今回は前回に引き続き、親との同居と税金の関係について、女性公認会計士コンビ、先輩の亮子と税務に強い後輩の啓子が解説していきます。

亮子「親と同居したことのない私が言うのもなんだけど、同居の良さもいっぱいあるよね」
啓子「税制だけじゃなくて?」
亮子「自分の親でさえ、どんな暮らししているのか意外とよく知らないものでしょ? 財産のことはもちろん、医療や薬に関することもよく知らない。

でも、一緒に暮らしていれば、わかることもある」
啓子「財産のことがわかっていると、相続の時にも役立つでしょうね。というわけで今回は、同居していた場合の相続税の特例について解説しますね」

●小規模宅地等の特例を利用できれば土地の評価が8割減?

 親(や親族)から土地を相続した場合、土地の時価に基づいた評価額に応じて相続税が課せられることになります。ただし、同居していた親族等がその土地を相続する場合など、一定の要件を満たす時には、その土地の評価を80%減額できる小規模宅地等の特例税制を利用できる可能性があります。

 仮に時価を基準に1億円と評価されるような土地を相続した場合、小規模宅地等の特例を適用できると評価額が8000万円減の2000万円になるわけです。相続税の税率は相続する財産の額によって変わってきますが、1億円が2000万円になれば最低税率の10%で考えても800万円(8000万円×10%)の節税になりうるということ。さらに、この特例によって相続財産全体の評価額が基礎控除(後述)を下回ることになれば、相続税を納付しなくてよくなりますから、効果は絶大です。

 ただし、小規模宅地等の特例が適用できるかどうかの要件が細かく定められています。土地の用途(居住用か事業用かなど)によって適用要件や軽減の程度が異なりますが、今回は居住用宅地について説明をしたいと思います。

 小規模宅地等の特例(居住用宅地)は、被相続人(亡くなった方)が居住していた建物のある土地の評価額を80%減額することができる制度です。前述した通り、1億円の土地であれば2000万円まで評価額を下げることができます。この特例の適用要件は次のとおりです。

(1)被相続人の配偶者が相続した場合(配偶者であればその他の要件はありません)
(2)被相続人と同居していた子どもがその宅地を相続した場合、相続税の申告期限までその宅地に居住し、所有していること
(3)被相続人の配偶者または同居の相続人がいない場合には、相続開始前3年間本人または本人の配偶者所有の家屋に居住したことがない親族が相続して、相続税の申告期限までその宅地を所有していること(なお、居住はしなくてもよい)
(4)被相続人と生計を一にしていた親族が相続して、相続税の申告期限までその宅地に引き続き居住し、所有していること

 親の家に親と同居していた場合には(2)に該当し、相続税の申告期限までにその宅地に居住し、所有していれば、この特例を適用できるというわけです。
一方、同居をしていなくても(3)の要件に当てはまれば、特例を利用できます。この(3)については平成30年4月以降の相続からは以下のように要件が厳格化されています。

・相続開始前3年以内に、その者の3等身内の親族またはその者と特別の関係のある法人が所有する国内にある家屋に居住したことがある者
・相続開始時において居住の用に供していた家屋を過去に所有していたことがある者

 実は従来の規定のままだと、持ち家がない状態をつくり出して特例を適用することが不可能ではありませんでした。それをできるだけ防止し、制度の趣旨を守るために厳格化されたというわけです。

●500平方メートルの宅地を相続する場合は適用できないの?

 ただし、上記の要件に当てはまっても無条件に80%減額になるわけではありません。減額できる土地の広さは330平方メートルまでと決められています。これは80%減額することができる敷地が330平方メートル(約100坪)分までという意味で、330平方メートルを超える土地は評価減できないということではありません。たとえば、500平方メートルの土地を相続した場合、330平方メートルまでは80%評価を下げることができますが、残りの170平方メートルについては評価を下げることができないということです。

 面積に制限はありますが、金額に制限はありませんので、この特例を適用できた場合の節税効果は本当に大きなものとなる可能性があります。

●10カ月以内に遺産分割協議が終わらない場合には注意が必要

 相続税の申告は10カ月という期限があります。財産を誰にいくら引き継ぐか遺産分割協議をして、相続人全員で申告するのが一般的ですが、ときには期限内に分割協議が終わらないということもあるでしょう。分割協議には期限はありませんので、分割協議が終わらなくても法的には問題ありません。
しかし、相続税の申告は10カ月以内と決められているので、その期限は守る必要があります。特に、特例を適用するには、期限内の申告が必須となりますので注意してください。

 分割協議が終わらない状態で相続税の手続きをする場合には、とりあえず法定相続分(法的に決められている一定の取り分)どおりに相続したものとみなして申告と納税をすることになります。そして、分割協議が終わり次第、再度、申告手続をすることで、本来負担すべき相続税を計算します。

 なお、特例を適用したい場合には、当初申告する際に「申告期限後3年以内の分割見込書」を税務署に提出してください。そうすれば、申告期限から3年以内に遺産分割ができた場合に、特例の適用を受けることができ、当初の納税額が多い場合には相続税が還付されることになります。仮に3年以内に遺産分割ができずに3年を超えてしまう場合、やむを得ない事由がある場合を除き小規模宅地等の特例を適用できなくなってしまいますので注意してください。

●そもそも相続税の申告がいらない場合

 ここまで相続税がかかることを前提に説明をしてきましたが、そもそも相続税の申告がいらないという場合もあります。それは相続する財産が「基礎控除」の金額の範囲内である場合です。その場合には相続税がかからず申告も不要となるのです。

 基礎控除の金額は、「3000万円+600万円×法定相続人の数」で算出します。この法定相続人は法律で決められていますが、要するに相続財産を受け取る権利を持っている人です。
亡くなった人の配偶者や子どもなどが法定相続人に該当します。

 たとえば、夫婦と子ども1人の3人家族で、お父さんが亡くなった場合で基礎控除を計算すると、以下のようになります。

・基礎控除 = 3000万円 + 600万円 × 2人(妻+子ども)=4200万円

 この基礎控除4200万円を超える財産を引き継ぐと相続税がかかりますが、4200万円の範囲内であれば相続税がかからず申告もいりません。

 ただ、今回説明した小規模宅地等の特例を適用でき、評価額が80%減額になったために相続財産が基礎控除の範囲内になるようなケースでは、相続税を納付する必要はなくなりますが、申告義務はありますので注意してください。特例は、あくまでも、申告することによって適用が可能になるのです。

亮子「正直、自分の親との同居も、気は進まないけれどね」
啓子「やはり“味噌汁の冷めない距離”が理想でしょうか」
亮子「それは私も経験あるけれど、確かにすごく便利だった。元気なうちから、親と一緒に、今後の希望や考え方などについて話し合うことができたらいいね」
啓子「税制面も判断材料の一つになるかもしれません。小規模宅地等の特例を適用できるかどうかで、大きく相続税の額が変わる家庭もありますから。節税のためにライフスタイルを変えることはおすすめしませんが、税金の軽減のために共同戦線を張るという選択はあり得ますよね」
(文=平林亮子/公認会計士、アールパートナーズ代表、徳光啓子/公認会計士)

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