今春スタートのドラマで「賛否両論」という言葉がもっとも当てはまるのは、『あなたの番です』(日本テレビ系)で間違いないだろう。
人気者の田中圭を主演に起用したほか、30人超のキャストを揃え、2クールにわたる本格ミステリーに挑戦。
序盤の否定的な意見は、そんな期待値の裏返しともいえるが、そこに「企画・原案 秋元康」の名前に食いついた人々が加勢。ドラマを見ていないであろう人々も含めて、批判の声が増えていった。
しかし、その一方で「ほかにはないサスペンス&ミステリーで犯人を予想するのが楽しい」「いろいろ謎めいてきて続きが気になる」などの称賛も、少しずつ上がり始めている。いまだ批判のほうが圧倒的に多いが、『3年A組』『今日から俺は!!』がそうだったように、中盤以降、右肩上がりに称賛を集めていく可能性はあるのか? さまざまな角度から考えていきたい。
●死体の描写はエスカレートする一方
当作最大のテーマである“交換殺人”は30人超の大量キャストあってのものだけに、まずは「登場人物をどのように見せて理解してもらうか?」が重要だった。
そこで制作サイドが利用したのは住民会。これを初回から何度も行い、しかも話し合いのシーンを長めに取ることで、登場人物の理解を促そうとしている。ところが、「ひとつの場所に一同が集まる」この方法では、視聴者に登場人物の名前と特徴を覚えさせ、魅力を感じてもらうのは難しい。
実際、「いっぺんに見せられても、誰がどんな名前で、どういう人なのか、わからない」「キャラをつかめず、特徴も魅力もわからないまま物語が進んでしまう」という戸惑いで早期離脱した人は少なくなかった。
たとえば、プロレスには“時間差バトルロイヤル”という試合形式があり、それは一定時間ごとに新しい選手を次々に登場させることで、観客が名前と特徴をつかみ、魅力を引き出そうとしているが、当作の第1話もそういう配慮が必要だったのではないか。このあたりは、「“2クールのミステリー”という、慣れない上に難易度の高いことに挑んだ弊害が出ている」と言われても仕方がないだろう。
次に、“交換殺人”のミステリーは、まだほとんど解明されていない半面、凄惨なカットは回を追うごとにエスカレートしていて、これが賛否を分ける大きな要因となっている。
ここまでは直接的な殺人のシーンこそないが、窓の外から吊るされる、バラバラにされて首をランドリーに入れられる、ダイニングに座ったまま袋をかぶせられるなど、死体の描写はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の反響を狙ったようなホラーテイストを徹底。日曜夜に寝つきが悪くなりそうな凄惨なカットをわざわざ入れているのだから、「生理的に嫌」という人がいるのは当然だろう。
ただ、ここまで徹底していれば、「いつの間にか、それを待っている自分がいる」「これがないと物足りない」と、一周回ってやみつきになる可能性もあるだけに、さらにエスカレートさせてもいいのかもしれない。
●「住民のほとんどが悪?」最悪の展開も
もうひとつの肝は“多様な登場人物の抱える謎”。2016年秋放送の『砂の塔~知りすぎた隣人』(TBS系)でも描かれていたように、同じ建物に住む他人は、謎が多く、かつ、恐ろしい存在となり得るものだ。
「なかなか距離が縮まらない」「距離が縮まったと思ったら突き放された」「思わぬ秘密を知ってしまった」「とんでもない過去を抱えていた」「悪口を吹聴されていた」「嫌がらせを受けていた」……それどころか「人を殺していた」、さらに「住民の多くがそうだった」という最悪の展開すら頭をよぎるのが当作の醍醐味だ。
ただ、中盤以降、「実は味方だった」「いろいろ助けてもらっていた」という人物も現れるはずであり、単に犯人探しだけでなく、登場人物が多いからこそ、善人と悪人を予想することも、当作ならではの楽しみといえる。
とはいっても、2クールの長丁場だけに、大きく状況を動かして視聴者を驚かせる「“中盤の山場”が2つくらいほしい」のが正直なところ。ただ、それが「甘えん坊キャラの手塚翔太(田中圭)が一変して悪人になる」という、視聴者に見透かされるようなものは避けなければいけないだろう。
視聴者の予想を上回り、驚かせるほど、「今まで見ていてよかった」の声が飛び交うなど、一気に風向きが変わるかもしれない。
●日曜夜にフィットしないダークサイドの物語
批判の多い現在は、「田中圭の甘えん坊キャラがキツイ」「原田知世の髪型が変」などと細部をつつくようなバッシングが増え、悪目立ちしているのがつらいところだ。
しかし、ハイリスクな2クール放送も、30人超の大量キャスト抜擢も、制作サイドの意欲と挑戦の表れにほかならない。高齢層狙いで保守的な1話完結の刑事、医療、弁護士ドラマばかりのなか、多少の文句はあっても、「見ておこうかな」と思えるほどの差別化がされているのは確かだ。
「次々に人が殺されていく」というダークサイドの物語は、翌日の仕事が気になる日曜の夜にフィットしているとは思えない。しかし、今さら「もし土曜の夜に放送していたら……」と考えても遅いだけに、さらなるダークサイドに掘り下げながらやり切るしかないだろう。あらためて、脚本・演出を担うスタッフの技量が問われている。
(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)