昨年の映画『カメラを止めるな!』(アスミック・エース=ENBUゼミナール)から現在放送中のドラマ『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』(NHK)、『ザンビ』(日本テレビ系)まで、エンタメ界でちょっとしたゾンビブームが続いている。
前記2作はゾンビを入り口にした変則的な人間ドラマであるのに対して、『ザンビ』は“ゾンビもの”としては正統派のパニックドラマ。
ただ、「やっぱりかわいいし、癒やされる」という称賛もある一方で、「ただのアイドルドラマ」「怖くない」なんて酷評も少なくない。果たして、『ザンビ』は本当に「ただのアイドルドラマ」であり、「怖くない」のだろうか。
●「怖さ」より「美しさ」を優先させた意味
主なあらすじは、「ある日、修学旅行中のバスの故障で少女たちは見知らぬ村に行き着いた。村をさまよう少女たちは見つけた廃屋で一夜を過ごすことになる。その夜、まどろみのなか、少女たちは不気味な音を聞く。その後、フリージア学園で日常が戻ったかのように見えた少女たちに、次々と不思議な現象が起こり始める」というもの。
その不思議な現象が「生きながら死に、死にながら生きる」という“残美(ザンビ)=ゾンビ”。いつもバラエティ番組でニコニコしている秋元真夏を皮切りに、山下美月、渡辺みり愛、伊藤理々杏が次々にゾンビ化していく姿は、清楚さをベースにした普段とのギャップ十分だ。
さらに、メインの齋藤飛鳥、堀未央奈、与田祐希は「怖がり、叫び、気を失う」などの追い込まれた姿を見せている。つまり、「ゾンビとして追い込むほうも、ゾンビに追い込まれるほうも美女」であり、彼女たちのさまざまな表情を楽しむことが肝の作品であることに疑いの余地はない。だから、「ただのアイドルドラマ」と言いたくなる人が少なくないのだろう。
次に「怖くない」という声について。『ザンビ』はカメラワークやカット割り、音響、照明、美術などのさまざまな点でホラーサスペンスとしての基本を押さえた、いわば“ど真ん中”の作品といえる。
「キャー」の叫び声、「ドン」という大きな物音、怪しげなBGMなどの音に頼り過ぎる感こそあるが、深夜に見れば普通に「怖い」と感じるレベル。少なくとも、突然ゾンビが現れてビクッと驚かされた人は多いのではないか。
ただ、“残美”というコンセプトの通り、映像の美しさを優先させているため、“怖さ<美しさ”というイメージで怖さが伝わりにくくなっている。特に「かわいい」「癒やされる」という感覚が勝ってしまう人は、怖さが半減しているはずだ。
もともと暗闇で見るホラー映画とは異なり、明かりのついた家で見るホラードラマは「怖い」と感じる前に「何かしらのツッコミを入れたくなる」タイプのコンテンツ。クレームやコンプライアンスへの対策で「そこまで残酷な描写はないだろう」という感覚もあり、どこか冷静な目で見ているものだ。
●わずか1年で見せた与田祐希の成長
さらに、「かわいい」「癒やされる」という感覚が勝る人は、「怖さ」よりも「演技の未熟さ」が気になってしまう人が多い。熱心なファンなら「かわいいから許す」「一生懸命で癒やされるから気にしない」と言えるが、ライトなファン層は「ただのアイドルドラマ」と言いたくもなるだろう。
しかし、『ザンビ』を「かわいいだけのアイドルドラマ」と見なすのは短絡的ではないか。すべてのドラマが演技派ぞろいである必要はなく、むしろ押し付けがましさや窮屈さを感じる人もいる。
「ネットの発達で情報量が増えた」「好きなときに好きなものを見られるようになった」などの理由から、せっかちになった現代人は、常に完成品に近いものを求めがちになっている。無名女優の登竜門だった朝ドラのヒロインが永野芽郁、安藤サクラ、広瀬すず、戸田恵梨香など実績十分の女優ばかりになり、若手が技術を培う場の学園ドラマが激減しているのも、そんな視聴者の変化に対応したものだ。
その意味で、『ザンビ』を見ると、若手女優の奮闘や成長を感じられる貴重な作品となっている。たとえば、与田祐希は1年前に『モブサイコ100』(テレビ東京系)でドラマデビューを果たしたが、その演技は誰の目にも厳しいものがあった。ところが今作では、わずか1年の間に成長した姿を見せているし、次の作品にもつながっていくだろう。
●乃木坂46のメンバーは若手女優の卵
“ゾンビドラマ”という共通点で、もう一歩さかのぼれば、今をときめく川栄李奈は2014年のドラマ『セーラーゾンビ』(同)への出演が大きかった。当時の川栄は、同じAKB48の大和田南那に続く2番手のレベル。しかし、同作で抜きん出た存在感を見せ、『ごめんね青春!』(TBS系)、『早子先生、結婚するって本当ですか?』(フジテレビ系)、『とと姉ちゃん』(NHK)といったメジャー作品への出演を勝ち取っていった。
そもそも、デビュー時から舞台公演などで演技重視だった乃木坂46のメンバーは、アイドルというより若手女優の卵に見える。また、卒業した深川麻衣や若月佑美らが女優として開花し始めていることも、『ザンビ』には「“次の川栄李奈、深川麻衣”を見いだす」という楽しみ方の裏付けとなるのではないか。特に乃木坂46のファンではない私も、若手女優が飛躍のきっかけをつかむ瞬間を楽しみに見ている。
今後は、ヒロインの楓(齋藤飛鳥)、実乃梨(堀未央奈)、聖(与田祐希)らにさらなる恐怖が訪れるほか、「ザンビにどう対抗していくのか?」「悲劇のまま終わるのか」などの展開が注目される。
ここまではパニックドラマのテイストが濃かったが、終盤は極限に追い詰められた人間の弱さと強さ、醜さと尊さなどがフィーチャーされるだろう。クールなキャラクターの楓と彼女を演じる齋藤飛鳥が、抱えていた感情を爆発させるシーンに期待したい。
(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)