ブログ「Accidental Icon」(直訳すると「たまたまなったアイコン」)を運営するリン・スレーターさんは、そんな臆病さとは無縁。
彼女は、ニューヨークのフォーダム大学で社会福祉を研究する大学教授でありながら、61歳でファッションをテーマとしたブログを立ち上げ、インスタグラムでも2万3千人以上のフォロワーを集めているのです。
彼女の姿を、「ユニクロ」の冊子「The LifeWear Book」の中で目にした人も多いのではないでしょうか。
ファッションは人生を豊かにするリンさんは若い頃からファッションに強い興味があり、独自のスタイルを持っていたと言います。ブログやInstagramなどで公開しているスタイルは、モノトーンを基調としつつも、けっして単調ではありません。大きめのアクセサリーや大胆な柄、異なる素材の組み合わせでとても奥行きがあります。
リンさんのブログは、単に自分の服装を公開しているだけではありません。「もろいのに強い、そんな風に感じたいときに何を着る?」「新しい体験や人を惹きつけたいとき、何を着る?」といった、リンさん独自の考え方や読者への投げかけに満ちています。
ファッションを単なる表面的なものとしてではなく、人間を豊かにするものとして知的に捉えているようです。
そんなリンさんに、働く日本人女性として気になることを質問しました。ひとつひとつ、とても丁寧に答えてくださいました。
Q.「ファッション大好きだけど、職場の雰囲気が気になっておしゃれを躊躇してしまう」、という女性にアドバイスはありますか?A.まず女性は、自分の職場での行動は組織に大きく貢献するのだと自信を持つべきだと思います。
そのため幸い、有能だと思われるようになりました。その自信があるので、私は他の人と多少違う服装をするというリスクを取っても不安にはなりませんでした。
私には、一定の基準があります。会議に参加するとき、カンファレンスで話をするとき、教室に入るとき、そこにいる人に「Oh、独特だ」と言わせたいのです。ただしコツは、誰にも場違いだとかエキセントリックだとか言われないような服装にすることです。
私はそれを、色とデザイナーの選び方によって実現しています。
Q.アカデミックな環境で、ご自分のスタイルをどうやって維持してきましたか?
私はオフィス用には黒と白を好んで使いますが、それは黒と白が一般的に地味で、厳粛だと思われているからです。だから他の人を不快にすることもなく、真面目な人物が真面目な仕事をするためにそこにいるのだと受け止めてもらえます。
山本耀司が言うように、「黒は謙虚であると同時に傲慢」であり、私にとって完ぺきなのです。黒と白を選ぶことで、カッティングやシルエットで遊べます。大学ではかなりフォーマルにしたいので、素材や仕立ても重要です。
私がいつも日本のデザイナーの服を着ているのには、こういったたくさんの理由があるのです。
Q.普通の、そこまで自分に自信を持てない人がファッションで自分を表現するには、どうすればいいと思われますか?A.興味深い質問ですね。ここでも山本耀司による、ファッションの真の目的は「女性の苦しみを軽減し、より自由と自立を手に入れるためであるべきだ」という言葉を振り返ってみます。そして、「どうすれば服が私の苦しみを軽減し、より自由にさせてくれるだろう?」と問いかけるのです。
思うに、まずそれまで自分と服との関係がどんなものだったかを考えるべきだと思います。服を選ぶとき、その服をよく見て、それが自分について何を語ってくれそうか、着たときに自分がどう感じるかを理解しようとしてみるのです。その服は、着ると自信が湧いてくるでしょうか?
もうひとつのアプローチは、自分のエッセンスを表す言葉を4つ見きわめることです。私の場合それは、「さりげない、刺激的、知的」(nonchalant、provocative、intellectual)です。次に自分のワードローブを見てみて、「どの服が、自分をどう表現するだろう?」と自問するのです。
何を着るか、着ることで何を得るかを考えることで、ファッションで自分を表現する目的を持つようになります。
最後に、私は自分のスタイルを時間をかけて発展させてきましたが、その始まりは小さなリスクを取って変化を付けることからでした。たとえばすごく大きなイヤリングを着けてみたところ、ほめ言葉をたくさんかけられました。
次にまた何か初めてのものにトライしてみたところ同じことが起き、最終的にはもっと大きなリスク、大きなリスクを取る自信が付いてきました。
Q.リンさんがブログを開始されたのは比較的最近です。何がきっかけだったのでしょう?A.私はかなり最近まで別のキャリアにフォーカスしていたし、娘を育ててもいました。ブログにかける時間やリソースが本当になかったのです。身の回りのことが落ち着いてきたときに、クリエイティブな目的を持てるような、新たな道を探し始めました。
そんななか、地元のファッションカレッジの勉強会に参加しているとき、ブログを始めるというアイデアが浮かんだのです。教授も、クラスの人たちも、私のスタイルやファッションについての考えに興味を持ち、ファッションについて書くようすすめてくれました。
幸運なことに私のパートナーのカルバンはフォトグラファーで、私の写真を撮ってくれます。私は研究者であり教育者でもあるので、ものの書き方や、人の興味を引く方法はわかっていました。ソーシャルメディアについての講座も受けました。
さらにリサーチをして、他のファッションブログとは違う見え方をするようにしたいと考えました。
ブログをはじめて、世間の反響には驚いたし、素晴らしかったです。
***
「仕事では色を控えめにする分、形や素材で冒険」「自分のエッセンスを表す言葉を4つ見きわめる」「小さなリスクをひとつずつ取っていく」などなど、全力でメモを取りたくなるようなお洒落のコツを惜しみなく明かしてくれた彼女。いつまでも新しい道を探す貪欲さやフットワークの軽さは、見習っていきたいです。
年末にはユナイテッド・アローズでの撮影があったり、ファッションメディア「Refinery 29」のホリデーカレンダーに登場したりと活躍の場をさらに広げているリンさん。これからもますます注目です。
[Accidental Icon]