最近、新聞が「薄く」なっていないか。そう感じさせる出来事が、3月から4月にかけて起こった。
原価の高騰やコストの上昇などには、一般的には値上げで対処する。しかし、最近では「ステルス値上げ」といい、値段は同じながら内容量の減少などで対応するということも多く行われるようになった。お菓子などでは、今まで多く入っていたものが少ない分量になったため、消費者から反発の声が上がっている。定食店のご飯の盛りなども減少し、満足感が得られにくくなっているという状況が起こっているが、同様の状況が紙の新聞でも起こっているのだ。
●値上げにかじを切った新聞、値段を上げない新聞
これまでのサービスを維持できない場合、値上げをするしかない。日本経済新聞は2017年11月に朝刊と夕刊のセット版を4,509円から4,900円(税込・以下同)に値上げし、読売新聞は今年1月から朝夕刊セット版を4,037円から4,400円に値上げした。東京新聞も4月1日に朝夕刊セット版を3,343円から3,700円に値上げしている。
背景には、新聞用紙の値段、印刷体制や配達網の維持コストなどの上昇がある。これまでの新聞価格では既存の新聞販売システムを維持できないというわけだ。
一方、値上げという選択肢を採用しなかった新聞もある。朝日新聞、毎日新聞、産経新聞だ。4月1日、朝日新聞は紙面リニューアルを名目に紙面の内容を削減し、最終版配達エリアも再編されることになった。
同日に東京都調布市の筆者の自宅に届いた朝日新聞朝刊は、それまでと同様に最終版を示す「14版」と記されていたが、別の印刷所で印刷されたものになり、総合面の数が5面から4面に減り、記事の分量が減っていることがわかった。また、夕刊は最終版の「4版」ではなく「3版」になっており、従来2面にあった記事が社会面の片隅に入るようになり、純粋なニュース記事が減ったことになる。調べてみると、最終版エリアでは「14版△」が配布されるようになり、そのエリアは東京23区内だと考えられる。つまり、最終版配達エリアの縮小と紙面の内容削減が行われたようだ。
別の新聞でも、紙面上の動きが起こっている。産経新聞では、3月25日付朝刊(東京本社管内では朝刊のみ)から最終版の「15版」が「14版」になった。最終版が配られているのは、東京23区内である。調布市周辺では「14版」が「13版」になっていた。単純に数字を繰り上げただけなのか、それとも印刷開始時刻を早めたのか。
●紙面再編の理由
朝日新聞社に総合面の縮小について聞くと、次のような答えが返ってきた。
「弊社では毎年、コンテンツの見直しとともに、面の新設や改廃を伴う紙面改革を行っています。この春の改革はデジタル時代への対応として、朝刊では、深く掘り下げた読み解きや検証、解説を充実させることをめざしました。
従来、総合面は1面が主要記事、2面は解説、3面は解説やニュース、4面はいわゆる政治記事、5面はその他のニュースというかたちになっていた。その5面を削減して、その他のところに振り分けるというかたちになったのだろう。また、読み解きや検証、解説の充実は、分量ではなく、内容の充実だろう。
また、最終版のエリア削減について、朝日新聞社は「新聞の降版(締切)時間と配布エリアの対応関係については、具体的な回答は控えます」としながらも、以下のように回答した。
「お客様のニーズや交通事情の変化などに加え、弊社の生産能力に応じて適宜見直しをしています。『版』は新聞制作及び輸送上使用している記号です。14版△も従来からある記号の一つですが、今春からは使用する頻度が増えました」
ちなみに、これまで「14版△」は最終版の紙面完成以降にさらに情報を追加しなければならない場合に使用されていたもので、なかなかお目にかかれないものだった。
また、朝日新聞社は3月末で世田谷生産技術実験所の操業を停止したという。この工場では、世田谷区や杉並区、武蔵野エリアなど朝日新聞のシェアがトップであるエリア向けの新聞を印刷していたが、そこを操業停止にしなければならないほど、新聞の部数はシュリンクしているのだ。ほかにも、群馬県や栃木県で夕刊の刊行を2月末で終了し、厳しい状況が垣間見える。
産経新聞社にも「版」繰り上げについて聞いたところ、「『版』に関することについてはお答えできません」という返答だった。産経新聞社は所沢工場の閉鎖や人員削減などの大きなリストラを行うほど経営が厳しく、販売網も他紙に比べると専売店が少ない。
さらなる部数減を恐れて値上げのできない新聞社は、紙面の削減や降版時間の繰り上げなど、さまざまな工夫をしてコストカットを行おうとしている。新聞部数の減少は、読者にも目に見えるかたちで影響しているのだ。
(文=小林拓矢/フリーライター)