大学卒業後にすぐエンジニアとして就職したのではなく、メディア業界へ。そこでの経験が、閑歳さん独自のキャリアに一役も二役も買っている。そこには、肩肘張らずに好きなことを突き詰めてきた、女性ならではのしなやかさが見て取れる。
プログラム言語との出会いが「やりたい!」気持ちをあと押し大学時代にC言語を学んだり、仲間内でネットサービスをつくったりしていた閑歳さん。ところが"優秀すぎる"友人と自分を比較し、向いていないとエンジニアの道を断念していた。卒業後は出版社に就職し、通信系の記事を担当する記者となる。
世間は、ブロードバンドの幕開け。業界が様変わりしていくのを見るのは大変おもしろかったものの、大学時代の同級生が立ち上げた受託開発の会社に誘われ、転職することに。
「開発をしたいのはやまやまでしたが、技術的なスキルがないのでディレクターという役割でした。ところがその後、Ruby on Railsというプログラム言語が登場して、少ないコマンドでアプリケーションが作れるのを知り、『やりたい!』と思ったんです」
「こういうものが作りたい」というアイデアがあれば、比較的簡単な操作でひな形を一気に作れる。衝撃を受け、勉強のための小さなアプリケーションを最初から最後まで作ってみることに。これまで手探りだったプログラミングの全体感がわかった、と実感した瞬間だった。
ところが、まだ周囲からエンジニアとして認知されたわけではなかった。
「自分がつくれるものを知ってもらわないと、認めてもらえないと考えました。ちょうど自分の結婚式が控えていて、当時はみんながガラケーで写真を撮る時代。結婚式で撮った写真を指定されたメールアドレスに送ると、その場でスライドショーとして会場に映し出されるようなアプリケーションを作ったんです」
アプリケーションはうまくできたものの、「結婚披露宴はそういう場じゃないのではないか」という"そもそもの疑問"がよぎり、結局発表しないことに。
しかしせっかく作ったサービスだからと、一般向けに公開。有名ブロガーやメディアにメールで告知したところ、記事に取り上げられたり、インタビューされるなどトントン拍子に注目を浴びる。コンテストで 100万円の賞金を受け取ったこともあった。
会社に通いながら、夜中にアプリ開発を続ける日々その後、2度目の転職。エンジニアとして初めての採用だったが、初期のメンバーは社長と閑歳さんの2人だけ。
「会社では、企業向けにアクセス解析の製品を作っていてやりがいがありましたが、徐々にコンシューマー向けのものをつくりたいと思いはじめたのです」
そんなときに登場したのがiPhone。技術系の人は当たり前のように持っていたが、一般ユーザーに浸透するまでには至っていない。閑歳さんは、普通の人が当たり前に持つだろう未来を見据えていた。
「たくさんの人に使ってもらいたいと考えたとき、自分の母親をイメージしました。母はどんなアプリなら入れてくれるだろう、と。そこで思い至ったのが『お金』です。使わない人はいないし、悩んでいる人も多い。うまく使えて管理できれば、人生の幅が広がるんじゃないかと、家計簿アプリに行き着いたのです」
会社の仕事をこなしながら、家でこつこつ「Zaim」のアプリ開発を続ける。「当たるか分らない、博打みたいな感じ」と言うが、リリース後の人気はうなぎ登りで数十万ダウンロードに達する。個人名でリリースしていたため、お金の情報を預かる責任も感じ、会社を辞めて「Zaim」を法人化した。
会社を興してからは、数千万という投資を受けたり、人を雇用するなど、初めてのことばかり。アプリのバージョンアップ後にトラブルが発生し「もうダメかもしれない」と心底思う数日間も味わった。紆余曲折あったものの、現在はノウハウが蓄積され、サービスも軌道に乗っている。そんななか、自分自身の将来はどのように考えているのだろうか。
「自分のことはあまり考えていないです。
社員も「開発が好きで、ユーザーのことをちゃんと考えている」人を採用するようにしており、「この人が何かミスをしたとしても、自分が頭を下げることが苦にならない」と考えることができる。お互いにリスペクトし合い、心地いい人たちと働く。
"大きくて美しい夢"なんてなくても、死ぬまで続けたいほど大好きなことが見つかればいい――閑歳さんは自らの人生で、そんな自然な姿を体現しているのかもしれない。
Zaim 代表取締役
日経BP社にて専門誌の記者に従事した後、Web業界に転職。その後個人で開発していた家計簿サービス「Zaim」を2012年に株式会社化。500万ダウンロードを超える日本最大級のサービスへと成長している。経済産業省主催「流通・物流分野における情報の利活用に関する研究会」委員、公益財団法人日本デザイン振興会主催グッドデザイン賞審査委員。
[Zaim]
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