ビジネスパーソンにとって、自分のたずさわる業務を深く、あるいは体系的に学ぶのが大切であることは、あらためて語る必要はないでしょう。専門分野について詳しく知るのがムダになることはありません。
また、専門ではない分野の学習も高い価値を持っています。たとえば、多くの人たちが悩む職場の人間関係は、誰にとっても専門ではありませんが、誰もが直面し得るテーマだからです。
ビジネスパーソンにとって日々の学習は不可欠ですが、今回は、そうした学習を習慣づけることの効果について考えてみたいと思います。
●時間を大切にするようになる
以前、筆者は勤めていた会社で、上司が若い女性社員たちに「何かを勉強する習慣を身につけること」を勧めるのを見たことがあります。会議が終わったときに、上司は「ここからは業務と直接関係ない話になるが」と断ってから、女性社員たちに、毎日帰宅してから夕食をとるまでの間に勉強することを勧めたのです。そのとき上司は、テーマは何でもよいので、資格取得などの目標を立て、毎日取り組むと、人は「時間を大切にするようになる」と話したのです。
私はその上司の話で、気づいたことがありました。そこに居た女性社員たちは、失礼ながら普段からあまり時間を大切にしているようには見えず、私語も多く、気分次第でダラダラと残業をするような勤務態度でした。そのことを上司は気にしていて、解決案として勉強することを勧めたのでした。
私自身は、思うように出世していない自分に焦りを感じ、仕事が終われば常に何かの勉強をしていましたので、いつでも時間をムダにするのはもったいないと思っていましたし、仕事中の私語などは好きではありませんでした。ですから上司の話はよく理解できました。そしてそのことを「夕方の勉強」を勧めることで改善させようとした上司に感心したものです。
やってみるとわかるのですが、夕方から日常的に勉強する時間を確保しようとすると、私たちは朝からの時間管理が必要になり、一日の行動が引き締まってきます。夕方から計画していることが特にない場合と比べて、全体に緊張感が出てくるのです。もちろん勉強するのは夕方でなくてもいいのですが、一日に1時間くらいの時間を確保して、自分の業務や将来に役立つ学習をするのは、そうした時間管理や就業態度の改善にとってもよい効果があります。同時に、自分と同じように時間を大切にしている人と、そうでない人の違いにも敏感に気づくようになるでしょう。
●取り組みたいテーマを考える
何を勉強すればいいのかわからない人は、それを考えることそのものが大切な行為です。ピンとくるテーマがない場合には、とりあえずなんらかの資格取得を目指すのが1つの方法ですが、じっくり取り組みたいテーマは簡単に見つかるとは限りません。
筆者自身も30代の頃には社会人として修士課程を修了し、ここ10年ほどの間は大学院で講義も受け持っていますが、実は大学院に通いながらも研究したいテーマが見つからない人は多いものです。したがって、自分が向かい合うべきテーマを見つけるまでは、試行錯誤することがあっても不思議ではありません。
特定のテーマどころか、どんな分野の勉強をすればいいのかわからない――こんなことがあっても大丈夫です。まずは一度、書店か図書館の中をゆっくり歩いて回ってみましょう。分野にはどういうものがあり、自分が何に興味があるかを確かめてみます。たとえば経営学のコーナーに関心を持った場合には、その中で特に興味のあるテーマはなんなのか、テーマ別にたくさん並んだ本を眺めて考えてみましょう。
一口に経営といっても、その範囲は広いからです。一度やってみただけではピンとこないかもしれませんが、何度か出向いて繰り返すうちに、目を通してみたいテーマが見つかってくるはずです。
●経営者の自叙伝で学習する
どんなビジネスパーソンにもお勧めしたいのは、有名経営者の自叙伝を読むことです。それにより一人の経営者について学ぶことになり、企業と業界の研究をすること、あるいはそのきっかけになるでしょう。図書館で2、3冊の本を手にとってみてはいかがでしょうか。
スターバックスが好きな人なら創業者のハワード・シュルツ氏の本、マクドナルドならフランチャイズ化を成功させたレイ・クロック氏の本、吉野家であれば長年社長を勤められた安部修仁氏の本を読めば、それぞれのお店を訪れても、これまでとは感じることが違ってくるでしょう。
たとえばコーヒー豆や牛肉などの原材料が、どこから仕入れられているかといったことも読むことになりますから、今まで気に留めていなかったことにも関心が広がります。何よりも、そうした経営者の本からは、力強いエネルギーを感じ取ることになりますから、それだけでも有益です。
もし毎日、夕方に1時間、経営者の本を読む時間を確保したら、そうした経営者たちから毎晩1時間話を聞いていることになります。それを一定期間繰り返し行った場合と、まったく行わなかった場合の違いは明らかなのではないでしょうか。
そして、こうした勉強を実践するために、1日のスケジュールもテキパキこなすようになれたら一石二鳥です。
●できるだけ楽しみながら継続する
学習を習慣づけるというと、堅苦しく感じるかもしれませんが、楽しめる方法を選んでやっていけばいいのです。
難しい資格の準備や研究だけが勉強ではありません。たとえば企業のスキャンダルについて、本を読んだり映画をたくさん観てみるといった方法もいいでしょう。そうした内容のものが、自分が知るべきことについてヒントを与えてくれることもあります。
どんなテーマであっても、はじめは理解しやすい内容のものを選びましょう。「○時間でわかる~」といったタイトルの本や、図解してある本などはわかりやすい本の一例です。そうした本で、基本を確実に理解していきましょう。そのテーマで「しっかりと1、2冊は読んだ」という経験を重ねることが大切です。
難しい本を手に取ると、途端に読むのがイヤになって継続できないこともありますから、無理なく続けられる教材を選びましょう。
学習を習慣づけることからは、さまざまな効果が期待できます。どんなことをどのように学習すべきか考え、試行錯誤することも、自分自身や自分のキャリアと向き合うために大切なことなのです。
(文=松崎久純/グローバル人材育成専門家、サイドマン経営代表)
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