北海道テレビ放送(HTB)開局50周年を記念した連続ドラマ『チャンネルはそのまま!』が3月18日から5夜連続でHTBにて放送されている。

 動画配信サービス「ネットフリックス」では3月11日から先行配信されており、筆者はそちらで先に全話見たのだが、総監督を『踊る大捜査線』(フジテレビ系)で知られる本広克行が務めていることもあってか、地方局制作でありながら、民放のプライムタイムで放送されているドラマと比べても見劣りしない作品となっている。



 原作は「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)に連載されていた同名漫画。作者は『動物のお医者さん』(白泉社)などで知られる北海道出身の漫画家・佐々木倫子。

 物語は、北海道にある架空のテレビ局・北海道☆(ホシ)テレビを舞台にしたコミカルな群像劇となっている。ホシテレビはHTBをモデルとしているため、ディテールは豊かでリアル。ホシテレビの社屋にHTBの旧社屋が使われ、ライバルテレビ局のひぐまテレビの社屋にはHTBの新社屋が使われている。旧社屋は本作の撮影でその役割を終えたのだが、そういった歴史的な記録という意味でも貴重な映像となるのではないかと思う。

 キャスティングも豪華である。主人公の雪丸花子を演じるのは、NHK朝の連続テレビ小説『べっぴんさん』でヒロインを演じた芳根京子。大泉洋ら、北海道を代表する演劇ユニット・TEAM NACSのメンバーも総出演しており、大泉の出世作となったHTB制作のバラエティ番組『水曜どうでしょう』を制作した鈴井貴之も、ホシテレビの社長として出演している。

 ほかにも、本広監督と親交のある劇団・ヨーロッパ企画の面々や、お笑い芸人・東京03の3人がカメラマン役で出演しているなど、意外な俳優が出演しているのも見どころだ。

●テレビ局の仕事と人間模様がよくわかる群像劇

 序盤は新人として配属された雪丸たちテレビ局社員の日常を描いた群像劇となっているのだが、これが「テレビ局のお仕事」紹介モノとしてよくできている。

 一口にテレビ局といってもその仕事はさまざまで、たとえば報道ひとつ取ってみても、ニュースを読み上げるアナウンサーと撮影するカメラマン、ニュース原稿を細かく修正するデスクと、さまざまな人々がかかわって密なやりとりをしている。


 ほかにも、番組の放送時間の割当を決める編成、スポンサーの商品をなんとか紹介したいと考える営業、天気予報をなんとか見てもらいたいと考えてダジャレやコスプレを多用する気象予報士、放送事故がないように主調整室でずっとテレビを見ている技術部の面々。同時に、テレビ局は報道機関でもあるため、ニュースの取材も欠かせない。そういったさまざまな人々がテレビにはかかわっていて、それぞれが小さなドラマを抱えているということが見ていてよくわかる。

 テレビ局の人間模様をおもしろく見せる手腕は、警視庁と所轄の刑事たちの群像劇として刑事ドラマを描いた『踊る大捜査線』の本広監督ならではだと思う。

 同時に、テレビ業界ならではと思うのが「バカ枠」という考え方だ。雪丸は同期入社の新人たちのなかでは能力が低く、試験でも失敗ばかりしていたのだが、そのユニークな考え方や突飛な行動が買われて「バカ枠」での採用となる。

 同期のなかでも優秀な報道部の山根一(飯島寛騎・男劇団 青山表参道X)は、どうして雪丸が入社できたのか? と頭を抱えるが、逆にクールな新人アナウンサーの花枝まき(宮下かな子)は、雪丸の誤字脱字だらけのニュース原稿を読み上げたときに、雪丸には自分たちの潜在能力を引き出す力があるのではないか? と思う。

 やがて、話が進むにつれて山根たちは現実の壁にぶつかることになり、優等生的なまじめさだけでは対処できなくなるのだが、そこで雪丸が取った突飛な行動が突破口となるという展開こそが、本作の一番の見どころである。

 もちろん、ドラマなのである程度は誇張している部分はあると思うのだが、ミスを繰り返す雪丸を許容するホシテレビの姿勢を見ていると、今のテレビがコンプライアンスを重視するあまり失いつつある大らかさや自由さについて考えさせられる。

 取材相手を傷つけるような横柄さや偏向報道は論外だが(そのあたり、本作では大泉が演じるNPO法人代表とのやりとりにおいて深く切り込んでいる)、小さなミスがすぐにウェブニュースになるなか、失敗を恐れるあまり萎縮し、その結果として冒険できなくなっている今のテレビを見ていると、雪丸のような「バカ枠」の存在が必要なのではないかと思ってしまう。

 動画配信サービス「パラビ」で配信されていたドラマ『新しい王様』が、ゆがんだエリート意識による慢心によって娯楽の王道から失墜しつつあるテレビマンの姿を露悪的に描いていたのに対して、本作はローカル局の楽しい姿を描くことで、かつてテレビが持っていたおもしろいものを生み出そうとする精神を描いている。テレビが持っていたワクワクする雰囲気を、テレビドラマというかたちで見せているのだ。


 フィクションだからこそ描けるテレビの夢と理想が詰まった、良質なエンターテインメント作品である。
(文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家)

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