発熱効果を持ち、厳しい寒さを乗り切るための心強い味方になってくれる“機能性インナー”。

 その代表格はユニクロが2003年に発売して以降、大ヒットのロングセラー商品となっている「ヒートテック」だ。

17年の発表によれば、ヒートテックの全世界での累計販売枚数は10億枚を突破しているとのこと。しまむらの「PEACE FIT 発熱インナー」やイオンの「FIBER HEAT 極ふわっと」など、競合商品も少なくないが、機能性インナーの市場は、実質的にヒートテックの一強状態といえるかもしれない。

 しかし昨年12月、ZOZOが「ZOZOHEAT(ゾゾヒート)」と名づけた新商品をリリースし、殴り込みをかけた。

 これは、昨年1月に始動した同社のプライベートブランド「ZOZO」から発売されたもの。ユーザーに配布している採寸用ボディースーツ「ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)」で蓄積してきたデータを基に、1000以上という驚きのサイズ数を展開中だ。自分の身体にジャストフィットした商品を選べば、インナーと肌を隔てる隙間をなくすことができ、より暖かな着心地が得られるというわけである。

 そんなZOZOHEATだが、公式サイトには「ZOZOHEATとユニクロのヒートテックを比べてみました」というページが掲載されており、ヒートテックをライバル視していることは明らか。具体的には、990円(税込・以下同)のZOZOHEATのほうが1069円のヒートテックよりも若干安いし、サイズの選択肢も、最大で8種類しかないヒートテックをZOZOHEATが圧倒している。

 ただ、ZOZOHEATがヒートテックをどれだけ数値上でリードしていても、真に勝敗を分けることになるのは、着用感やコストパフォーマンスだろう。

 そこで今回は、タレントのスタイリングやファッションコラムの執筆などを手がけている森田文菜氏に、ZOZOHEATを実際に着用したうえでの率直な意見を聞いた。

●袖丈の長さはちょうどいいZOZOHEATだが、フィット感は期待外れ

「最初は『ついにZOZOはアンダーウェアにも進出したか』と感心していたのですが、いざZOZOHEATを着てみると、ユニクロのヒートテックのほうが身体へのフィット感が強く、より暖かいように思いました。

 というのも、ZOZOHEATは“一人ひとりの体型に合った『あなたサイズ』”と謳っている割に、意外とゆとりがあったのです。
ゆったりめの服が好きな人にはZOZOHEATも向いていそうですが、風の通しにくさという点では、ヒートテックに軍配が上がるのではないかというのが正直な感想ですね」(森田氏)

 ZOZOHEATは1000を超えるサイズを用意しているはずなのに、森田氏がいう“ゆとり”は、どこからくるのか。

「そもそも、ZOZOSUITの使い方に手こずる人だっているでしょうし、計測データには誤差が生じやすいのではないでしょうか。自分の身体をZOZOSUITで本当に正確に測れている人なら、自分にピッタリなサイズのZOZOHEATが購入できるのかもしれませんが、そうではない人が出てきてしまってもおかしくないということです。

 それと私の場合、入力した身長やバストサイズに合った“最適サイズ”のZOZOHEATがちょうど売り切れだったという事情もあります。その最適サイズからプラスマイナス3cm刻みで別のサイズも選べるため、今回はそちらを買ってみたのですが、ジャストサイズのZOZOHEATが通販で即座に手に入るとは限らないのでしょう。このような機能性インナーは、気温が下がってきたときや寒い場所に旅行するときなど、『今すぐ欲しい』というケースが多いはずですので、そこのタイムラグは考えものですね。

 とはいえ、袖丈はZOZOHEATのほうがヒートテックより少し長めにつくられており、ちゃんと手首のあたりまでカバーしてくれていると感じました。腕の長さは人によって個人差がありますし、ヒートテックですと、長袖を着ても短いという人もいます。袖丈に関して融通が利きやすいのはヒートテックではなく、ZOZOHEATなのかもしれません」(同)

 ZOZOHEATならではの良さがあることも確かだが、森田氏が経験したように、ZOZOの通販ではサイズの売り切れの可能性も否めない。単に機能性インナーが欲しいだけなら、ユニクロの実店舗でヒートテックを買ったほうが早いといえそうだ。

●ヒートテックユーザーなら、ZOZOHEATにわざわざ乗り換える必要性ナシ?

 引き続きZOZOHEATとヒートテックを比較しながら、ZOZOHEATには勝算があるのかどうかを探っていきたい。

「素材に着目しますと、アクリル、レーヨン、ポリウレタンはZOZOHEATもヒートテックも共通しており、機能性インナーであれば、そこはどうしても似通ってくる部分ですね。
一方、ヒートテックにはない特徴として、ZOZOHEATにはメリノウールが5%混ざっています。これはニットなどにも使われる素材ですし、“ウール=暖かい”というイメージを抱いている人は多いでしょう。もうひとつ、ZOZOHEATにはテンセルモダールという繊維も採用されており、滑らかな肌触りを実現できています。

 また、ZOZOは天然コットン配合の『ZOZOHEAT COTTON』(以下COTTON、1290円)も同時に発売しました。通常のZOZOHEATがツルツルしているのに対し、COTTONはざらっとしていますので、こちらのほうが肌にとってかゆくなりにくいという印象です。

 しかし、どちらかというと、天然コットンへのこだわりが強いのは若い世代ではなく、年齢層が上の人々。今度は、COTTONの需要とZOZOのユーザー層は果たしてマッチしているのかという、別の問題が出てくるでしょう。

 そして値段ですが、ZOZOHEATは990円で、ヒートテックは1069円。ZOZOHEATのほうが79円安いということで、それが響く人もいるのかもしれませんが、そこまで大きな魅力にはならないのではないでしょうか。ヒートテックは期間限定でもっと値下げすることもありますし、なおさらです」(同)

 結論として森田氏は、「ヒートテックがこれだけ浸透しているなか、ZOZOHEATが新しく戦うのは難しい」と語る。

「パッケージはZOZOHEATのほうがオシャレで洗練されていますが、機能と価格のバランスが取れているのは、やはりヒートテックだろうと思います。それにヒートテックは『極暖』『超極暖』と、暖かさによって商品パターンが3段階に分かれており、通常のヒートテックで物足りない人は、そちらに流れるでしょう。
たとえZOZOHEATのような対抗商品が登場しても、ヒートテック以上のものを望んでいる人は少ないのではないでしょうか。

 ZOZOHEATは襟ぐりが開いた設計になっており、上に着るものを選ばなくてすむのも長所ですが、同様のコンセプトの商品はヒートテックシリーズのなかにも見られます。これまで機能性インナーを試したことのない人ならともかく、ヒートテックを着たことがある人にとっては、ZOZOHEATを劇的に気に入るということはなさそうですね。

 仮にZOZOが『○円以上ご注文で配送料無料』といったシステムなら、ZOZOHEATをついでに買うのも悪くないといえますが、現在ZOZOの配送料は一律200円ですので、そういうわけにもいきません。もっとも、ZOZOHEATが失敗に終わったところで、最終的に話題になりさえすれば、ZOZOにとっては一種の成功ということになるのでしょう」(同)

 ZOZOといえば今年の正月、前澤友作社長が100万円を100人にプレゼントするという総額1億円のお年玉企画をTwitterで開催し、大きな話題を集めたばかりだ。今回のZOZOHEAT発売ではユニクロが勝負を挑まれたかたちだが、その結果はどうあれ、ZOZOの大胆不敵なチャレンジは今後も続くのだろう。
(文=A4studio)

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