元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな衣装は「メガ幸子」です。



 ぼくは拝見していませんが、昨年12月31日に放送された『NHK紅白歌合戦』は、第2部の平均視聴率は40%を超えたと報じられました(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。『紅白』といえば、かつて演歌歌手・小林幸子さんが着ていた数々の豪華衣装が印象的です。若い方は知らないかもしれませんが、毎回、素敵で豪奢な衣装で、視聴者を釘付けにしてくれました。

 そんな小林幸子さんの衣装は、なんと自前だそうです。ぱっと見、制作費数千万円を超えるような豪華なドレス(セット)を自前でつくり番組を盛り上げる姿勢は、タレントとして学ぶことがたくさんあるなあ、と考えるより先に、どうやって経費にしているのかが気になってしまいます。

 経営者なら、30万円以上の物が、一括で損金にできないことは知っています。「減価償却」をするわけです。減価償却とは、買って使い始めた年に経費にするのではなく、何年か使うのだから、買ったときの値段を何年かで割り、少しずつ経費にしましょう、という考え方です。

 減価償却資産には、建物や機械、器具、装置などがありますが、衣装も30万円以上なら、減価償却資産として少しずつ経費にしなければいけません。たとえば、ぼくが30万円のスーツを買ったら、2年で経費にします。

 小林幸子さんの衣装は、紅白だけではなく、その後のディナーショーなどでも使用されていると聞きました。そこで、制作費を回収するのでしょう。
しかし、1年後には、新たな衣装で紅白に出場されますから、使用期間は1年未満の可能性が高い。この場合は、取扱いが若干異なります。

 使用期間が1年未満ものについて、次のような特例があります。

 法定耐用年数でみるのではなく、その法人の営む業種において一般的に消耗性のものと認識され、かつ、その法人の平均的な使用状況、補充状況などからみて、その使用可能期間が1年未満であるものは、買って使い始めた年に損金にしていいですよ、というものです。

 たとえば、テレビ放映用のコマーシャルフィルムは、通常、減価償却資産として資産計上し、法定耐用年数2年で減価償却しますが、テレビ放映期間は1年未満であることが一般的なので、放映期間が1年未満のものは、「使用可能期間が1年未満のもの」に該当します。
ということで、どんなに制作費や購入金額が高くとも、使用期間が1年未満であれば、すぐに損金(経費)にできるのです。

●衣装代が経費として認められなかった芸人

 タレントに税務調査があった場合も、衣装については、かなり揉めるようです。以下は、ある芸人さんの体験談です。

 芸人Aさんは、大阪で売れて、全国的な賞レースで優勝し、鳴り物入りで東京に進出してきました。東京進出でうまくいかない方もたくさんいますが、実力、運、ロビー活動、事務所の後押しとすべてが揃っていたため、仕事はすぐに決まっていきました。

 東京のテレビに毎日のように出るようになって1年もたったころ、税務調査の連絡がありました。すぐに税理士さんに連絡し、調査の日程をすり合わせて、休みを取ります。
調査当日には30代の上席国税調査官が来たそうです。

 少し芸能活動の話をしてから、「消耗品がたくさんありますが、なんですか?」と聞かれたので「ほとんどが衣装です」と答えました。調査官は「衣装を見せてくれ」と言います。クローゼットに案内し、「この辺が衣装です」と伝えると、調査官のカミソリのような目が光りました。

「具体的にどれが衣装ですか?」という調査官の質問に、Aさんはたじろいでしまいました。私服で舞台や取材に出ることもあり、明確に衣装との線引きを行っていなかったからです。曖昧な返事をしていたので、そのことを見抜かれてしまったようです。

 調査官は「衣装と私服を分けていないのであれば、経費にすることはできません」と言い、税理士さんも「仕方ないですね」とすぐに受け入れていました。「なんでやねん!」と叫びたい気持ちを抑えて、二人に従い追徴課税を受け入れました。

 タレントの税務調査では、衣装が問題になることが多々あります。普段から、自分の中でルールをつくり、はっきりと分けることが大切です。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)

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