声は心や体の調子を表すと言われる。そして、声紋を分析することにより、人の心理や嗜好を読み解く「声紋分析心理学」というジャンルがあることをご存じだろうか。
人間の意識には「潜在」と「顕在」が存在する。潜在意識とは、「普段は意識していないが、その人が持つ本能の意識」だ。対して、顕在意識とは「普段持っている意識」であり、「タバコのポイ捨てはいけない」などと自覚して行動する意識だ。緊急事態に遭遇した人が思わぬ力を発揮することがあるが、それは本能である潜在意識が限界を超えた状態であり、いわゆる“火事場の馬鹿力”が出るからだ。
そうした潜在意識と顕在意識を可視化したものが、声紋分析心理学である。 心理カウンセラーの込田友紀子さんは、4年前に自分の声紋を取ってもらった。そのときの声紋分析を見ると、外側の波形=顕在意識が180度、ほぼ全開だったという。
「当時の私は母であり妻であり、仕事にも力を入れ、地域の活動をこなして、さらに起業を目指していました。あらゆる点に顕在意識を持っていたんです」(込田さん)
本来は潜在意識にないことまでがんばった結果、精神的に疲れてしまい、悪循環の日々を送っていたわけだ。しかし、込田さんは「感じたことだけを楽しんで生きてごらん」と言われてすごく楽になり、やりたいことだけに集中して、さまざまな資格を取得するために勉強した。
そして、自分が変わるきっかけとなった声紋分析を勉強するべく、物理学者・心理学者の柊木匠氏に師事。じっくりと学んだ結果、「やるべきこと」「やらなくていいこと」が明確に分けられた。
「自分の不得意な面は他人にカバーしてもらえばいいなど、がんばらなくていい部分を教えてもらったのです。本来の自分に近づいたのでしょう。何をやるにも楽しくなってきました」と込田さんが語る通り、人間は「潜在意識を重視した上で、顕在意識を上手に使う」ことでストレスを減らすことができるのだ。
●なぜ声に人の意識や性格が表れるのか?
そもそも、なぜ声紋で人間の意識がわかるのだろうか。一般的に、声紋とは「声を周波数の分析装置で縞模様の図にしたもの。犯罪捜査にも使われる」ものだという。
込田さんは「声は音ですが、声帯を震わせることで出てきます。そこには体の振動が乗ってきて、体調が出てきます。また、想いや感情も音となって出てきます」と説明する。
声紋分析チャートを見てみよう。上図チャートにある3つの円形は、内側から潜在意識・前意識(気づいている深層心理。
さらに、「3つの判断基準」として体感覚・聴感覚・視感覚に分けられる。加えて、行動基準も自分軸・相手軸・社会軸の3つに大別している。色ごとの特性は下記の通りだ。
・マゼンダ(時計の10~11時)=社会軸、気配りや寛容力、ボランティア精神
・バイオレット(11~12時)=直観、ひらめき力
・ネイビー(12~1時)=見る直観、分析力や直感力
・ブルー(1~2時)=視感、客観性、冷静さ、論理的思考
・ターコイズ(2~3時)=相手軸、順応性
・エメラルド(3~4時)=聴覚、協調性、コミュニケーション能力
・ライム(4~5時)=共感性、感情の入りやすさ
・イエロー(5~6時)=自分軸、自己主張
・ゴールド(6~7時)=自己顕示欲、存在感や信念の強さ
・オレンジ(7~8時)=味覚、感情の豊かさや楽しさ
・コーラル(8~9時)=嗅覚、体の感覚や自律神経、色気
・レッド(9~10時)=触覚、行動力ややる気
以上の説明を受けて、筆者も声紋分析をしてもらった(下図左チャート)。声紋分析の装置に向かって自分の名前を6回言うと、潜在意識と前意識の部分でマゼンダとバイオレットに大きな波形が出た。
「直感力を強く持っていますね」(同)
私事で恐縮だが、競馬雑誌に長いこと携わっている筆者は、レースごと、どの予想ファクターを選ぶか、直感に従って馬券を買っている。馬券のみならず日々の行動も直感に従うことが多いが、それをズバリ言い当てられた(マゼンダとバイオレット=10~12時の前意識と潜在意識が該当)。
「前意識を見ても行動力や分析力、ボランティア精神を上手に使っていますが、それが顕在意識に出ておらず、普段の生活でうまく使えていません。直感力を使おうと意識すると、より良くなると思います。奉仕精神も強く、そこまでするか、というほど相手のことを思いますが、マゼンダを見ると顕在意識で奉仕精神を使えていませんね」(同)
これも思い当たる。
●気持ちを変えると声紋も変わる
筆者の声紋分析は込田さんの話を集中して聞いていた流れでの結果であり、その点が顕在意識(ターコイズからイエロー=時計の2~6時の外側)として大きな波形となったが、内側の潜在意識では波形が出ておらず、人の話を聞くことやリーダーシップが本能的には備わっていないようだ。会社経営など絶対にできないフリーランスの筆者は大きくうなずかされた。
試しに、「取材であることを忘れ、プライベートで込田さんと遊んでいる」という感覚に頭を変化させてみた。一服してコーヒーを飲み、リラックスしてから再び声紋を分析してもらうと、波形に小さな変化が表れた(上図右チャート)。先ほどはなかった分析力と客観性の潜在意識(ネイビー&ブルー=時計の12~2時)が、小さいながらも表れてきたのだ。
「最初は(取材で)緊張していたのが、ややリラックスしましたね。先ほどは隠れていた分析力が潜在意識に出てきました。リラックスすると、より一層頭が冴えるタイプのようですので、今の感覚の変化を覚えておき、緊張されたら意識的にリラックスしてみてください。家でお酒を飲みながら仕事を考えると、仕事がよりおもしろくなります」(同)
確かに、先ほどよりも楽しさやワクワク感が増した感じがする。このテンションの変化をマスターすれば、馬券の的中率も高まるかもしれない。
ちなみに、込田さんが某声優の声紋分析を行ったところ、男性の声・女性の声・大人の声・子どもの声で、意識の変化が如実に表れたという。役ごとに意識を変える声優ならではの分析結果だったそうだ。
筆者の場合、「潜在意識と前意識では直感力が強いので『直感で生きているのだ』と意識すると、ひらめきが増えてくると思います」(同)とアドバイスを受けた。ストレスが少ないとも言われたが、確かに脳天気な性格で思い悩むことは少ない。
●ストレス軽減にも役立つ声紋分析
この声紋分析で判別できることはいくつもあり、また応用することもできるという。
「本来の自分(潜在意識)と日常の自分(顕在意識)が合わないと、それだけストレスが溜まります。たとえば、潜在意識でターコイズ(相手軸)が強い人は人の面倒見がよく、誰かのためになりたいという欲求が強いのですが、面倒を見たい人がいなくなると、うつっぽくなります。あるいは、潜在意識でイエロー(自分軸)が強い人は自分を出したいのに、組織の歯車になってしまうと仕事が楽しくなくなります」(同)という。
ストレスは主に人間関係から生じるが、仕事がうまくいかないときほど上司や部下、商談相手などとのコミュニケーションが上手に取れていないものだ。逆説的に考えれば、仕事が自分に合っていないからこそコミュニケーションが取れないともいえる。
「声紋分析によるアドバイスを受けて自分の潜在意識を認識し、顕在意識を上手に使えるようになると、仕事(ペアリング)や恋愛(マッチング)など、人間関係がうまくいくようになります。たとえば、自分軸が強い人は相手軸が強い人と組んで仕事をすると、自分の苦手分野をフォローしてもらえるようになります。
込田さんの言葉通り、声紋分析は企業や病院、家庭などあらゆる場面で使われ始めている。自分の長所をうまく使えているか否か。声紋分析により意識することができれば、日常生活や行動を良い方向に変えていけるだろう。
(文=小川隆行/フリーライター)