後味の悪い試合となった。

 3月28日に行われた選抜高校野球選手権大会2回戦第3試合、習志野高校(千葉)対星稜高校(石川)の一戦だ。

1対3で敗れた星稜の林和成監督が「(習志野は)1回戦からやっていた。問題提起したい」と、習志野の選手がサイン盗みを行っていたと主張。試合後、控室に押しかけ習志野・小林徹監督に「フェアじゃない。証拠があります。映像を見せてもいい」と猛抗議し、一度は引き下がるも、怒りが収まらずに「ビデオを見せましょうか」と再び抗議する事態が起きた。前代未聞の騒動に、甲子園の取材ルームは一時騒然となったという。

 高校野球では1999年のセンバツより、捕手のサインを見た二塁走者がコースや球種を打者に伝えたり、ベースコーチが言葉で伝達したりすることを禁じており、周知徹底事項とされている。疑わしい行為があった場合は、審判が口頭で当該選手と攻撃側のベンチに注意する。ちなみに罰則はない。

 過去には、秀岳館高校(熊本/2016年春)など数校が注意を受けたことがある。ちなみに、日本野球機構(NPB)ではパシフィック・リーグが1999年に情報伝達禁止の監督宣言を行っており、セントラル・リーグも2009年に禁止の申し合わせをしている。

●「カンニングを見逃しちゃダメ」

 問題の場面。
星稜の奥川恭伸投手がセットポジションに入ると、習志野の二塁ランナーはリードしながらヘルメットのつば付近から頭部を右手で二度触れているが、その映像をもってサインを盗んで伝達したと決めつけることはできない。無意識の動きかもしれないからだ。

「MLBもNPBも今はご法度なのに…お上は、高校野球はスポーツではなく教育の一環です。甲子園は教育の場だとハッキリ言ってるんだからカンニングを見逃しちゃダメでしょ!」

 こうツイートした甲子園優勝投手で元プロ野球選手の愛甲猛氏(ロッテ~中日)は、この件に関して次のように語ってくれた。

「サイン盗みについては、メジャーでも日本でも紳士協定が結ばれているよね。日本のプロ野球でもメジャーでも、キャッチャーのサインが変化球のときに盗塁する、というサイン解読は存在するんだけど、それを打者に伝えないというのが暗黙の了解なんだ。

 けれど、日本の高校野球はそこに準じていない。2年前のU-18世界大会のカナダ戦で、終盤で7点差があるにもかかわらず盗塁を試みた清宮幸太郎(早実~日本ハム)がデッドボールをくらったよね。あれは報復死球で、つまりはマナー違反だったわけだけど、高校野球はそうした暗黙の了解を教えていないから、清宮は相手が怒っている理由を理解できなかった。つまり、高校野球はベースボールじゃないんだよね」(愛甲氏)

 1日で最大4試合が行われる高校野球の場合、試合時間を長引かせる要因となるような行為はご法度とされている。サイン盗みを禁じた理由について、ひとつには「試合のテンポをよくするため」ともささやかれている。

「教育の場なら、教育に準じていないことが起きたときになんらかの罰則を与えないと。
でなければ、いつまでもグレーのままだと思うよ」(同)

 見方を変えれば、サイン盗みは禁じられているが、“カモフラージュ”の動きで相手チームを動揺させることもできるはずだ。

「今年のセンバツでは、ウチの高校(横浜)も注意されたよね。あれは、かつての『渡辺(元智)-小倉(清一郎)野球』から質が低下しているんだ。当時、小倉さんは投手の癖やサインを盗むことについて細かく教えていたけど、ウチに限らず、今の高校野球の指導者は仮にサイン盗みを教えていたとしても、徹底していない。ましてや、相手は成長途上の子どもで“演技力”もないよね。本当に教えるなら演技まで教えないと」(同)

 愛甲氏の語る通り、“カンニング”を見逃していては、いずれまた同じ問題が起きるだけだろう。
(文=小川隆行/フリーライター)

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