3月1日より2020年春に卒業予定の大学生らの就職活動が解禁された。昨年度の大卒予定者の就職内定率は77%と過去最高となるなど売り手市場の就活戦線ではあるが、無事内定を取れたからといって、社会人になっても順風満帆な生活が約束されているわけではない。



 というのも、厚生労働省が昨年10月に発表したところによると、31.8%もの大卒就職者が3年以内に離職しているというデータが出ており(15年3月大学卒業者を対象)、実に約3人に1人は就職先で不満などを抱えて辞めている計算になるからだ。いったいなぜ、元就活生たちは頑張って入った会社をすぐに辞めてしまうのか。その理由の一つは「就活を始める段階での職業選択のミスにある」と話すのは、これまでたくさんの学生の就職を見守ってきた立教大学経営学部教授の有馬賢治氏だ。

●BtoCしか視界に入りにくいからこそ陥る失敗

「どんなに就職活動を頑張っても、最初の業種選択をミスしていると自分に合った最善の就職先はなかなか見つけられません。自分のなかで納得して選んだ就職先のつもりなのに、入ってみたらその選択が間違いだったことに気づく学生が少なくないことを厚労省のデータは示していると思います。これは、働いた経験が極めて少ない大学生の狭い視野で、仕事を狭く絞り込んでいるからこそ起こる失敗なのです」(有馬氏)

 一消費者、しかも大学生の視界に入る仕事は、社会に存在する仕事のほんの一部にすぎない。インターンシップや企業分析を行う学生もいるが、それでも短期間で社会を知るには限界がある。有馬氏によると、この限られた視野のみで仕事を選んでしまうと失敗のもとになるそうだ。

「世の中の仕事は、企業や組織を相手にする仕事(BtoB:Business to Business)と消費者を相手にする仕事(BtoC:Business to Consumer)に大別できます。顧客の数では消費者の方が圧倒的に多いため、BtoCの仕事の方が日常生活では目に触れやすいと思います。『知っている企業名やブランドだから』という理由で、会社を選んで就活をする学生もいるでしょう。ですが、消費者向けの商品をつくっているメーカーでも、取引の大半は企業(卸、小売り)に対しての販売業務ですし、実際にはBtoBの職場機会がはるかにBtoCを上回ります。
ですから、一般的な大学生の消費者目線では、魅力的なBtoB企業を見落としがちになるということです」(同)

 さらに、“好きなこと”と“向いていること”を混同してしまったがゆえに、就職先で苦悩する元卒業生も少なくないと有馬氏。

●自己分析に客観性を持たせるには第三者の意見を聞くべし

「好きなことを仕事にしたほうが“リア充的な生き方”との風潮が最近強くなり、それを目指す大学生も多いですが、仕事についたら想像とは違う仕事内容だったと辞めてしまう人もいます。どんな仕事でも地道な下積み時代があるわけですが、働き方のイメージが強すぎるとこれを受け入れられないことにもなりかねません。

 さらに、あくまで主観的に決まる趣味などの“好きなこと”が、職業として向いているかどうかは別問題です。もし業務として向いてなければ自身に失望感を抱きますし、その趣味でこれまで通りストレスを解消できなくなれば、ストレスを溜め込みやすくなりますから余計に早期離職のリスクが高まることになるでしょう」(同)

 自己分析は就活においての必須事項だが、それこそが就活の成否の分かれ道。

「就活は自己を客観的に見つめる孤独な戦いだからこそ、自己分析には他者の意見に耳を貸したり、インターンシップなどの就業経験を通じて新たな自分を発見したりして、幅広い見地から職業選択をすべきです。『自分のことは自分が一番よくわかっている』と考える学生もいるかもしれませんが、企業でも人事課が潜在的な能力も勘案して人事配置を決めています。

 他人が自分を評価、査定して職場環境を決定するのが社会人です。それを肝に銘じて、就活の段階から思い込みや偏った情報で職場不適合を起こさないように、セカンドオピニオンやクロスチェックなど多面的に自分を見つめて、第一歩を踏み出してください」(同)

 売り手市場なのだから選ばなければ内定を得るのは難しくはない一方で、就活の段階で入社した後のことまでイメージするのは相変わらず簡単ではない。この3月の時点で内定を「ゴール」と見るか「スタート」と見るかで、社会人としての一歩目をうまく踏み出せるかどうかが決まるといっても過言ではない。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季)

編集部おすすめ