信用金庫大手の西武信用金庫が、暴力団など反社会勢力と関わりのある企業に融資していた。4月6日、7日付毎日新聞の報道を皮切りに朝日新聞、日本経済新聞も報じた。



「関係者によると、支店長などの幹部クラスが東京都心の繁華街で、指定暴力団や、在日中国人らによる準暴力団の構成員らに飲食を伴う接待を繰り返していた。支払いには信金名義のクレジットカードが使用され、西武信金は金融庁が昨年11月に立ち入り検査に着手して間もなく、カードの使用を自粛するよう内部に通達を出したという」(4月7日付毎日新聞)

「同信金の落合寛司理事長は反社会的勢力との関係を含めた一連の問題の責任を取って辞任する意向を金融庁に伝えているといい、トップの進退に波及する可能性がある」(4月6日付毎日新聞)

 金融庁はスルガ銀行の投資用不動産向け融資の不正を受け、信用金庫を含む全金融機関に対して、投資用不動産向け融資に関する実態調査を進めた。

 西武信金は投資用アパート・マンション向け融資に積極的で、不動産購入資金の借り入れ希望者の資産の多く見せるため、不動産業者が預金残高を改竄し、同金庫から多額のローンを引き出した事例が見つかった。金融庁は昨年11月、こうした不正を見過ごした同金庫の融資審査や管理体制に不備がなかったかを調べるため、立ち入り検査を行った。

 検査のなかで、指定暴力団の関連企業に融資していたことがわかった。西武信金はこれらの企業を「反社会的勢力に該当する」としてデータベースで管理しており、不適切な融資と認識していたという。一連の融資と接待は、常勤の理事が主導していた。

「都内のある支店では警視庁が準暴力団と位置付ける組織の関係者側への融資が大きく膨らんでいた」(4月9日付朝日新聞)

 金融庁による地方銀行や信用金庫の監督指針には「反社勢力への資金提供や不適切な取引関係を認識しているにもかかわらず関係解消に向けた適切な対応が図られないなど、内部管理態勢が極めて脆弱なケース」などで行政処分を出すと明記されている。

 金融庁は、この理事の解任を含め西武信金の経営責任を追及し、信用金庫法に基づく行政処分を検討する。“第2のスルガ銀行”事件である。

●都心に出店し、不動産融資で業績を伸ばす

 ほんの1年前まで、西武信金の落合寛司理事長は、“信金の麒麟児”ともてはやされていた。理事長に就任してから、爆発的に業績を伸ばしたからだ。


 落合氏は1950年、神奈川県生まれ。亜細亜大学卒業。73年、西武信金に入庫した生え抜き。2010年6月、理事長に就任した。

 西武信金は本店のある東京・中野区から西の多摩方面に展開する郊外信金だった。理事長に就任した落合氏は方向を転換し、資金需要が旺盛な都心部に打って出た。その戦略が当たり、1年間の貸出金増加額で連続してトップクラスの急成長を続けてきた。

 18年3月期の実績は、ホームページ上に「一般企業の売上高にあたる貸出金は前期比で2148億円の増加(業界NO.1)、仕入高に当たる預金は前期比1861億円の増加(業界NO.2)と過去最高の伸び」と誇らしげに記している。

 18年9月期中間期には、さらに伸長した。貸出金は1兆7252億円と、理事長就任からの8年間で倍増させた。預金は2兆643億円と初の2兆円の大台に乗せた。信金界の平均預貸率(預金に占める貸出の割合)は50%程度にととどまるなか、西武信金のそれは83.57%にも上る。
驚異的な数字を示していた。

 貸出を牽引したのは、投資用アパート・マンション向けの融資だ。18年9月中間期には、全貸出のうち不動産賃貸業向けが46.25%を占めた。不動産向けの10.94%と合わせると57.19%となる。不動産向け融資割合は信金平均が22.8%だから、西武信金は突出している。

 当時、都心はタワーマンションブーム。これが引き金となり、東京五輪開催の決定とあいまって不動産のミニ・バブルが起きていた。西武信金は不動産のミニ・バブルを追い風に貸出金を伸ばした。「実態は不動産ファンドそのものだった」(有力信金の幹部)との指摘もある。

●森・前金融長官が西武信金を「信金の雄」と絶賛

 驚異的に業績を伸ばす西武信金を“信金の雄”と絶賛したのが、森信親金融庁長官(当時)だった。

 16年11月8日、東京・千代田区大手町の大手町フィナンシャルシティで、第5回産業金融フォーラムが開かれた。東京の中の“地方”創生にスポットを当てた。
森長官は基調報告で西武信金を褒め称え、続けて森長官と西武信金の落合寛司理事長の対談が企画された。

 森長官の後ろ盾を得た落合氏は、政府委員として足場を築いていく。金融庁金融審議会専門委員、中小企業庁中小企業政策審議会委員、経済財政諮問会議の政策コメンテーター委員会委員になった。母校の学校法人亜細亜学園の理事長にも就いた。

 まさに得意の絶頂のさなかに、スルガ銀行による女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」への不正融資が発覚。投資用不動産向け融資が突出している西武信金は、「第2のスルガ銀行になる」(有力金融筋)と噂された。

 そこへ指定暴力団の関連企業への融資が明るみ出たことで、万事休す。不動産のミニ・バブルの徒花(あだばな)に終わるのだろうか。“信金の麒麟児”と称された落合理事長は、引責辞任に追い込まれると報じられている。

 西武信金を「信金の雄」と絶賛した森氏は、スルガ銀行も「地銀の優等生」と持ち上げていたことでも知られている。

 金融庁を退官した森氏は、昨年秋から米コロンビア大学国際公共政策大学院で非常勤講師として、日本の金融政策などを教えている。スルガ銀行、西武信金の経営体質(=経営の健全性)をなぜ見誤ったのか、告白を聞きたいものである。


 西武信金は「『適切に業務をやってきたつもりだが、今はコメントできない』と話している」(4月9日付日経新聞)という。

●金融庁、“反社”取引を緊急検査

 金融庁は西武信金の指定暴力団関連企業への融資疑惑を受けて、5月中にも全国の金融機関に対し、反社会的勢力との取引について緊急検査を始める方針を固めた。

 金融庁は新たに重点検査をするのは、暴力団や準構成員などと密接な関係がある企業・組織やその関係者ならびに総会屋らに対する融資や接待、口座開設の有無について。反社勢力との取引を防止する体制についても調べ、問題が見つかれば、早期の是正を求める。
(文=編集部)

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