先日、バレリーナであるミスティ・コープランドが、ニューヨーク・リンカーンセンターを本拠地にする、アメリカンバレエシアター(ABT)で初のアフリカ系アメリカ人のプリンシパルに昇進しました。これは長いABTの歴史に新しい時代の幕開けをもたらしたと言って良いかもしれません。

私はなりたいものになる

観客からのエネルギーと興奮を感じると何かが起こります。今までにないくらい高く飛べるんです。それは、本当にマジカルな瞬間です。

CBS News」より翻訳引用

ミスティ・コープランドは現在32歳、ニューヨーク在住のバレリーナです。その人気はまるでハリウッドスターのようで、公演チケットは即ソールドアウト、行く先々で熱狂的なファンに囲まれ、サインを求められる姿をよくメディアで目にします。

パッと見は決して派手ではありませんが、なんとなく印象に残る愛らしい顔立ち。小柄な身体はバレリーナの細く華奢な体型そのもの、というよりは健康的なイメージです。

そんな彼女を一躍有名にしたのが、スポーツ用品メーカー『アンダーアーマー』のコマーシャルでした。

ミスティの不屈の精神を凝縮したようなこのコマーシャル。ブラトップとショーツという最小限のウェアで、むき出しになった彼女の素晴らしく発達した筋肉の美しさ。最後にアップになる彼女の顔には自信も感じさせられます。

年に約650万人が生でバレエを鑑賞しますが、このコマーシャル動画は800万人の人が閲覧しました。

また、ポップスター、プリンスとの共演で別のファン層に認知されました。そして、最も影響力のある100人の一人として「TIME」の表紙を飾りました。

CBS News」より翻訳引用 

多方面で取り上げられる彼女は、まさにアイドル的人気です。親しみやすい笑顔と裏腹な驚くべきテクニック。その現在の彼女を作ったのは、数ある困難を乗り越えた強さでした。

クラシックは聞いたことがなかった

彼女と、離婚した母と5人の兄弟はノマドのように暮らしていました。運命に身を任せ、最終的にはカリフォルニア州のガーデナの交通量の多い通りにあるモーテルに落ち着きました。家族全員が2つの部屋にギュウギュウで住んでいたのです。

CBS News」より翻訳引用 

実際に彼女の住んでいたモーテルの映像を見ると、まさにアメリカによくあるタイプの安モーテル。そこでたくさんの兄弟と日常生活を送る少女が、現在のような輝かしい将来を迎えるとは想像しにくいかもしれません。

転機は13歳の時に訪れました。先生の勧めでアフタースクールのバレエクラスを見学したのです。

私の初めてのバレエレッスンはバスケットボールのコートでした。体操着とソックスでバレエとかいうことに挑戦しようとしていました。何も知らなかったんです。

CBS News」より翻訳引用

そこで彼女の人生を変えるコーチと運命的な出会いをしました。

(コーチの)ブラッドリー女史は、ミスティ・コープランドは才能があったと言います。振り付けをすぐ覚えてしまうのです。爪先で立つのに通常は3年かかるところ、ミスティは3ヶ月でした。

CBS News」より翻訳引用 

バレエに専念するため、ミスティは家族と離れコーチ家族と同居。また15歳の時には母親から独立するため法廷に立ちました。13歳までクラシック音楽すら聞いたことがなかった少女が、勇敢にも全てを捨てて未知の世界に進む決断をしたのです。

チュチュすら似合わない

残念なことに、メジャーなバレエ団にアフリカ系のバレリーナは少数しかいません。

役に合わない、成功しない、身体が違う...と彼らは言われてきました。

今でも、似合う脚をしていないし筋肉が大きすぎるので、私はチュチュを着るべきでないという声を耳にします。

CBS News」より翻訳引用

努力しても行き着くゴールはないかもしれない。そこでがむしゃらに頑張れたのは彼女の精神性の高さがあったからでしょう。ダンサーに付き物である怪我も乗り越え、ABTのプリンシパルという、アフリカ系ダンサーとして前人未到の栄誉を手にし、バレエ界に新時代をもたらしたのです。

自由の国のバレエ、新しい幕開け

ところで先日の7月4日は独立記念日でした。移民からなる自由の国の誕生日を国民が盛大に祝ったわけですが、ABTはその「アメリカ」のバレエ団です。そこには様々な人種がいてこそ、と個人的には今回の彼女の歴史的快挙に大いに共感しています。いわば、女性版『ビリー・エリオット』ともいえるミスティの人生。

8月にはブロードウェイミュージカルに出演が決定。これからもバレリーナの枠を超え、既成の枠をどんどん打ち破って活躍する彼女の姿を見ていきたいです。

CBS News

photo by Getty images

(神田朝子)

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