん、相手役が長澤まさみちゃんでしょう。
木村さんだけで、普通は1000万以上かかりますよね、たぶん。それだけでもすごいのに、小日向文世さん、松たか子さん、高嶋政宏さん、菜々緒さん、生瀬勝久さん、前田敦子ちゃん&勝地涼くん夫婦、そして石橋凌さんに渡部篤郎さん……友情出演だけど明石家さんまさんまで出てるでしょう。「全部でいくらかかってるんだろう?」と考えると気が遠くなりますよ。

 そして忘れてはいけないのが、主演俳優やメインどころだけじゃなくて、チョイ役やエキストラ費なんかもけっこうかかるということ。当たり前のことなんですけどね。ちゃんとしたエキストラ会社で人員を集めようとすると、1人1万円弱は払わないといけないんです。

 たとえば、あるシーンで出演者がコンサートで演奏する場面が必要だったとしましょう。1000人規模のライブシーンを、客席をびっしり埋めた状態で撮ろうとすると、そのシーンだけで1000万円かかってしまう計算になる。つまり、キムタクに払うギャラくらいのおカネをそこで使ってしまうことになるわけです。出演者のファンクラブでエキストラを募集していることが多いのはそのせいですね。そういう方法だと、ギャラの代わりにちょっとした映画グッズをプレゼントするくらいで済みますからね(笑)。

●ギャラ以外の“分け前”を狙える製作委員会方式

 ほんと、映画って作るのに膨大なお金がかかるから、そういうふうに逆算して計算していくと、いくら「総製作費○億円!」なんて謳っていたところで、役者に入るギャラってそんなにたいした額じゃないんですよ。


 そして役者は“出演料”という形のギャラをもらったら、それでもう終わり。その後はいくら映画が大ヒットしても、役者には出演料以上のギャラは入ってこない。

 なので最近では、所属している役者が出演している映画に、芸能事務所が出資するというケースがどんどん増えていますね。出演料をもらってハイ終わりではなく、出資しておくことによって、大ヒットした場合には売り上げの“分け前”が入ってくる。つまり、芸能事務所が映画に“投資”をするという感覚になってきているんです。もちろん映画が大コケして大損する場合もありますけどね……。

 映画のクレジットを見るとわかると思いますけど、今の日本映画では、映画会社やテレビ局、広告代理店、商社、出版社なんかが共同で出資する「製作委員会」(「フィルムパートナーズ」という呼び方をすることも多いです)方式をとることが多いのですが、そこに芸能事務所も名を連ねるようになってきましたね。アミューズ、ホリプロスターダストプロモーション……今や、名だたる芸能事務所は、所属俳優が主演する映画にはだいたい出資していますね。

 で、「製作委員会」のクレジットに一番最初に出てくるのが、大体30%以上の資金を出資しているいわゆる“幹事会社”です。そのあとに出てくるのが映画の放映権を押さえているテレビ局ですね。会社名が出てくる順番は、当然お金を多く出している順なので、僕なんかは「お、この映画はアミューズさんもホリプロさんもクレジットが上のほうにある……カネがあってうらやましいな~」なんて、ついついイヤらしい目で見てしまいますね(笑)。
(構成/白井月子)

●芸能吉之助(げいのう・きちのすけ)
弱小芸能プロダクション“X”の代表を務める、30代後半の芸能マネージャー。
趣味は食べ歩きで、出没エリアは四谷・荒木町。座右の銘は「転がる石には苔が生えぬ」。

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