しかし、瀬戸内晴美の名で小説を発表していた当時、「子宮作家」と批判され、文壇から干された原因となった問題作があった。
それこそが、賛否を巻き起こした鮮烈な恋愛文学『花芯』。発表から59年の時を経てついに映画化が実現し、注目を集めている。
親が決めた許婚と結婚し、愛のない生活を続けていたある日、夫の上司との出会いで初めて恋を知ることになる主人公の園子。精神的にも肉体的にも体当たりとなる難しい役どころを演じたのは、若手女優として活躍中の村川絵梨さん。
純朴であどけない印象が残る彼女に、これまでとは異なる役に初挑戦した思いや本作を通して感じた恋愛観について語ってもらった。
「瀬戸内寂聴さんも観てくださることですし、中途半端なことはできないという覚悟はありました。現場に入るまではどうなるかわからないし、とにかく不安が強かったですね。でも、この役とゆっくり向き合う準備期間があったので、いざ撮影に入ったら、戸惑うことなくあっという間に過ぎました」
瀬戸内さんからは「主人公の全裸体の美しさ! 身体を張った捨て身の演技の迫力に感動!」という絶賛コメントも寄せられているが、実際にご本人と話しをする機会にも恵まれたという。
「観てくださった後に、『よくがんばったわね。でも、そんながんばらなくていいのに』とカラッとした感じで言っていただきました(笑)。あまり喋らない役でしたし、私が体を張ることが作品の強さとなり、みなさんに伝わってほしいと思っていたので、評価していただけて嬉しかったです」
女性が感じる恋愛や性愛においては、背景の違う現代でも不変のもの。『花芯』のそういう部分が多くの女性を惹きつけている要因でもあるが、村川さんも一読者として引き込まれたそう。
「おもしろかったのは、夫と夜を共にしているシーンで、台本に『鼻をかく』と書いてあったこと。必死な男性とは対照的に、そうやって女性が冷静でいることって結構ありませんか? でも、体は反応してしまう。そこが子宮って偉大でありせつないところでもあると感じました」
中国語で「子宮」という意味の『花芯』。本能的にどうしようもなく人を好きになるとき、女性にとって子宮こそが「第二の脳」ではないかと思ってしまうほど。本作には、そんな女性たちを内側から熱くする2人の男性が登場するのも見逃せない。それは、林遣都さんと安藤政信さん。
「まったくタイプの違うおふたりとの共演は刺激的でした。林くんは本当に真面目で、役に真摯に向き合うので、熱量もすごく高いんです。今回、私と林くんにとってはチャレンジすることが多かったので、戦友のような感じでした。そして安藤さんはふわっとした風のような方。ほめ言葉もすぐに口にされるので、日本人っぽくないというか、本当に自由な感じ。おかげで、ガチっとなっていた気持ちが少しゆるまりました」
感情に素直に従うヒロインの園子と気持ちを抑え込む妹の蓉子という対照的な女性たちも見どころであり、それぞれに共感してしまう人も多いはず。
「簡単に『愛してる』とか言わないほうが良いなって。やっぱり、愛は深いものですよね。一方で私自身は、まだ愛というものにはたどり着けてないなと感じました。『愛するってどういうことだろう?』と自分の人生を見つめ返してみたり」
そして、結婚観にも微妙な変化が。
「園子は『結婚なんて事務的な日常の取り決め』と言い切ります。私はそこまでは思わないまでも、紙の契約にすぎないと感じるところはあるので、結婚できないタイプかもしれません(笑)。結婚すると相手の嫌な部分も受け入れたりしないといけないのだと思いますが、我慢できない性格が、園子に少し似ているんです。
でも、そこに向き合うと女性としてのレベルが上がるよ、と周囲からたしなめられたりしています。老後を迎えたときに、気がついたらこの人と一番長くいた......という人と結婚するのがいいかもしれないですね」
自由恋愛が許されなかった時代に、恋に踏み込んでいく園子。ある意味、いまのキャリア女性の先駆け的な存在かもしれない。
「園子は執着をしない人なので、孤独を感じず、強くたくましく生きています。
大人の艶っぽさと着物を着こなす凛とした姿から漂う色気は、女優としても、女性としても、本作で新たな一歩を踏み出したことがうかがえる。すべてを物語る印象的な瞳に吸い込まれるように、覗いてはいけない世界観に浸ってみては?
(C)2016『花芯』製作委員会
『花芯』
2016年8月6日(土)テアトル新宿ほか全国公開
原作:『花芯』瀬戸内寂聴著(講談社文庫刊)
監督:安藤尋 脚本:黒沢久子
出演:村川絵梨、林遣都、安藤政信/毬谷友子
配給:クロックスワークス
製作:東映ビデオ、クロックスワークス
http://www.kashin-movie.com/
撮影/土佐麻理子 ヘアメイク/フジワラミホコ(LUCK HAIR) 衣装協力/銀座いち利
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