今年のゴールデンウィークは長いです。ニュースによると山開きしたところも多いようで、たくさんのハイカーが登山を楽しんでいると思います。
彼は登山歴も長くプロ級の腕前で、僕に一から山登りを教えてくれたのですが、登り方に関しては大して教えてくれませんでした。それよりも、怪我や事故を起こさないための注意点や、トラブルに巻き込まれたらどう対処するのか、つまりリスクマネージメントのようなことを重点的に教えてくれました。
ひとつ印象的だったのは、僕が危険な場所を歩いているときに何も言わず、そこを通り過ぎた瞬間に「篠崎君、気をつけて」と言ったことです。彼の説明では、「危険な所は用心するけれど、そこを通過したらホッとするでしょう。でも、客観的に見てみると、まだ危険なんだよ」と説明されました。さらに、「山で転落死する人は、実際には一番危険な場所ではなく、『こんなところで』と思うような場所のほうが多いんだよ。危険な所を過ぎた後に転落することが多いんだよね」と、話されていました。
僕は、それを聞きながら、音楽でも同じだと思いました。オーケストラも人間が演奏するものですから、ちょこちょこミスはあるのです。僕も失敗をすることもあります。
しかし実際には、不安いっぱいで演奏し始めても、不思議なことに難しい場所はクリアできてしまうことが多いのです。経験から言いますと、一番危険なのは、その難しい場所の直後です。これまで練習で一度も音を間違えたり、出そこなったりしたことがないような場所にもかかわらず、コンサート本番でミスを犯すということが多いのです。登山中の事故と一緒で、難しい場所ではなく、その後こそ危ないのです。大難関を本番の集中力で無事に過ぎた瞬間、ちょっと安心してしまい、緊張の糸が切れるのが原因だと思います。
●山をテーマにした名曲『アルプス交響曲』
演奏家は、10回中9回成功しても「1回失敗したから」と、夜遅くまで練習を繰り返し、成功確率を限りなく100%になるように努力して、初日のリハーサルに向かいます。つまり、失敗のリスクを下げることに腐心するわけです。それは努力というよりも、「うまくできなかったらどうしよう」という恐怖感がそうさせると言ったほうが近いかもしれません。たとえば、指揮者のテンポが自分の想像していたものとまったく違っても、“最低限の完璧さ”を求められるからです。
それでも、苦しんで困難を克服できたコンサートの後は、達成感も加わって本当に爽快です。それまでの苦労なんて、観客の盛大な拍手と一緒に忘れてしまいます。山登りで、頂上に着いたとたん、絶景に心を奪われ、それまでの苦しさを忘れてしまうこととよく似ていると思うのです。
ところで、山をテーマにした名曲があります。これは、ドイツの大作曲家、リヒャルト・シュトラウスが1914年に作曲した『アルプス交響曲』です。この曲の舞台は、ドイツ・アルプス。正確には、フランスからスイスを通りオーストリアの東端まで貫いているアルプス山脈の北側になります。残念ながら、スイスのマッターホルンや、フランスのモンブランのような名峰がないために、あまり日本人観光客は訪れませんが、ドイツ人にとっては最高の避暑地のひとつです。
この『アルプス交響曲』は、ドイツ・アルプス最高峰、ツークシュピッツェ山を音楽で登るというアイデアの作品です。ツークシュピッツェ山は標高2962mで、それほど高い山ではなく、現在では登山電車で頂上まで登ることができますが、その山頂までの光景がシュトラウスの『アルプス交響曲』とまったく同じです。
ちなみに、このシュトラウスは、山だけでなくなんでも音楽にしてしまう天才でした。本人の家庭をテーマにした『家庭交響曲』という曲もあり、ソプラノ歌手で騒がしい妻や、元気な子供、おじさん、おばさんまで登場しています。
(文=篠崎靖男/指揮者)

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