働き方改革により本年4月からは、労働者の残業時間に制限が設けられたり、企業によっては社員の5日間の有給休暇取得が義務付けられます。そのようななか、医師の働き方改革の議論も加速しています。
医師数を増やすことがよく対策として挙げられますが、産業医としていろいろな企業をみてきた経験からいうと、働く人(医師)を増やしてほしいという社員(医師)の声はたくさんあっても、働く人を増やしたからといって、長い目で見て問題が解決した会社はみたことがありません。
今回は、医師の働き方改革実現のために、最優先課題を1つ挙げさせていただきます。
私は、医師の働き方改革にはナース•プラクティショナー(NP)の導入が最優先課題だと考えます。NPとは、米国でみられる資格です。日本語では、上級看護師、診療看護師でしょうか。イメージとしては、医師と看護師の間の位置づけで、医師の指示を受けずに一定レベルの診断や治療、薬の処方などを行うことができます。
実は日本ではこれに似た資格として「特定看護師」というものの創設が2011年頃から議論されたことがあります。行政だけでなく、日本医師会や日本看護協会を巻き込んださまざまな議論があったと思いますが、最終的には「医療行為の質の担保」などのもっともらしい理由で法制化されませんでした。ですので、現在このような資格はありません。
しかし、当時から5年以上が経過した現代は、医師法が制定された半世紀以上前には予想できなかったような、さまざまなテクノロジーが発達しています。体温、血圧、脈拍だけでなく血中酸素濃度などは、医師ではないと測れないものではまったくなく、街の電化製品店で購入できる機械で誰もが測定可能です。血糖値をはじめとする従来は採血が必要だった数値データも、ウェアラブルデバイスで24時間測定可能になりつつあります。
画像診断をはじめ、病気の検査方法も質(精度)の向上だけでなく、種類も複数選択することができ、より安全、また確実に異常を知ることができるようになってきました。また、電子カルテによっては、患者のアレルギー既往に基づき処方してはならない薬や、相互作用があり同時に処方されるべきではない薬に対してはアラート機能がついています。医療を取り巻く環境は、より進歩しているのです。
そのようななか、発達した医療デバイスをすべての医師が使いこなさないといけない必要はなく、一定基準を満たしたNPにも任せることで、医療の専門職種同士が、それぞれの能力を活かして能動的に働くことができる仕組みこそ、まさに働き方改革なのではないでしょうか。
●医療を受ける側のメリット
NPの導入は医療提供サイドの自己満足だけではなく、医療を受ける側のメリットにもなるはずです。
例えば毎年冬に流行するインフルエンザ。本当に医師の指示がなくては、インフルエンザの迅速判定を行い、診断してはいけないのでしょうか。NPが問診で同居家族でのインフルエンザ患者の存在、そして診察で一定以上の発熱を確認した場合、インフルエンザの迅速キットで判定をすることは理にかなっていると思います。
判断を迷ったり紛らわしい場合については、医師と相談することは当然ですが、このようなタスクシフトにより、医師の業務負担軽減だけでなく、患者側にも医療機関に滞在する時間が短くてすむことや、重症の場合にはもっと時間を割いて対応してもらえる、というメリットが生まれるはずです。
もちろん、どのような医療行為をNPに任せるかは、議論の余地はあります。まずは、医師でなければできない仕事(タスク)、NPに任せても質の落ちない仕事(タスク)を見直さなくてはならないでしょう。場合によっては、NPに任せた方が結果がいい仕事(タスク)もあるかもしれません。
●過重労働が医療事故を招く
働く人々の幸せのために行われるはずの働き方改革ですが、“医師不足の地域や診療科に勤める医師たち”においては“患者や地域医療への影響を考慮したため”、ますます医師たちの自己犠牲が求められてしまっているのが、多くの医療現場での現状です。
その背景には単なる医師不足ではなく、医師数の偏在、医療組織における組織マネジメント・経営管理の未熟さ、国民の医療のかかり方のあり方などの問題があります。しかし、労働時間が長い医師には疲労が溜まります。疲労の蓄積は、判断力の低下や些細なミスの増加につながることは、数々の臨床研究が明らかにしているのも事実です。
3年前にはじまった「こころの健康診断」ともいえるストレスチェック制度、近年の飲食店での受動喫煙防止の動きなどは、実はいきなり始まったものではありません。何度も法制化されそうなところで中止になりましたが、何年かかかって法制化され、現在に至ります。多くの人々は、これらの制度により恩恵を受けていると思います。
NPの導入に関しても、ぜひ再度多くの場で議題に挙がり、検討され、法制化されることを願ってやみません。
(文=武神健之/医師、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事)