大津園児死亡事故の衝撃が、収まりそうにない。

 報道や県警の発表によれば、乗用車を運転する52歳女性が、前方から直進してくる軽乗用車に注意を払わずに右折し、62歳女性が運転する軽乗用車と衝突。

後者の運転する軽乗用車が弾みで歩道上を散歩中だったレイモンド淡海(おうみ)保育園の園児13人と保育士3人の列に突っ込み、園児2人が死亡、1人が重体となったほか、13人が重軽傷を負った。

 乗用車で右折した52歳女性は県警の調べに対して「前をよく見ていなかった」と話す一方、園児の列に突っ込んだ軽乗用車の62歳女性は「乗用車が急に右折してきた。避けるためにハンドルを左に切った」と話しているといい、62歳女性のほうは県警から過失の程度は低いと判断され、8日釈放されている。

 もし上記内容が事実であれば、2人の女性はどのような罪に問われるのであろうか。弁護士法人ALG&Associates執行役員・弁護士の山岸純氏に解説してもらった。

●山岸弁護士の解説

 以下、「強引に右折してきた車両(52歳女性)」側を「右折車女性」といい、「直進車両(62歳女性)」を「直進車女性」といいます。

 まだ、現場の具体的な状況(2台の位置関係、信号の状態、スピード、見通しの良さなど)はわかりませんが、信号機が設置されている交差点では、道路交通法第37条の規定により直進車両の走行が優先されますので、「右折車女性」には、道路交通法違反の罪が科せられることになります。

 なお、これは行政法規違反であることから、誰に対する罪というわけではありません。信号無視と同じような法律違反と考えてください。

 次に、園児たちの死傷の結果に対する罪ですが、自動車運転処罰法が適用されるかどうかが問題となります。

 自動車運転処罰法第5条は「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する」と規定し、「自動車の運転上必要な注意を怠った」ことによって人を死傷させてしまった場合を処罰しています。

 ここで、「注意を怠った」とは、法学においては、「ある行為をする際に、人の死傷という結果を予見することが可能であったこと」を前提に、「そのような結果を予見せず」に「回避できる結果を回避しなかった」ことを意味すると考えられています。


 何を言っているのかわかりにくいと思いますが、要するに「普通、こんなことをすれば人が死んでしまう可能性があると考えることができたのに、人が死ぬかもしれないことを考えもしなかったし、そのような結果が発生しないように行動することもしなかった」ということです。

 なお、判例では、「特定の人」に死傷の結果が発生する可能性を考えたかどうかではなく、抽象的な「人」に死傷の結果が発生する可能性を考えたかどうかが大切とされています(例えば、トラックの荷台に人が乗り込んでいたことを知らなかったドライバーが危険な運転をした結果、荷台の人を死なせてしまった事件において、判例は「たとえ、荷台に人がいることを知らなかったとしても、危険な運転をすればいつしか“人”を死なせてしまう可能性があったことを考えるべきであった」旨、判示しています)。

 今回、「右折車女性」に、「直進車が迫っているのに強引に右折すれば、どこかで人が死傷してしまう可能性がある」と予見することができたにもかかわらず、「人が死ぬかもしれないことを考えもしなかったし、そのような結果が発生しないように右折をとどまることもしなかった」のであれば、自動車運転処罰法第5条違反として、7年以下の懲役か禁固刑が科せられることでしょう。

 他方で「直進車女性」ですが、民事上では、このような交通事故の際の「過失割合」として「右折車女性」:「直進車女性」=80:20とされており、「過失」はゼロではないことになっておりますが、刑法上の「過失」、すなわち上記の「注意を怠った」と言えるかどうはきわめて疑問です。

 なぜなら、まず、「右折しようとしてきた車を避けよう」という行為をする際に、「普通、こんなことをすれば人が死んでしまう可能性があると考えることができた」かどうかも疑問ですし、さらに「そのような結果が発生しないように行動すること」ができたかどうかも疑問だからです。

 実際、報道されている状況において右折車が強引に右折してきた際、もしも「直進車女性」が歩道に園児たちがいることを目の端で見ていたとしても、または、誰かをケガさせてしまうかのしれないと考えたとしても、「右折車を避ける」ことをするために「園児たちに突っ込んでしまう」こと以外のことができたかというと、たとえ道路交通法に100%したがっていたとしても不可能であったことでしょう(スピード違反など、なんらかの道路交通法違反があれば別ですが)。

 したがって、私は、「直進車女性」は自動車運転処罰法第5条違反などは問われないと考えます。
(文=編集部、協力=山岸純/弁護士法人ALG&Associates執行役員・弁護士)

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